第2回 グローバル人材とは? 横山匡の留学コラム・オンライン個別相談 | 海外大進学相談センター
「どこでも、だれとでも、そこそこ、自分らしく振舞える人材」について考えて見よう!
みなさんこんにちは。河合塾グループ・海外大進学シニアアドバイザーとして海外留学を検討、希望する中高生の指導、支援をさせていただいています横山です。隔月でグローバル時代、グローバル社会に求められる人材像や海外大学の入学審査官の視点などを通じて、中高生のこれからの高校生活で意識しておいて欲しいポイントをお伝えできればと思います。
第1回では「VUCA & Global時代を生きる人材に求められる意識と行動を考えて見る」
「高校生活における最優先のテーマ」に関してお伝えさせていただきました。
第2回、今回のテーマは「グローバル人材」という言葉についてです。Global人材の定義とは?
とかく一人歩きするテーマですが、今回はそのエッセンスについてお伝えできればと思っています。
「グローバル人材とは?」
この問いが今の社会においてテーマになる背景から以下の3つのポイントでお伝えしようと思います。
まず初めに、私が2018年度、2019年度の2年に渡り文科省が推進する海外大学留学推進プロジェクトの一環として行われた全国の大学における海外大学・大学院留学セミナーの講師として指名を受け、北は北海道から南は九州まで、計20大学でお話しさせていただいた全国行脚の中で話した中から今回のテーマに関連する話をまずは一つ紹介させていただきながらグローバル人材という、よく耳にしながらも曖昧な人材像に関して考えていきたいと思います。
日本において人口減少より深刻な課題とは?
全国で行ったセミナーの冒頭に出てくるのが日本の人口推移のグラフでした。2050年ごろには日本の人口は9000万人レベルに減少し国力が落ちていくのではないかという懸念を示すグラフでした。確かに数は力の一つですからそれを否定するつもりもありませんが、例えばヨーロッパの人口上位5カ国(ドイツ、イギリス、フランス、イタリア、スペイン)の人口は8000万人強から5,000万人弱です。日本の人口が9000万人に落ちてもまだそれらの国の人口よりも多いわけです。高齢化、生産年齢人口の減少などここでは書ききれない複合的な課題はあると思いますが、ヨーロッパの国々はその経済圏の中でつながり、世界を相手にビジネスなどを展開して国力を保つ努力をしています。セミナーでお話しさせていただいたのは「人口減少よりも深刻な課題とは世界とつながれない9000万人になっていく事」という視点です。経済学の話をするつもりはありませんが、「稼げる、価値を生むものを増やす」(Innovation)と「稼げる、価値を生む場所を広げる」(Globalization)がこれからの世代にとってのキーワードになることは疑う余地のないことだと捉え今回のテーマに入っていきたいと思います。
グローバル人材の定義とは?
「グローバル人材」という言葉をよく耳に(目に)しますが、「グローバル人材」という「人種」がいるわけではありません。あくまでも「あなたという人材のグローバル化」でしかありません。「人材」が本題であり「グローバル」は応用・適応範囲ですね。「あなたという人材が価値を発揮できる範囲」ということだと捉えています。ここでは私が留学指導やさまざまな分野でグローバルに活躍するプロの方々との出会いと交流の中に見る、今の時代に求められる「グローバル人材」の定義と、それを目指す人材に求められる「意識と行動」についてお伝えしたいと思います。
まず、「グローバル?」と問わなければいけないこと自体が「まだそこに至っていない」ということを物語っているのだろうと思います。世界を舞台に活動することが前提になっている人は、あえて「グローバル人材」とは呼ばれていないでしょう。オリンピックで活躍するアスリートのことを、「グローバルアスリート」と呼ぶ人はいません。同じように、世界各地でツアーをするミュージシャンのことを、「グローバルミュージシャン」と呼ぶ人もいませんね。
世界を舞台に活動することが前提になっている世界では、「グローバル人材」という言葉は使われていないと思います。それをあえて語らなければいけないのは、世界で生きる、世界で活動することがまだ「普通に」できていない分野なのではないかと思います。たとえばそれはビジネスの世界であったり、教育の世界であったり、官公庁や政治の世界であったりといわゆる今の日本社会における広く、多くの分野のことになるのですが。
では、そもそものグローバル人材とはどのような人たちでしょうか?世界で、海外でものすごいパフォーマンスを発揮するスター選手のようなひとを想像する人もいるでしょう。たしかにそのような人もいますが、シンプルに言うならば「アウェイの環境でも自分らしく機能できる」、もっというと「アウェイがなくなっていくこと」なのです。そして最近は、「日本人で内向きな若い人が増えている」と言われ、取材を受けたこともありますが、この「内向き」という言葉にこそ、実はヒントがあります。そもそも内向きになれる国というのは、いい国ですよね。それだけ居心地がよくて、「そこにいよう。そこにいたい」と思える国ということですから。よく海外の大学関係者が口にするGet out of your comfort zoneという言葉があります。「居心地の良い場所から出ていきなさい」という意味ですね。確かに最初は居心地のいいところから出ていくという行動になるのでしょう。しかし私はそのような対話が起きるときには「私は違う言い方をしている」と伝えExpand your comfort zoneだと話します。「居心地の良い場所を広げなさい」ですね。「行動」は「居心地の良い場所から出ていく」であっても結果的に残るのは「居心地の良い場所が広がった人生」ということなのだろうと考えます。「外へ出る」というよりは「内側を広げる」というとらえ方ですね。
そして、個々にとっての一番の内側は「自分」です。「内向き」=「内好き」であればドーナッツの真ん中の穴、「自分への興味」もちゃんと埋めてほしいと思います。そここそが「内向き」のど真ん中ですから。内向きの究極化がグローバル人材への第一歩だと感じます。本物のグローバル人材とは、そんな自分にとって居心地のいい場所を、日本だけにとどまらず世界を舞台に創っていける人たちのことだと考え、色々な場で伝えさせていただいています。
「好きな所で、好きな人たちと、好きなことをしながら生きていける人材」を目指す、ですね。
個々の人生の行動範囲、価値を生める畑に自分で勝手に「国内、国外」と国境線を引いたりせず、いずれ世界の1%になっていく日本の人口だけを相手に人生をとらえていくには勿体無い未来があることを意識してもらえればと願います。それは何も世界200カ国を飛びまわって、がむしゃらに働けるスキルを身につけろと言っているわけではありません。
一つ、若い世代の未来豊かな人材の皆さんに意識していってほしい一言をお伝えします。
「どこでも、だれとでも、そこそこ、自分らしく振る舞える人材」
これが私が定義するグローバル人材です。
「どこでも」は場所もそうですし、場面もそうですね。初めて訪問する外国、または1対1の交渉の場、千人の前での講演、オリンピックの本番、などですね。
「誰とでも」は目上の人、国籍や人種が違う人、自分とは異なる身体機能の持ち主、宗教が違う人、権力者、弱者、など「わかりやすい違い」を感じられる人々に限らず、突き詰めていけば国籍や所属先などの属性やレッテルではなく「その個人を見る」という視点に落ち着くのだろうと思いますが、そんな視点で人と接する意識が求められます。
「そこそこ」は、最初から思い通りに行くわけもなく、不完全を心配すると行動が起きにくくなるので、最初は「目指す」だけで十分という意味で「そこそこ」からでもトライしていきましょう、という意味です。
「自分らしく振る舞える」はこの後にも次回にも述べますが、「自分らしく」は「自己理解力を高め、自分らしさを知り」,「振る舞える」は「思いを行動に起こす習性を持つ」ということです。
そして最後の「人材」とは他ならぬ「あなた」のことです。
そんな「どこでも、誰とでも、そこそこ自分らしく振る舞えるあなた」を目指していく中で求められる意識と行動を今回から次回にかけてお伝えして行きます。
グローバル人材への第一ステップは「自己理解力」
「グローバル人材を目指せ」と言われても、もしくは自分で「グローバル人材になりたい」と考えたとしても、具体的に何を、どのように目指せばよいか、イメージが沸かないという人は多いのではないでしょうか。それはきっと、「グローバル」よりも「人材」のほうが曖昧になっているからです。人材とはリーダーなのか、マネジャーなのか、手に職をつけたスペシャリストなのか。つまり、海外を舞台に、自分はどんな人(材)になりたいのかを考えてみることがはじめの一歩になるのです。
ですから、グローバル人材を目指すための出発点は、「Self Awareness(自己理解)」を高めること。自分に今できることを知り、これからやりたいことを思い描き、それを自信と謙虚さをもって語り、行動に起こせるようになることです。それは、例えば英語が話せるようになることに限りません。英語は「伝える能力」としていずれ必要になりますが、それ以上に「伝える意欲」と「伝えたいメッセージ」を持つことが大切です。留学受験をサポートする弊社のプログラムでも、もちろん試験対策はしますが、それ以上に受講生たちが自分のことを知れるよう導くことに多くの時間を費やしています。そのための「雑談」がとても多いです。そのときに話すのは、「今の段階で一番ワクワクできる自分の将来像を教えてください」ということと、「なぜその将来像が明日にはすぐに実現できないのか」ということ。足りないものはなんなのか?漠然と「海外に留学したい」と考えている人は、この質問には最初はあまり上手く答えられません。「自分に今できることも、これからやりたいことも思い浮かばない」という人もいるかもしれませんが、そのようなことはありません。それは「自分の持ち物に気づく場やそれを整理してみる練習がこれまでになかった」ということですから「無い」のではなく、個々の特性に「気づいていない」「整理できていない」ということですね。
ちなみに「キャリア」という言葉の語源は、馬車道やそこに残った「轍(わだち)」という意味があり、その人がたどる道のことですから「職業」の話ではなく「生き方、生き様」というような意味を持っています。過去を振り返れば、自分がどういう価値観を持ち、何にこだわり、何にワクワクするのかが見えてきます。たとえ途中で働く業界を変えたとしても、積み上げていくキャリアの過程で「あなたらしさ」を体現する「何か」がある。スティーブ・ジョブズが言った「点をつなげる」という言葉。点は二つあって初めて線になりますね。今自分が意識していない、しかしそこにある一つ目の点がいつか二つ目の点に出会ったときに線になる。自己理解は「今すでに持っているかもしれない一つ目の点に意識を向け把握しておくこと」だと思います。日々のやり取りの中でも、私の役割は対話を通じて指導する対象の方々が自分では気づいていない「点」を見つけられる機会を提供すること、「気づかせ屋」であることだと思っています。
自分の将来像を思い描く際、他人と比べる必要はありません。減点主義の日本では、「自分よりもあの人のような生き方のほうが正しいのでは」と不安になりがちですが、「ザ・アンサー」ではなく「ユア・アンサー」で生きられればよいのです。
ただ、「ユア・アンサー」は「ユア・クエスチョン」から導き出されるので、自分が何にこだわり、何を起こしたり生み出したりしたくて、どんな日々を過ごしたいか」というような「自分に対しての質問」を持つことから始まります。関連して、「能力を高めたい」という言葉をよく聞きますが「能力」という言葉も絶対値ではないですね。「私が持っている特性」をどこでどう活かせるかに気付けることこそが最も重要なのです。これは交流のあるアスリートたちからも聞く共通項でもあります。「特性」の応用先が最適でなければ「成果」は出にくいですし、成果が出なければその「特性」は「能力」と認知してもらえないことがほとんどです。海外の大学や大学院への受験でも、模範解答のような美しいエッセイを書ける人ではなく、自己理解のレベルが高く、それを過去の自分の実体験エピソードに乗せて「自分像と未来像」を率直に、魅力的に語れる人のほうが共感を得やすいですから合格の可能性も高まります。「私の将来を買ってください」という出願のテーマに対して面接官がその人の将来像に「魅力的だね」にとどまらず「あなたならできそうだね」と納得することが必要です。魅力ある将来を描くだけならフィクションライターが勝っちゃいますから。「できそうだね」と信頼されるには「まずまずやってきたね」という今日までを説得力にする事が求められます。
グローバル仕様に自分をギアチェンジさせるには?
そうして自己理解を深めた上で、「自分のやりたいことを成し遂げるには、やはり若いうちに一度は海外に出て生きてみることが必要」と腹落ちしたならば、あとは「選択肢を知って、選んで、覚悟して、行動して、エンジョイ」です。数ある選択肢の中から、留学や海外赴任を選んだとします。海外の人と接して、人的交流から化学反応を起こし価値を生んでいくには日本にいるときの自分からいくつかの「ギアチェンジ」をする必要があります。そのために磨くべき資質が、「自己理解力」に加えていくつかあります。私は主に以下の4点を話すことが多いです。自己理解とあわせてこの5つは若いうちに意識しておいて欲しいと思います。これらの資質は、どの国、どの業界にいても求められるものです。
1. 知的・人的好奇心:グローバルアジェンダや出会う人に対して関心と当事者意識をもてること
2. 正しい意思伝達と意思受信:伝えたいメッセージをもち、伝える意欲を持ち、それを伝えられること。
3. 多様性への対応力:自分とは価値観の異なる相手との人的化学反応を起こせる意識と行動。
4. リーダーシップ:他人を巻き込み思いを動かす能動的行動力
次回は「自己理解力の3段階」という「自己理解の深掘りの仕方」について、そして上記の4点を加えた「グローバル人材に求められる5本柱」についてお伝えしていこうと思っています。
留学が人生に大きな影響を及ぼす本当の理由とは?
今回の締めくくりに、留学の価値の本質としてのヒントが世界を代表する経営コンサルタントとしても知られる大前研一さんの語った言葉に見てとれるので紹介して終わろうと思います。
これを見たときに「3つ同時に起きるのが留学生活だ!」と瞬時に感じたことを思い出します。次回はこの3つの変化が同時に起こり、上記の5本柱が「日常の当たり前」として根付いていく留学生活の価値をもう少し掘り下げてみたいと思います。
最後に、繰り返しになりますが、グローバル人材を目指す上でもっとも重要、かつ出発点は、深いレベルでのSelf Awareness、自分への興味に基づく自己理解だと日々実感しています。「今一番ワクワクできる自分の将来像はどのようなものですか?」、「なぜその将来像が明日すぐには実現できないのでしょうか?」、「足りないものは何ですか?」、「いつまでにどうやってそれを揃えていきますか?」。
世界を舞台に一番ワクワクし、活躍することを目指すグローバル人材への第1歩として、この問いから始めてみてください。
そして「どこでも、だれとでも、そこそこ、自分らしく振舞える人材」へ踏み出してください。