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2024.12.10更新

医学部受験生にとって「志望理由」を自分自身で作り上げることは、自分の受験に大きな価値を与えることのように思います。

自分の意識の下に埋もれている本当に医学部に行こうとしている理由を伝える「言葉」を探してみましょう。

志望理由は「きっかけ」だけでは不十分

「医学部の志望理由、および本学を志望した理由をお聞かせください」…。これはたいていの医学部入試の面接試験で初っ端にされる質問です。どの医学部入試でも、面接試験でこの質問は必須といってもいいでしょう。ごく一部には「志望理由」を一切尋ねられないまま別の「具体的な質問」ばかりされた人もいるようですが、むしろそういうのは特殊な例です。普通は「志望理由」を答える準備はしておかなければいけないでしょうね。9月は医学部の「総合型選抜」出願、さらに11月は「学校推薦型選抜」出願と続きましたから、皆さんの中にはご自身の「志望理由」を考えている方も多いでしょう。でも、ちょっと待ってください。みなさんの考えている「志望理由」は面接官の期待にそっているのでしょうか
ところが「志望理由」を尋ねられた時、特に現役生は自分の振り返りをした経験が少ないためにあまり練れた回答になっていないことが多い印象です。 典型的にうまくいかない「志望理由」パターンは、医学部もしくは医師を志望するようになった過去の「きっかけ」を「志望理由」の全体像として投げ返して終わってしまうものです。特に現役生にはその傾向が強く、申し訳ないですが、少し内容が浅すぎるなぁ…という印象を私は持っています。

ここ数年で数百人の受験生の面接練習をしているわけですが、医学部受験生が医学部を志望した「きっかけ」を話す際には典型的なパターンがあることに気づきます。いわく「祖母もしくは祖父の臨終前後の医療者との関わり」「自身がクラブ活動で負った怪我の治療での医療者との関わり」「家族の疾病に関わる医療者との関わり」「持病を通じてかかりつけ医との関わり」「人体に興味がある」…大体全体のほぼ9割以上の「きっかけ」はこの中のいずれかです。中には「親が医者だから」と自分とは関係ない話を持ち出す人や、「世の中の人を救いたい」などと誰目線なのだろうかというセリフを平気でいう人までいる始末です。
いずれにせよ、医師を志望した「きっかけ」そのものはどの人もたいてい決まりきっているので、聞く側は「Aパターン」か「Bパターン」か程度にしか聞こえないものです。いい方はよくないかもしれませんが、わかりきったパターンで来るに決まっているものを、関心を持って聞いてみたいと面接する側は普通は思わないでしょう。何せ、何人面接してみても「きっかけ」は「Aパターン/Bパターン」選択の繰り返しなのですから、いくら面接官でも無理からぬことです。中でも「祖父母の臨終」系(?)は全体の半分程度を占めている印象です。
しかし、パターン化した「きっかけ」自体が駄目だというのではなく、これだけで「志望理由」を完結させるなら、内容が「ゼロに等しい」ということを理解しておいてほしいのです。何せ「きっかけ」は「過去」のことで自分の「私的な経験」です。ここに留まり続けているのでは、私的な空間の「自分語り」を披露しているだけですから、面接官の側の空間とはつながりが持てません。そこで、一歩前進して「公的な立場」に踏み出し、面接官のいる側の空間に自分を繋げる必要が出てきます。

志望理由は時系列…「過去」だけでなく「現在」「未来」を加える

「志望理由」を述べる時、単に「きっかけ(過去)」のみで終始するのではなく、それに続いて「医療に関する興味(現在)」「将来のビジョン(未来)」を接続して、「3段階の時制」に分けて伝えることが妥当です。自分の私的な経験である「きっかけ(過去)」からはじめ、続いて「医療に関する興味(現在)」に触れていけば、話は公的なものにつながりはじめます。ここでようやく面接官のいる側の空間に橋がつながることでしょう。せっかくだから、もう少し具体的に参考資料をご紹介しておきましょう。
世間には「医療の課題」に触れているホームページがたくさんありますが、ここではもっともスタンダードな厚生労働省のホームページの一部を以下に示しておきます。

令和5年版厚生労働白書-つながり・支え合いのある地域共生社会-

リンク先は『令和5年版厚生労働白書-つながり・支え合いのある地域共生社会-』です。『厚生労働白書』は文章がちょっとお堅いですが仕方ありませんね。『白書』全体は400ページ以上あるのですが、せめて一部だけ目を通しておきましょう。ズバリ「第2部現下の政策課題への対応」の「第7章国民が安心できる持続可能な医療・介護の実現」だけ目を通しておいてください。これならせいぜい30ページです。この内容は面接試験で尋ねられるような「医療の課題」に比較的近いと思います。受験生本人だけではなく、保護者の方も一緒にお読みいただき、どのような医療課題があるか一緒にまとめるなど、補助されることをオススメします。受験生の皆さんも、こういうところは保護者の方に頼りましょう。

あとは「医療の課題」を国全体の課題としてだけでなく、地域が独自に抱える課題としても捉えておく必要があります。そのためには、自分が受験する大学の所在都道府県の「保健医療計画書」を読んでおくことです。特に「学校推薦型選抜」や「総合型選抜」では「特定の目的のための募集」をしている可能性がありますから、それを押さえた「志望理由」でなければ意味をなさなくなってしまいます。
各都道府県の「保健医療計画書」は都道府県庁のホームページのトップ画面の「検索窓」にズバリ入力して検索すると表示されます。大抵はPDFファイルになっていますので、必要そうなところをチェックしておけばいいでしょう。これも『厚生労働白書』と同様に保護者の方と協力してお読みになることをオススメします。「保健医療計画書の読み方」は私の過去記事で2度ほどご紹介していますから、参考にしてください。

では、「志望理由」の仕上げに「将来のビジョン(未来)」について考えておきましょう。「その道」に入ったわけでもないのに将来のことを述べるなど、多くの人はここで躊躇するに違いありません。将来のことはなかなか今の思惑とは一致しないのではないかと疑うのは、まだ受験生の皆さんには無理からぬことですね。
実際、私のクラスのOBたちを見渡してみると、臨床医としては世間で比較的不足しているといわれる麻酔科医や救急医になった人が多数おられます。珍しいところでは美容整形外科医になった人も何人かおられますが、反対に美容整形外科医のお子さんが「自分は別の道に進む」ということも何人かありました。また、研究方面では大学の教授になったOBもおられます。これらの人たちはおそらく本人だけでなく、私としても、受験生時代の彼らが将来「そうなる」と想像していたわけではありません。
ほんの少し先の未来にも関わらず、人生には意外と不確定なことが多いものです。だからといって「入学してから考えます」と胸を張って言われても、ちょっと無責任に感じます。何か一つはやってみたいことを挙げるのは受験生の義務でしょう。むしろ、先々で変化する結果論は常にあることでしょうから、面接試験の際に不確定なことがあることはお互いに先刻承知…ということであまり気にしないことです。
ですから、あくまで「今のところは」という程度のことでいいのではないかと思います。どうしてもやりたい「こと」や、なりたい「もの」がはっきりしない時には、「モデルになる人」を探してみて自分の将来の手本にしてみる方法が一番想像しやすいかもしれません。「この人」のような活躍をしようとすれば、自分が進むべき方向性は「この人」の軌跡が参考になるはずですから。

ここまで過去の「きっかけ」をスタートに、「医療に関する興味(現在)」、最後に「将来のビジョン(未来)」を接続して「志望理由」を検討してきました。あとは自分の言葉でそれをスマートな語り口で伝えるだけですね。

「志望理由」は自分の受験に価値を与えるもの

ここまでご紹介した通り、面接試験を私的でプリミティヴな「きっかけ」のみの「志望理由」で押し通し、最終結論で「がんばります」という意気込みだけで乗り切ることは、かなり無理があります。これでは面接官の共感を得ることは難しいでしょう。「志望理由」は自分の「私的なきっかけ」をスタートとしながらも、自分が「公的な問題意識の目線」を合わせ持っていることを何かの形で翻訳しなくては自分の想いが伝わりません。そのために現在の「医療に関する興味」を経て、自分の将来の活躍を伝える「未来へのビジョン」が必要なのです。
「志望理由」に模範解答はありません。それぞれの受験生は他人の人生を生きるわけにはいきませんから、他人は他人、自分は自分…それこそが「志望理由」を考えることの意味なのです。自分で考えて作るオリジナルの「志望理由」…気づけば作ろうとしているのは「志望理由」というよりも「自分の生き方」そのものなのかもしれません。医学部受験生にとって「志望理由」を自分自身で作り上げることは、自分の受験に大きな価値を与えることのように思います。
さて、ここまで読めばご自身の志望理由を明確にしておかなければならない理屈がお分かりなったのではないでしょうか。もしこれまであまり考えていなかったとしても、何とか明確にしなくてはならない…そう思っていただけましたか。

それでは早速、自分の意識の下に埋もれている本当に医学部に行こうとしている理由を伝える「言葉」を探してみましょう。自分のことなのに意外と言葉が出てこない…それで構いません。自分を振り返ってみれば、きっと今は気づいていなくても、それぞれの人にとってちゃんとした理由と立派な価値が何かあるはずですから。