「総合型選抜」「学校推薦型選抜」の「志望理由書」を考えよう 知っ得!医学部合格の処方箋 実践していますか?~実践編~ | 知っ得!医学部合格の処方箋 | 医の知の森<近畿地区医学科進学情報センター>
「医学研究・医療従事者に不可欠な問題解決能力、態度、適性を具備している者」とは
「現在の医療の諸問題」の把握や「保健医療計画」の理解、関心のある「研究領域」の把握などに自分はどう向き合っているのか、自分自身のことを伝えようとするマインドが必要です。
「志望理由書」の位置付け
入試本番は「1月の共通テストからはじまる」…といいたいところですが、実はそれ以前に一部の選抜試験ははじまっています。「総合型選抜」と「学校推薦型選抜」がそれです。「総合型選抜」の出願は9月以降、「学校推薦型選抜」の出願は11月以降とかなり早いうえ、出願直後の同月内に選抜試験を実施する大学さえあります。
「総合型選抜」や「学校推薦型選抜」では、まず提出された出願書類の内容を選考することに重きをおいており、その後大学で「面接試験」や「小論文」を課すことが多いようです。ただし、学力試験が課されないのではなく、私立大学では独自の基礎学力テストを実施しますし、国公立大学なら共通テストを学力試験のかわりに使用することが一般的です。
とはいえ、選抜の過程で提出書類が重視されるのですから、そこに含まれる「志望理由書(大学によっては「志願所信書」「自己推薦書」など)」の評価は非常に重要になってきます。
「志望理由書」は単に書類として体裁が整っているという「書かれたものとしての価値」だけではなく、その内容を自分の中に落とし込んで、面接時に「自分の言葉で答える」準備として書かれている必要があります。つまり、「志望理由書」として「書かれたもの」と面接試験で「口から出る内容」は一つの線上になるように内容や方向性を統一しなくてはなりません。「とりあえず出願に間に合わせよう」と目先の知識でこれを作成すると、「志望理由書」と「面接試験の回答」がチグハグになってしまいます。こうなると「志望理由書」が浮いてしまい、単に提出せんがために書いたものだったのだ…と面接官に思われかねないでしょう。
出願には、まずしっかりと確立した「自分の考え方」や目指す「到達地点」のベースを整理し、それを「志望理由書」として記述して、面接試験でもそれと軸を一にした回答をする…これが基本です。「志望理由書」と「面接試験の回答」は、この一連の流れになるように「自分を深く掘り下げて準備する」よう心がけていただきたいところです。
「志望理由書」の具体的な内容を考える
では、具体的にどうするか考えてみましょう。今回は国公立大入試の中では最も早い日程で実施される、高知大学医学部の「総合型選抜」を例にとってみていきます。
高知大学は9月〜11月に「総合型選抜」を実施します。多くの大学の「総合型選抜」「学校推薦型選抜」が大学入学共通テストの得点を加算して合否を決定することが多い中、同大学はそれを使用しません。ただし、大学独自に総合問題を課して判断していますから、学力試験がないということではありません。2024年度の要項を見ると以下のようになっていました(2025年度のものは大学のホームページでご確認ください)。
<出願>8月中旬〜9月上旬
<一次試験>(9月中旬 一次試験の合格発表は10月下旬)
「小論文」
「総合問題Ⅰ」(数学及び英語から出題)
「総合問題Ⅱ」(物理・化学・生物のうち2科目から出題)
<二次試験>(一次試験合格者のみ、10月末〜11月初旬の2日間で)
「態度・習慣領域検査」
「面接」
<最終合否発表>
11月中旬(入学手続きは11月末まで)
二次試験で実施される「態度・習慣領域検査」は、朝9時から夕方18時まで丸1日かけて、集団で特定のテーマに取り組む様子を評価されるもので、この大学の「総合型選抜」のみの異色の評価方法です。
さて、これに先立ってもちろん提出書類があるのですが、この大学の提出書類は「志望理由書」ではなく「自己推薦書」という名称です。ただし、記入項目の中に「1.志望理由について」「2.今後の目標・展望について」「3.あなたの性格・能力について」などの細目がありましたので、基本的には「志望理由書」と同義ですね。また、そのほかに「活動報告書」の提出も必要です。
この大学の「総合型選抜」の出願期間は8月中旬〜9月の第1週のみの短期間ですから、最低でも8月末には同書類の清書が終わっていなければ出願に間に合いません。ということは、この7月から諸準備をはじめてギリギリ間に合う…というところでしょう。
二次試験まで進めば上記の「態度・習慣領域検査」の他に「面接」が実施されます。この大学の入試要項はかなり親切で、どのような面接をするか予め教えてくれています。曰く「自己推薦書、活動報告書、調査書は面接の資料とします」と明確に記載されており、提出書類を面接の評価ポイントとして使用することが明記されています。
加えて「面接では、冒頭に医学科への志望理由と高知大学を選んだ理由を3分程度で話してもらいます」…とはっきり志望理由を自分の口から伝える分数まで提示されています。また「その後、過去3年間で継続的に取り組んだ活動(課題研究,部活動,ボランティアなど)についての具体的な状況を質問します」…と質問内容の一部も知らせてくれています。さらにそのうえで「ご自身が一番熱心に取り組んだ活動を明確にしておいてください」…とダメ押しで自己アピールの準備をするように促しています。
ここまで入試要項に書かれているのですから、「自己推薦書」がどれほどの内容を期待されているかご理解いただけるはずです。にもかかわらず、この入試が「9月に実施される早めの選抜」ということくらいしかご存知ない受験生が、「ワンチャン(ス)増やせそう」と気軽な気分で相談に来て、「何を書いたらいいですか?」とあまりにも大雑把な質問をすることがあって、さすがにそれには呆れてしまいます。
入試要項に「出願資格」が書かれているのですが、その2つめに「医学研究・医療従事者に不可欠な問題解決能力、態度、適性を具備している者」とあります。ちょっといいにくいのですが「何を書いたらいいですか?」程度の質問を本気でしているようなら、これを出願資格の「問題解決能力・態度・適性」に照らし合わせると…。出願は考え直した方がいいかもしれませんね。
残念ながら、この程度の心構えで出願した生徒が過去に何人かいますが(私はやめるように進言したんですけれどね)、合格した人はいません。要項に要望されていることを見ても、こういった人が「面接」で期待される回答ができることはないでしょうし、たまたま二次試験まで進んだとしても、「態度・習慣領域検査」で8時間も観察されれば意識の低さがバレてしまうでしょう。これでは受験しに行くというより、残念ながら不合格になりに行くという方が近い気がします。
「志望理由書」を書く前の準備をしよう
「総合型選抜」「学校推薦型選抜」出願のスケジュールを考えると、「志望理由書」作成の心構えは、7月から8月上旬くらいに理解しておくことが理想でしょう。そこで河合塾の校舎では、この頃に塾生への「志望理由書」や「面接試験」の「ガイダンス」を実施することが多くなってきます。「志望理由書作成の心構え」をその頃にレクチャーしておけば夏期休暇中に推敲してもらって、そのあとで添削のやりとりを始められる…というところです。
世間でも同じような「ガイダンス」があればいいのですが、なかなかそういうものは見当たりません。ある程度は先生から個別にご指導いただいているのでしょうね。このあたりの指導経験の多さは、やはり予備校的なボリュームだからこそできることがあるといえます。
「志望理由書」などの提出書類を書くためには、まずは「自分の考え方」を確立しておくことが一番大切で、それをアウトプットするための「書き方」は二の次だといえます。言い方を変えれば、ペンを持つ前にすることが多数あって、それが終わってから「さぁ、書き始めるか!」というくらいでなければならないでしょう。
出願前に我々のところに書類の添削を出してこられる方が多いのですが、しっかり準備してから書かれた方の「志望理由書」なら、とても有意義な添削のやり取りができます。一方、準備が希薄な方の「志望理由書」は一読でわかります。その場合は何度提出書類の添削を依頼されても、底の浅い内容が表現を変えた程度で繰り返し出されてくるだけですから、文字面程度しか直しようがありません。
「志望理由書」を書く前に把握しておいて欲しいことはたくさんあります。例えば厚生労働省のホームページにある「現在の医療の諸問題」の把握、出願しようとしている大学が所在する都道府県の「保健医療計画」の理解、自分として関心のある「研究領域」の把握などです。また、自分はそれとどう向き合っているのか、自分自身のことを伝えようとするマインドが必要です。
それには当然、それなりに時間の資源を投入しなければ十分な準備ができないでしょうし、それをアウトプットして「志望理由書」に書き出すには、理解するよりさらに多くの時間がかかります。
本気で「総合型選抜」や「学校推薦型選抜」に出願しようとしている人には、ぜひしっかりと準備して臨んで欲しいところですね。「志望理由書」作成のために「調べたこと」の量が「10」あっても、そのうち実際に流し込めるのはせいぜい「3」程度でしょう。それくらいの準備を書く前にしておきましょう。中には、「3」しか書かないのなら「3」の準備で書いた方が効率的だろう…という発想の人がいますが、その余力の無さは読めば見透かされるものです。
「総合型選抜」や「学校推薦型選抜」は卒業後に自分のキャリアを拘束する条件がついていることが多数あります。本当に今それを決めてもよいかよく検討し、そこに結論を出せないなら、結果的にその「ワンチャン(ス)を見送る」ことも大切です。一般選抜で入学し、医学生になってから自分の将来が見えてくることがあるでしょうし、医師免許取得後の初期研修中に自分の適性を考えて将来のキャリアを確立することもあるでしょう。むしろその方が一般的な医師の進路選択だといえるのですから、あえて9月や11月出願の早期選抜にこだわらない受験方法こそ、ある意味「王道的」な受験方法だといえるのではないでしょうか。
「総合型選抜」「学校推薦型選抜」は自分で決める
「総合型選抜」や「学校推薦型選抜」を受験することによって合格のチャンスが増えるというのは、医学部入試においては「都市伝説」だと私は思います。将来のキャリアプランを見据えずに合格することだけにこだわる人がそういった選抜を受けようとするならば、これらの人たちは「ワンチャン(ス)増やす病」にかかっているといえるでしょう。それなら、本当にそのキャリアプランで将来の医師を目指そうとする人たちのために定員を空けておいて欲しいものです。
ちなみに無理にこの入試を受けて「不合格になりに行った人」は、本来学習に回せたはずの時間の資源を消費しただけに終わって、その後の学力構築にも苦戦した人ばかりでした。「総合型選抜」や「学校推薦型選抜」を検討している人は、学習時間の資源を費やすことと合格可能性、自分の将来のキャリアプランなどのバランスを考えた上で、どうするかを指導者とよく相談してほしいところです。
その際、決して「私に合う推薦・総合型の入試を教えてください」のような丸投げの要望はせず、「この大学を受験しようと思うのですが、どうでしょうか」とご自身の責任においてよく考えてからお尋ねになることです。せめてそれくらいのことができてはじめて、ようやく「医学研究・医療従事者に不可欠な問題解決能力、態度、適性を具備している者」ということができるでしょうから。