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大学入試センターから公表された共通テストサンプル問題の分析
概要
2021年3月に大学入試センターは、参考資料として『地理総合』『歴史総合』『公共』『情報』のサンプル問題を公表した。2025年度共通テストから新たな試験科目として検討中のこれらの科目について、 具体的なイメージを共有するために作成・公表しており、実際の問題セットのイメージや試験時間を考慮したものではない。今後、大学入学者選抜としての適切な出題につ いて引き続き検討することとしている。ここでは『地理総合』『歴史総合』『公共』のサンプル問題の分析結果をお届けする。
地理総合
[問題構成]
[分量・難易度]
サンプル問題は「大問3題、マーク数12、ページ数18」であった。本サンプル問題は「実際の問題セットをイメージしたものや試験時間を考慮したもの」ではないため、共通テストとの比較は難しいものの、2021年度共通テストの地理Aや地理Bと比べて、1マーク(設問)あたりに提示されている情報量(図表や資料など)は多い印象である。使用素材数は、図9、表5、写真1であった。
大問3題ともに場面設定が用いられ、思考力や判断力が試されている。ただ、2021年度大学入学共通テストに比べて、設定に複雑さがなく、図表の読み取りが平易であったことに加え、常識的な知識で判断が可能な問題がほとんどであった。
[特徴]
「5歳未満児の死亡率を下げるための解決策と、地球的課題の現状を組み合わせて考察する設問」や「人口減少・高齢化が進む地域を対象に、各種施設へのアクセスに関する課題の解決策を構想する設問」「平成の大合併における成果と課題について考察する設問」などのような、課題とその対策、そしてその成果などの因果を問う出題が見られた。これらは、新しい学習指導要領の目標の1つである「…地理的な課題の解決に向けて構想したりする力や、考察、構想したことを効果的に説明したり、それらを基に議論したりする力を養う」ことに沿った出題といえる。
また、2021年度大学入学共通テストは、多様な場面設定を用いて図表や写真などを多用し、受験生に対して思考力や判断力を求める設問が多かったが、サンプル問題もこれを踏襲している。
[学習対策]
上述したような新しい学習指導要領の目標に沿った問題に対応するためには、アクティブ・ラーニング型の授業を積極的に活用することが重要である。知識を覚えるだけでなく、「なぜそうなるのか」という興味を持ち、理解を深める姿勢も大切である。新学習指導要領には小・中・高等学校の一貫性の観点が述べられており、本サンプル問題には中学校社会科地理的分野で学習した内容を活用できるものもみられた。構想、考察する力には小学校社会科、中学校社会科地理的分野において得た知識もおろそかにしてはならない。また、従来通り、図表の読み取りを中心とした問題がほとんどを占めることから、共通テストや大学入試センター試験の過去問演習により、短時間で的確に読み取る力を養うことも重要である。
歴史総合
[問題構成]
[分量・難易度]
サンプル問題は「大問2題、マーク数11、ページ数17」であった。本サンプル問題は「実際の問題セットをイメージしたものや試験時間を考慮したもの」ではないため、共通テストとの比較は難しいが、2021年度共通テストの日本史や世界史と比べて、1マーク(設問)あたりに提示されている情報量(図表や資料など)はやや多い。
設問で取り扱われた歴史事項・用語は共通テストとほぼ同じ水準であり、現行の日本史・世界史の枠組みからみても妥当な難易度といえる。
[特徴]
サンプル問題は2題とも歴史総合の授業で課題を追求する場面設定となっており、複数の資料の中で使われている「自由」の語のそれぞれの意味を問うたり、オスマン帝国と日本の憲法制定過程を比較させたりするなど、新しい学習指導要領が重視している「現代的な諸課題の形成に関わる近現代の歴史」を意識した出題内容となっている。
歴史総合は新しい科目であるため、現行の共通テストとの比較はできないが、形式面は類似している。全問、史料・図版・グラフなど諸資料を利用した設問であり、単に歴史用語を問う設問や歴史用語の知識だけで解ける設問は少なく、思考力・判断力を問おうとする現行の共通テストの日本史・世界史の方向性を強めた内容になっている。
[学習対策]
日本史・世界史という枠を超えた新しい科目であることを意識した指導が必要と思われる。出題内容や新しい学習指導要領の反映状況から判断して、現代的な諸課題を意識した指導・学習が必要と思われる。その際、歴史の縦軸だけでなく、地域や国を超えた横軸の理解にも留意する必要があるだろう。
史料・地図・図版・グラフなど統計資料を駆使した出題が予想される。諸資料に対する解釈・読解力の養成は不可欠であろう。
また、学習の土台を作るために中学校の社会科をしっかりと学習しておきたい。
なお、「歴史総合」は近現代史を扱う科目であるため、現時点での学習対策としては、共通テストの日本史A・世界史A、試行調査の近現代部分の問題演習が有用である。思考力・判断力の前提となる知識・技能に関わる学力の養成という点ではセンター試験の日本史A・世界史Aの過去問演習も有用であろう。
公共
[問題構成]
[分量・難易度]
サンプル問題は、「大問3題、マーク数11、ページ数26」であった。本サンプル問題は「実際の問題セットをイメージしたものや試験時間を考慮したもの」ではないため、共通テストとの比較は難しいが、「大問5題、マーク数30、ページ数35」であった2021年度共通テストの現代社会と比べて、1マーク(設問)あたりに提示されている情報量(図表や資料の数など)が多くなっていることは明らかである。
全体的な難易度は「標準」。上述したように比較は難しいが、仮に試験として実施した場合、全体の得点率は2021年度共通テスト「現代社会」と大きく変わらないように思われる。資料を多く読む必要のある設問や計算作業に時間が必要な設問などがあり、解答に手間取るものが多々見られる他、資料を活用する難度の高い設問もみられる。
[特徴]
新しい学習指導要領に即した内容となっている。新しい学習指導要領解説に例示されているテーマや模擬裁判のような体験に準じた場面設定の出題、また、新しい学習指導要領で重視されている資料を読み取る活動や社会の課題について協働して考察し構想することなども設問のテーマ・場面設定として活かされている。
出題傾向としては、2021年度共通テストで設問の多くを占めていた知識をストレートに問う設問(4択短文正誤問題など)はかなり少なくなり、情報量(文章量や資料の数)の多い新形式の設問が目立つ。特に資料読取型の設問に関しては、教科書等で扱われていない資料や指標に関する説明を読ませる工夫がなされていたり、単位や人口に注意しながら計算・比較させたりするなど2021年度共通テストよりも高度な読取能力を必要とする。
[学習対策]
探究学習において、「調べる」「議論する」「考察する」「構想する」「発表する」など、協働に基づく「主体的・対話的で深い学び」を通じて、「思考力、判断力、表現力等」を養成していくことが必要だろう。また、これからの受験生は、学校でのこのような授業に、意欲的・積極的に参加することが対策になるだろう。
また、探究学習では、ほぼ馴染のない資料とその説明を読み込んで理解する力や、その資料をどのように活用できるか、どう判断したら良いのかという資料活用能力を育成することも重要となる。
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