-K会講師OB・OG講師によるコラム- 数学つれづれ草 2019年度 K会講師OB・OGによるコラム | K会
現在は様々な学術分野や産業界で活躍するK会数学科の元講師達によるコラムです。
数学科の元講師達が数学とどのように出会い、学び、今も向き合っているのか。数学の魅力とは何か、その思いを語ります。
「数学のいろいろな横顔」近藤 宏樹
数学はいつから好きですか?どういうきっかけで好きになったのですか?と聞かれることがあります。物心ついた頃には数学、というより数字に興味を持っていたようで、この質問にはうまく答えられませんが、その後いろいろな形で数学に関わった経験から、私が考える数学の魅力について紹介したいと思います。
小さい頃は、算数をパズルやゲームのように捉えており、答が出ることを純粋に楽しんでいました。中学生になると「算数」が「数学」に変わり、問題に対して単に答を出すことだけではなく、答を導き出す過程の面白さや、異なる問に対して同じアイデアが適用できるといった柔軟さに触れ、こうした数学的な考え方に惹かれるようになりました。K会の講習で整数論に触れたのもこの頃です。整数論では、例えば方程式,
x2-2y2=1
の整数解を求める場合に、整数の問題にも関わらずルートを含んだ数の世界の中で考えることで解の様子をよりよく見通せる、というような奥深さに感動したことを覚えています。数学オリンピックには中学1年の頃から挑戦し、国際大会に3度出場しました。国際大会での大きな成果は、3問に4時間半かけて取り組むという経験によってじっくり問題を考えた末に解けたときの喜びを知ったこと、国内や国外の数学好きな人たちと話して数学によるコミュニケーションができたことです。数学オリンピックで得た経験によって、元々持っていた、将来的に数学を活かした仕事をしたいという気持ちがより強くなっていきました。
大学でも数学の道に進みましたが、数多の数学者によって洗練されてきた学問としての数学の広がりと奥深さにしばしば圧倒され、今思うと広い視野を持って勉強や研究をすることがなかなかできずにいました。進路に迷った末、大学院修士課程修了後に保険会社に就職する道を選びました。
保険会社ではアクチュアリーという、確率や統計を用いて保険販売に伴うリスクや保険会社の収支を分析する職種として働いていました。例えば、死亡率や自動車事故の発生確率をもとに、保険料の水準は適当かどうか、あるいは事故が想定より増えた場合に保険金の支払いが滞りなく行えるか、といったことを分析します。高校までで習う確率でお馴染みのサイコロやくじ引きとは異なり、実社会の事象が起きる確率はそれ自身が不確かなものであり、何らかの仮定を置いて初めて計算できるものです。つまり、使用している数学が正しくても、前提となっている仮定が正しくなければ当然結果も正しくないということになります。しかも、この「前提となる仮定」は、しばしば計算できるものではなく、エイッと思い切って決めてしまう外なかったりするのです!しかし、結果が正しくない可能性を恐れて計算しない、というのでは事業を行うことはできませんから、計算結果がどんな前提に依存しているのかを自ら意識し、あるいは適切に伝達しながら使っていくことが重要となってきます。社会との繋がりを直接的に感じられるこのような数学の使われ方は、私の目には数学の新たな魅力として映りました。
現在私は、数学を教えることを職業としています。教える相手の中にはもちろん数学が好きな人もいますが、好きだけれど苦手な人、どうしても好きになれない人、と様々です。自分自身が数学をずっと好きで色々な数学の側面に触れてきたと思っているからこそ、数学の美しさや実用性、社会との繋がり……といった中のどれか一つにでも魅力を感じてほしいと思いながら、授業やその他の指導を行っています。どこまで伝えられているかは分かりませんが……。
読者のみなさんは、数学のどんな側面を知っているでしょうか?新たな数学の横顔に出会うことができたら、今よりもっと数学が好きになるかもしれません。
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