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公共 公民 | 高等学校学習指導要領分析

2018(平成30)年3月に告示された高等学校学習指導要領の分析報告

*2018年7月に公開された「高等学校学習指導要領解説」の分析を踏まえ、分析結果を修正・追記しました。(2018年10月)
*2021年3⽉に公表された「平成30年告示高等学校学習指導要領に対応した令和7年度大学入学共通テストからの出題教科・科目について」を踏まえ、分析結果を修正・追記しました。(2021年5⽉)

1.今回の改訂の特徴

「公共」は、「現代社会」の廃止に伴い、新学習指導要領のもと、新たに設けられた科目である。この「公共」という新設科目の学習指導要領を分析するにあたっては、「公共」において扱われる内容が「現代社会」のそれに最も近いことから、「現代社会」の現行学習指導要領との違いを中心に追いかけることとした。

【1】育成する資質・能力について

●現行学習指導要領「現代社会」との違い(1)――「幸福、正義、公正」という視点を引き継ぎつつ、「社会的な見方・考え方」を働かせることを新たに強調している

「公共」の新学習指導要領の「目標」では、その冒頭において、「社会的な見方・考え方」を働かせ、現代の諸課題を追究したり解決したりする活動を通して、公民としての資質・能力を育成することを目指すことが述べられている。
ここにいう「社会的な見方・考え方」について、「高等学校学習指導要領解説 公民編(2018.7)」(以下『解説』)は、「公共」における「社会的な見方・考え方」は「人間と社会のあり方についての見方・考え方」であり、「社会的事象等を、倫理、政治、法、経済などに関わる多様な視点(概念や理論など)に着目して捉え、よりよい社会の構築や人間としての在り方生き方についての自覚を深めることに向けて、課題解決のための選択・判断に資する概念や理論等と関連付けて」働かせるものであると説明している。加えて『解説』は、「社会的な見方・考え方」を働かせる際に着目する視点として、「幸福、正義、公正」を挙げ、学習における追究の過程においては、「これらの視点を必要に応じて組み合わせて用いることが大切である」としている。「幸福、正義、公正」という視点を用いることは、「現代社会」の現行学習指導要領の「内容」においても言及されていた。このことから、これらの視点を重視する点において、「公共」と「現代社会」は共通しているといえるだろう。

●現行学習指導要領「現代社会」との違い(2)――「資質・能力の三つの柱」に沿って「目標」が示されている

「公共」の新学習指導要領の「目標」では、「現代社会」の学習指導要領のそれと異なり、育成することを目指す「公民としての資質・能力」が三つに大別する形で列挙されている。「中教審答申(2016.12.21 幼稚園、小学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について)」(以下、答申)では、学校教育法の学力の3要素(「知識・技能」「思考力、判断力、表現力等」「主体的に学習に取り組む態度」)を出発点にし、「資質・能力の三つの柱」として整理されていた。以下、「公共」の学習指導要領および『解説』が示す(1)~(3)の「目標」を確認する。
(1)では、「現代の諸課題を捉え考察し、選択・判断するための手掛かりとなる概念や理論」について理解し、「諸資料から、倫理的主体などとして活動するために必要となる情報を適切かつ効果的に調べまとめる技能」の習得を目指すことがうたわれている。この部分は、「①何を理解しているか、何ができるか(生きて働く『知識及び技能』の習得)」という一つ目の柱になぞらえたものとなっている。(1)に関連して、『解説』では、情報活用能力(情報を収集する技能、情報を適切かつ効果的に読み取る技能、読み取った情報を効果的にまとめる技能の「三つの技能」)を学習の中で養う重要性について述べられている。
(2)では、「現実社会の諸課題の解決に向けて、選択・判断の手掛かりとなる考え方や公共的な空間における基本的原理」を活用し、「事実を基に多面的・多角的に考察し公正に判断する力」や「合意形成や社会参画を視野に入れながら構想したことを議論する力」を育成する旨がうたわれている。この部分は、「②理解していること・できることをどう使うか(未知の状況にも対応できる『思考力、判断力、表現力等』の育成)」という二つ目の柱に重ねて読むことができる。なお、(2)の『解説』は、授業場面において、設定した適切な学習上の課題である主題に応じて、「協働して主題を追究したりする活動が展開されることとなる」と説明するなど、調べる・議論する・考察する・構想する・発表するなど協働に基づく「主体的・対話的で深い学び」を通じて、「思考力、判断力、表現力等」の養成をしようという趣旨のことを述べている。
(3)では、「よりよい社会の実現を視野に、現代の諸課題を主体的に解決しようとする態度」を養うとともに、「多面的・多角的な考察や深い理解を通して涵養される、現代社会に生きる人間としての在り方生き方」「公共的な空間に生き国民主権を担う公民として、自国を愛し、その平和と繁栄を図ること」「各国が相互に主権を尊重し、各国民が協力し合うこと」の大切さについての自覚を深めることが目標として示されている。この部分は、「③どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びを人生や社会に生かそうとする『学びに向かう力、人間性等』の涵養)」という三つ目の柱を意識したものとなっている。『解説』では、(3)は、「現代の諸課題について主体的に追究して、学習上の課題を意欲的に解決しようとする態度」や「よりよい社会の実現に向けて、多面的・多角的に考察、構想したことを社会生活に生かそうとする態度」、「主権者として、また、消費者などとしてそれぞれ求められる役割と責任などについて多面的・多角的に考察したり、深い理解につなげたりして、社会の発展に寄与する態度」、さらには「公共的な空間に生き国民主権を担う公民として、国家及び社会の有為な形成者として我が国が直面する課題の解決に向けて主体的に社会に関わろうとする態度」を育む旨を規定している、と説明されている。

●現行学習指導要領「現代社会」との違い(3)――育成をめざす資質・能力が、より広範で実践的なものに

「公共」の学習指導要領において新しく示されたもの(「現代社会」の学習指導要領の「目標」には示されていなかったもの)として、次のものを挙げることができる。

◇目標(1)より―――「諸資料から、倫理的主体などとして活動するために必要となる情報を適切かつ効果的に調べまとめる技能」の獲得
目標(1)について、『解説』は、情報を収集する技能、情報を適切かつ効果的に読み取る技能、そして読み取った情報を効果的にまとめる技能の「三つの技能」を学習の中で養う重要性について述べている。加えて『解説』は、諸資料の出典などを確認し、その信頼性を踏まえつつ適切に活用できるようにすることが大切であるとし、情報の出典や発信者の立場や意図を踏まえ、その信頼性や客観性、真偽などについて適切に吟味するよう指導を工夫することを求めている。

◇目標(2)(3)より―――「多面的・多角的に考察」することを重視
目標(2)の『解説』は、「多面的・多角的に考察」することの意味を述べている。また、目標(3)の『解説』は、「よりよい社会の実現に向けて、多面的・多角的に考察、構想したことを社会生活に生かそうとする態度」を養うことをめざすものと説明している。

◇目標(2)(3)より―――「諸課題の解決」に向けて必要となる力を養うという視点(「解決に向けて……する力を養う」「現代の諸課題を主体的に解決しようとする態度を養う」という視点)
目標(2)の『解説』は、授業場面において、設定した適切な学習上の課題である主題に応じ、その課題の解決のための選択・判断に資する概念や理論などを用いて、協働して主題を追究したり解決したりする活動が展開されることとなると説明している。また、『解説』は、目標(3)が「公共的な空間に生き国民主権を担う公民として、国家及び社会の有為な形成者として我が国が直面する課題の解決に向けて主体的に社会に関わろうとする態度」を育む旨の規定であることを説明している。

◇目標(2)より―――「公共的な空間における基本的原理を活用して、事実を基に多面的・多角的に考察し公正に判断する力」「合意形成や社会参画を視野に入れながら構想したことを議論する力」を育む
目標(2)について、『解説』は、収集した情報を取捨選択しながら事実を捉え、様々な立場の考え方があることを理解した上で判断する力を養成することや、機会の公正さや結果の公正さなど「公正」にも様々な意味合いがあることの理解に基づき、現実社会の諸課題について判断できるようになる力を養成することを求めるとしている。また、『解説』は、「合意形成や社会参画を視野に入れながら構想したことを議論する力」を養うことは、「公共」における表現力に関わるものであると述べている。そして、「公共」の学習において養われる表現力を、「学習の結果を効果的に発表したり文章にまとめたりする力」だけを意味するものではなく、「学習の過程で考察、構想したことについて議論することも含んでいる」と説明している。

◇目標(3)より―――「公共的な空間に生き国民主権を担う公民として、自国を愛し、その平和と繁栄を図ることや、各国が相互に主権を尊重し、各国民が協力し合うことの大切さについての自覚などを深める」ことをめざす
『解説』は、目標(3)が「公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと」(教育基本法及び学校教育基本法)をめざす規定であるという趣旨のことを述べている。また、具体的な指導場面として、「主権者として、また、消費者などとしてそれぞれ求められる役割を責任などについて多面的・多角的に考察したり、深い理解につなげたりして、社会の発展に寄与する態度を養う」ことを挙げている。

「公共」の学習指導要領の「目標」では、「現代社会」の学習指導要領のそれと比べ、必要な情報を適切に調べまとめる技能や、平和で民主的な国家や社会の形成者に必要な資質や能力を養成するという視点が加わるなど、育成する資質・能力の範囲が広がったといえる。また、諸課題の解決に向けて必要となる力(「現代社会」では主体的に考察し判断する力までにとどまり、解決に向けて必要となる力について言及していなかった)や議論する力(「現代社会」ではこの点に言及していなかった)の養成をめざすなど、これまで以上に実践的かつ「主体的・対話的で深い学び」の指導に重きが置かれている。

【2】科目構成と学習内容

●標準単位数――「公共」は2単位の科目として位置づけられる

2単位であり、従来と変化はない。

●科目の履修――「公共」は必修扱いとなる

前回の学習指導要領においては「公民のうち『現代社会』または『倫理』『政治・経済』のいずれかが必修」となっていたが、今回の学習指導要領では「公民のうち『公共』は必修」となった。

●カリキュラム編成――第1学年か第2学年に設置

「公共」については、学習指導要領において「『公共』は、原則として入学年次及びその次の年次の2か年のうちに履修させること」と指示されている。「公共」を履修した後に「倫理」や「政治・経済」を履修する指示もあることから、「公共」を第1学年で履修とした場合には「倫理」や「政治・経済」は第2・3学年のいずれかでの履修が可能だが、「公共」を第2学年で履修とした場合には、「倫理」や「政治・経済」は第3学年での履修に固定される。

●内容の変化――全般にわたって「主体的・対話的で深い学び」の要素を取り入れる

「公共」の学習指導要領の「内容」は、「A 公共の扉」「B 自立した主体としてよりよい社会の形成に参画する私たち」「C 持続可能な社会づくりの主体となる私たち」の三つの大項目から構成されている。「現代社会」の学習指導要領の「内容」は、「(1)私たちの生きる社会」「(2)現代社会と人間としての在り方生き方」「(3)共に生きる社会を目指して」という三つの大項目によって構成されていたが、これと比較すると、「公共」の学習指導要領の大項目では、「公共」「主体」「参画」といったキーワードが打ち出されている点に特徴がある。
AおよびBでは、「ア 知識及び技能を身に付けること」と「イ 思考力、判断力、表現力等を身に付けること」の二つが指導内容として明記されており、この点は「現代社会」の学習指導要領と大きく異なる。「現代社会」の学習指導要領の大項目においては、(1)と(2)は“知識事項の学習”、(3)は“課題探究型の学習”(いわゆる「主体的・対話的で深い学び」の実践)、と位置づけることができた。これに対し、「公共」の学習指導要領の大項目においては、AとBは“知識事項の学習+課題探究型の学習”(知識事項も学習するが、「主体的・対話的で深い学び」に重きを置き、課題探究型の学習も並行して取り組む)、Cは“より高度な課題探究型の学習”(説明や論述の実践など)、と位置づけることができるだろう。
なお、「内容」の『解説』では、「主体的・対話的で深い学び」を実現することをねらいとした、様々な授業場面の例が挙げられている。その一部を、以下に示す。

A 公共の扉
(1)公共的な空間を作る私たち
△授業場面の例――学校や地域などにおける生徒の自発的、自治的な活動
・祭りなどの、地域で受け継がれている伝統行事に生徒が企画や準備の段階から関わっている場面を取り上げ、自分たちが生活している社会が伝統や文化、宗教などに影響を受けていることの理解をもとに、行事を継承することの意義について考察しながら、公共的な空間の中で地域の発展のために自らが果たす役割を考察したり、社会と関わる中で自らの役割の価値や自分と役割との関係を見いだしていくことの大切さについて理解したりできるようにする。
(2)公共的な空間における人間としての在り方生き方
△授業場面の例――思考実験など概念的な枠組みを用いて考察する活動
・「最大多数の最大幸福を実現するが特定の人に大きな負担を課すことになる政策と、効用の総量を最大化できないがお互いを配慮し全員の効用を改善し得る政策とを比較し、どちらが望ましいと考えるか」や、「牧草地を共有している農民たちが、各自が利益を増やそうとして放牧する家畜の数を増やしすぎると、牧草地はどうなるか」などの課題を通して、公共的な空間における人間としての在り方生き方を多面的・多角的に考察し、表現できるようにする。
(3)公共的な空間における基本的原理
△授業場面の例――思考実験など概念的な枠組みを用いて考察する活動
・「犯罪を立証する証拠がない状況で、一緒に犯罪行為を働いた二人の囚人が一人ずつ取調べを受け、自分に有利で仲間に不利な条件を提示されて自白を迫られた場合、二人はどのような選択をすると考えられるか」や、「第三者から提供されたお金の配分の決定権を一方の者がもち、拒否することしかできないもう一方の者に不利な配分の提案が示されたとき、もう一方の者は拒否するかどうか」など、思考実験などの概念的な枠組みを用いて多面的・多角的に考察し、表現できるようにする。

B 自立した主体としてよりよい社会の形成に参画する私たち
(1)主として法に関わる事項
△授業場面の例――司法参加の意義をめぐる学び
・何のために刑罰が科されるのか、なぜあらかじめ犯罪と刑罰を法律で定めておく必要があるのか、なぜ検察審査会制度があるのか、裁判に国民が参加することにどのような意義があるのか、といった具体的な問いを設け主題を追究したり解決したりする。その際、たとえば、模擬裁判など、司法の手続きを模擬的に体験することにより、裁判や法律家が果たす役割、適正な手続き、証拠や論拠に基づき公平・公正に判断することについて多面的・多角的に考察、構想し、表現できるようにする。
(2)主として政治に関わる事項
△授業場面の例――政治参加と公正な世論の形成をめぐる学び
・議会制民主主義を通して私たちの意志を反映させるにはどうしたらいいか、なぜ議会を通して意思決定を行う必要があるのか、情報化やグローバル化が進む中で公正な世論はどのように形成され得るか、なぜ人々は不正確な情報を信じたり発信したりしてしまうのか、なぜ政治に参加するのか、といった、具体的な問いを設け主題を追究したり解決したりする。その際、たとえば、実際の選挙をイメージして何を基準に投票するとよいか、協働して考察し、選挙管理委員会などの専門機関の助言を得ながら、模擬選挙を実施することなどが考えられる。
(3)主として経済に関わる事項
△授業場面の例――職業選択をめぐる学び
・人工知能(AI)の進化によって、労働市場にはどのような影響があるか、技術革新や産業構造の変化によって、働き手に求められる能力はどのように変わるか、といった、具体的な問いを設け主題を追究したり解決したりする。その際、たとえば、働くことには賃金を得るだけではなく、自己の能力を発揮し、社会に参加するなどの意義があること、職業を選択するには各自の興味や適性、能力を知る必要があるが、これらは経験を積み、学習を深めることにより変化すること、などの観点から多面的・多角的に考察、構想し、表現できるようにする。

C 自立した主体としてよりよい社会の形成に参画する私たち
△授業場面の例――生徒自らが課題を設定し、探究する学習
・生徒自ら課題を設定し、課題の探究に必要な情報を収集し、読み取り・分析を行う。情報の読み取り・分析に基づき、課題の解決に向けて協働して考察、構想し、構想したことの妥当性や効果、実現可能性などを指標にして、論拠を基に自分の考えを説明、論述する。探究する課題の例として、「少子高齢化に伴う人口減少問題」や「生命倫理」、「地球環境問題」、「情報」、「資源・エネルギー問題」などが考えられる。

●内容の取扱いの変化――扱われる知識の範囲は「現代社会」と大きく変わらないが、その学習の方法は大きく変わっている

「公共」の学習指導要領の「内容」および「内容の取扱い」に登場する“知識項目に関わるキーワード”を見ると、Bに登場する「防災情報」を除くほぼすべての知識項目が、「現代社会」の学習指導要領において扱われた知識項目と合致する。このことから、「公共」という科目で扱われる知識項目の種類については、「現代社会」と大きく変わらないと考えられる。
ただし、AおよびBでは、「ア 知識及び技能を身に付けること」と「イ 思考力、判断力、表現力等を身に付けること」の二つを指導することがうたわれていることを考えると、「公共」で扱われる知識の範囲(知識項目の種類)は「現代社会」とほぼ同じであっても、それぞれの知識へのアプローチの仕方・学習の方法は大幅に変化するものと考えられる。このことに対応して、「公共」の教科書の内容も、知識項目の掲載方法で大きく変化することが予想される。たとえば、「調べてみよう」「話してみよう」「聞いてみよう」「書いてみよう」「実際に訪れてみよう」といった、「主体的・対話的で深い学び」を促すためのしかけを設けるページが積極的に採り入れられるのではないだろうか。また、先に示した「△授業場面の例」のような課題探究の主題を掲載したり、その課題探究の手がかりなどを掲載したりするページが増加することも予想される。
以下、「公共」の学習指導要領の「内容の取扱い」において見られた特徴や変更点の一部を列挙しておく。

◇内容について、大項目「A→B→C」の順序で取り扱うことが、明記された。
◇中学校社会科や他の科目との関連について、「項目相互の関連に留意しながら、全体としてのまとまりを工夫し、特定の事項だけに指導が偏らないようにすること」をうたう規定を設けている点は、「現代社会」と大きく変わらない。ただし、「既習の学習の成果を生かすこと」(「3.内容の取扱い(1)―ア」)、「小・中学校社会科などで鍛えられた見方・考え方に加え」(「3.内容の取扱い(3)―ウ」)、「小学校及び中学校で習得した知識などを基盤に」(「3.内容の取扱い(3)―カ」)といった文言は、「現代社会」の学習指導要領には見られないものであり、これまでよりも小・中学校の指導内容との接続を意識した記述となっている。
◇道徳教育の目標に基づき、指導計画を作成することが規定された。学習指導要領の「総則」によれば、「公共」は、高等学校の道徳教育の中核的な指導の場面の一つに位置づけられている。このことに関連して、『解説』は、「公共」の指導に際しては、中学校の道徳教育における指導を受け継ぐよう、十分関連を図る必要があると説明し、また、そうした関連を図る場合には、生徒の発達の段階を考慮し、指導内容が中学校から高等学校へと一層深化、発展したものとなるよう配慮する必要があるとしている。 
◇配慮事項の数が大幅に増加し、それぞれの記述量も大幅に増えた。
◇「公共」の学習指導要領では、「現代社会」の学習指導要領よりもきめ細かく、かつ高度な内容を含む留意事項が示されている。たとえば、「関係する専門家や関係諸機関などとの連携・協働を積極的に図り、社会との関わりを意識した主題を追究したり解決したりする活動の充実を図るようにする」と示し、外部の人間との連携・協働を積極的に図るよう促している。
◇「この科目においては、キャリア教育の充実の観点から、特別活動などと連携し、自立した主体として社会に参画する力を育む中核的機能を担うことが求められることに留意すること」という記述が見られるが、「現代社会」の学習指導要領ではこれに相当する記述は見られなかった。
◇資料の活用をめぐっては、「現代社会」の学習指導要領が「的確な資料に基づいて、社会的事象に対する客観的かつ公正なものの見方や考え方を育成するとともに、学び方の習得を図ること」と記述していたのに対し、「公共」の学習指導要領は、「考察、構想させる場合には、資料から必要な情報を読み取らせて解釈させたり、議論などを行って考えを深めさせたりするなどの工夫をすること」と記述している。
◇表現力をめぐっては、「現代社会」の学習指導要領が「学習の過程で考察したことや学習の成果を適切に表現させるよう留意すること」と記述していたのに対し、「公共」の学習指導要領は、「選択・判断の手掛かりとなる考え方や公共的な空間における基本的原理を活用して、事実を基に多面的・多角的に考察し公正に判断する力を養うとともに、考察、構想したことを説明したり、論拠を基に自分の意見を説明、論述させたりすることにより、思考力、判断力、表現力等を養うこと」と記述している。

2.高等学校への影響

●「主体的・対話的で深い学び」の導入――発表や論述、討論などに割く時間は拡大

『解説』は、「全体としての調和のとれた指導計画を作成し、内容の全般にわたって偏りのない指導をすることが必要である」(「3 指導計画の作成と指導上の配慮事項」)と説明し、「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力」「学びに向かう力、人間性等」をバランスよく習得できる指導計画の作成を求めている。
『解説』を踏まえて指導計画を作成した場合、「現代社会」と比べ、発表や論述、討論などに割く時間が増加することは間違いないだろう。しかも、「△授業場面の例」が三つの大項目すべてにおいて示されていることから、授業時間の多くを“課題探究型の学習”、いわゆる「主体的・対話的で深い学び」に割くことになると考えられる。
なお、新学習指導要領では、「協働」という文言が多く用いられている。「アクティブ・ラーニングの実施」といった文言を用いているわけではないが、ペア・ワークによる対話やチーム(グループ)を形成した上での調査・発表など、「主体的・対話的で深い学び」の要素を様々な形で柔軟に採り入れていく必要があるだろう。

●コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段の活用――積極的に活用することが求められる

『解説』は、「第3章 各科目にわたる指導計画の作成と内容の取扱い」において、「学校教育の情報化の進展に対応する観点から、情報の収集、処理や発表などに当たっては、学校図書館や地域の公共施設などを活用するとともに、コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を積極的に活用することが大切である」(「2 内容の取扱いに当たっての配慮事項」)と説明するとともに、「様々な情報を多様な方法で生徒に提示することにより、生徒自身、課題の追究や解決の見通しをもって、主体的に学習に取り組むことが可能となる」として、情報手段の活用を促している。
「公共」の授業場面では、生徒自らが課題を設定し、探究する学習を実施することが少なくない。コンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を積極的に活用するように生徒を指導していくことが必要となるだろう。また、情報モラルの指導に留意することも大切となる。

●公民に属する他の科目との関係――「倫理」「政治・経済」との連携

『解説』は、「『公共』の内容と公民に属する他の科目の内容との間には共通するものが存在するが、必履修科目である『公共』と、選択科目である「倫理」及び「政治・経済」の性格及び目標によってその扱いは異なることから、各科目を担当する教師間の連携を密にすることが必要である」(『解説』「3 指導計画の作成と指導上の配慮事項」)と説明している。この説明は、公民三科目のいずれにおいても“知識事項の学習”と“課題探究型の学習”の両方を重視することを意図したものであると考えられる。

3.大学入試への影響

●大学入学共通テストに与える影響について――大学入学共通テストの「現代社会」および「公共」のサンプル問題の内容に注意したい

2025(令和7)年度の大学入学共通テストから、公民が関係する出題科目は、『公共,倫理』『公共,政治・経済』『地理総合,歴史総合,公共』の3種類となる。「公共」の領域からの出題は、大学入試センターが2021年3月に公表した『公共』のサンプル問題に近い出題形式が取り入れられる可能性が高い。『公共』のサンプル問題の設問は、数ページにわたる資料を読み取らせるなど情報処理能力を試す点や、生徒主体の学習場面を意識したつくりの設問を積極的にとり入れている点、意見や資料を多面的・多角的に考察させる意図の設問を出題している点などに特徴があり、「主体的・対話的で深い学び」を強く意識したものとなっている。

<新課程>共通テスト サンプル問題分析(受験情報コースへ遷移します)

●個別入試に与える影響について――試験科目として新たに「公共」が設けられる可能性は高くない

共通テストの科目構成の変化に伴い個別入試における試験科目の再編が積極的に進められた場合には、『公共』『公共、倫理』『公共、政治・経済』『地理総合、歴史総合、公共』が試験科目として設けられる可能性は考えられる。しかし、現行の個別入試において『現代社会』や『倫理』を試験科目として設けている例がごく少数にとどまっていることから、公民科目を新規に出題できる体制が整っているとは考えにくい。個別入試において「公共」の領域を含む新たな試験科目を設ける可能性は低く,地理歴史科の入試科目が(たとえば従来の「日本史」が「歴史総合+日本史探究」に再編されるように)再編された大学において、それに併せて科目の親和性から従来の「政治・経済」を「公共、政治・経済」という形とすることが考えられる程度ではないだろうか。

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