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K会講師OB・OGによるコラム K会

現在はさまざまな学術分野や産業界で活躍するK会数学科の元講師達によるコラムです。

数学科の元講師達が数学とどのように出会い、学び、今も向き合っているのか。数学の魅力とは何か、その思いを語ります。

「数学の味わい方」増田 成希

増田 成希

皆さんにとって、数学とは何でしょうか。本稿の読者であれば、数学に興味のある方も多いのでしょうが、数学が苦手な方、好きになれないと感じている方もいらっしゃるかと思います。また、算数や数学の問題のパズル的な面白さ、あっと驚く解法を見たときの興奮、悪戦苦闘しつつどうにか答えに辿り着く達成感を感じたことはあっても、現在進行形の学問としては意識したことがないかもしれません。

数学に関わる人にその魅力を尋ねれば、様々な答えが得られるでしょう。共感できるか否かは性格と経験次第で、結局は自分に合った数学の魅力を発見するほかありません。私自身、大学院生として数学を研究していく段階に入り、自分の数学観の育て方に向き合う必要性が益々高まってきたと感じています。

さて、数学の特徴の一つとして、論理的な正しさ以外に縛られない自由さがあります。これは数学が普遍的な真理であること、そして広範な応用可能性を持つことの礎であり、数学の魅力の一つには間違いないのですが、自由さは暗闇にも似て、人は指針なしにはどう進むべきか途方にくれてしまうものです。出発点と結論に少し距離があるだけの応用問題でも、なんとなく目先の式変形を書き連ねるだけでは結論に近づいてすらいない、ということが起こりがちです。ゴールが定まっていない数学の研究となれば、方向感覚はなおさら重要です。正しい命題はいくらでもありますが、それら無数の砂粒のなす山脈を探検し、「定理」と呼ぶに相応しい一際輝く石を見出すには、概念や命題の価値を見極めて進路を選ぶ必要があるのです。
例えば、何がありきたりで、何が容易には得難く有用な命題なのか、という経験と知識に基づいた直観があれば、大まかに地形を読んで、どこに登らなければならない崖があるのか、といった方針を立てやすくなります。この判断はある程度客観的なものですが、より主観的な価値判断、つまり個人の嗜好や美的感覚も数学においては不可欠です。これは、数学が「心で理解するもの」だからです。

例えば、学校で習う数学は、論理的にはさほど分量が多く複雑なものというわけではありません。多くの場合、数学が苦手なのは、数学的概念を心理的に受容できていないからだと思われます。逆に、苦手意識のあった内容でも、自分の心にすっと馴染む説明を見つけるだけで、周辺の事項も含めてたちまち愛着を伴って理解できてしまうこともあります。数学は人間の精神的活動ですから、主観的に「良い」と感じられることは論理的な正しさに負けず劣らず重要ですし、腑に落ちる理解を追求することは、しばしば直観を強化することにも繋がります。

皆さんが今数学を好きでなくとも、自分は精神的に数学には合わないのだと諦めることはありません。数学に限らず、良いものの価値は必ずしも明らかではなく、意識的な訓練により初めて認められるようになることも多いようです。「価値が分かる人」になるには、良い素材に触れて自ら考え、その過程で得た喜びを余韻までじっくり味わい、可能ならば人にも共有して、心の中に印象を持って定着させる経験を積むことが何よりの近道なのではないでしょうか。K会は、数学の面白さを発見するための沢山の材料と、感動や疑問を共有できる仲間と講師が揃った理想的な環境です。皆さんが学ぶ数学は、もともとは道も何もなかった暗闇の中の未踏峰を、先人たちが嗅覚を頼りに切り拓いて光を当ててきたものです。背後に一人ひとりの人間がいることを意識して数学を眺めると、よくできているなぁ、どうしてこんな理論を見出せたのだろう、と感嘆せずにはいられません。皆さんも、ぜひ開けた心を持って、自分なりの数学の味わい方を探求してみてください。

「数学との関わり方」菊地 雄介

菊地 雄介

このコラムを書くにあたって、私の中学高校時代を振り返ってみて、今の私が中高生の皆さんに何を伝えられるか考えてみました。ここでは、私が辿ってきた道筋を示しながら、数学との多様な関わり方について述べたいと思います。

小学校卒業までの私にとって算数は実は不得意分野でした。算盤を習っていたため計算は早かったのですが、中学受験で出るような複雑な問題は平均の出来でした。今思うと、当時は塾に通っておらず家で通信の教材で勉強をしていたため、体系的に勉強が出来ていなかったのだと思います。あまり良い点が取れなかったので当時は算数に大した興味はありませんでした。

そんな状況が変わったのは中学校で算数が数学になったときです。数学で文字式という抽象度が高い対象が導入されたことにより、少数の規則でいろいろなことが説明できることに気づき、だんだんと面白く感じられるようになりました。
高校で筑駒に入ってからは周りの大学の数学を勉強している先輩後輩含めた友人に影響されて専門書も読むようになりました。高校2年生の時にK会のMⅢ・Xコース(現代数学1)に通い始め、優秀な講師の方々と素晴らしいテキストから多くを学びました。授業を理解して宿題をするのに1週間丸まるかかることもありましたが、その時得た理解は大学以上でも通用する基礎になりました。また、高校時代は純粋数学の研究者になることしか考えていませんでした。

大学入学後は、幸運にも先輩の講師の方にお声がけいただき、講師としてK会に携わらせていただきました。授業の仕方や教材作成の経験はティーチングアシスタントをする際に役に立っています。東京大学では、最初の一年半は専門を決めず、いろいろな分野の授業を受けます。その後、二年生の夏に進む学科を決めます。私は数学科に進むことを既定路線としながらも、ほかの学科の説明会に出席したりして、本当に様々な選択肢を考えました。最終的に、科学の基礎理論である数学をきちんと学べば大学院進学時に専攻を変えることはそこまで難しいことではないと考え、予定通り数学科に進学しました。結果的に選択は変わりませんでしたが、ここで様々な分野を見ておいたのはよい経験だったと思います。

数学科では確率論を中心に学びました。大学三年生の終わりごろになると大学院について考え始めるのですが、私は海外大学院へ進みたいと考えていました。自分の場合は、大学院では理論だけではなく実際の応用にも取り組みたいと思っていたからです。その場合、日本よりも海外の方が学位を活かして働ける選択肢が多いと考え、出願を決めました。この点については、少なくともアメリカの場合は正しいと思います。私が住んでいる地域はシリコンバレーに近いこともありますが、大学以外でも研究や高度な知識を活かせる職が多いです。

現在はカリフォルニア大学バークレー校工学部の博士課程に在籍して深層学習の医療画像への応用に取り組んでいます。深層学習とは、ニューラルネットワークという人間の脳を模倣した数理モデルを使って膨大なデータからパターンを見つけるという手法です。ここでは数学との関わりに注目したいと思います。実際にやることはデータの前処理やニューラルネットワークを学習させるためのプログラミングなど、手を動かすことが多いですが、これらには理論の理解が欠かせません。
また、データに基づいた手法の選択にも手法の数学的理解が必要です。

中高時代の私は数学と関わるには純粋数学の研究者になるしかないという強い思い込みがあったように思います。純粋数学を経て、応用寄りの分野へ移ってきた今はそれは間違いだといえます。数学はとても豊かで様々な関わり方ができます。皆さんも数学が好きで数学を将来活かしたいと思っているのであれば、様々な関わり方について調べて、その中から自分に一番合うものを選択してほしいと思います。

-K会数学科OB講師によるコラム-

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