面接試験での質問のトレンドを考察する ―毎年同じような面接練習は通用しない― 知っ得!医学部合格の処方箋 実践していますか?~実践編~ | 知っ得!医学部合格の処方箋 | 医の知の森<近畿地区医学科進学情報センター>
知識を「言語化」して自分の意見を表明するレベルまで考える生活習慣を身につける
「コロナがらみ」の質問、条件付けの長い質問・・・質問方法や質問内容は毎年新しいものへアップグレードされています。
「医学科の面接試験」のトレンドを掴む
すでに先行して一部の人は、「総合型選抜(旧AO入試)」や「学校推薦型選抜(旧推薦入試)」がスタートしていますが、多くの受験生にとっては12月こそ「入試シーズン」が本格的にスタートする時期だといえるでしょう。受験生の大半にはこれから連日出願面談が行われ、窓口相談や面接練習、志望理由書添削もこの時期に本格的な指導がはじまります。少しずつ校舎窓口が慌ただしくなり、緊張した独特の空気感に、入試が本格化してきたことをひしひしと感じる日々になってきました。これをお読みいただいている受験生のみなさんは、その緊張の高まりを感じることができるでしょうか。
ちょうどこの時期は昨年の「医学科面接試験」でどのような質問をされたか、まとまった分析をしながら、本格的な指導をはじめる時期です。ですから、この時期は「医学科の面接試験」に関する考察が、1年中で最も充実した時期だともいえます。今回は、そんな実戦的な考察の中から、今の医学科の「面接試験のトレンド」について見えてきたことをお伝えいたしましょう。
「コロナがらみ」の質問が目立つ
医学科面接試験は毎年傾向に変化があります。ですから、前年の質問項目を続けるだけでは、変化していく入試への対応は困難です。時代は刻々と変化していますから、面接試験の質問方法や質問内容を毎年検証し、新しいものへアップグレードしてこそ価値があるといえます。
では、2023年度入試に生かすため、まずは2022年度入試の面接質問をピックアップしながら、どのような質問項目のトレンドがあるか検討してみましょう。
2022年度入試で最も目立った質問は、多くの方がご想像されているように「新型コロナ」に関する質問です。これは新型コロナウィルスが蔓延しはじめた2020年や2021年より、社会に既成化した2022年入試の時の方が圧倒的に数が多くなっています。以下に一部抜粋して書き出してみましょう。
「コロナ禍で看護師が辞めることをどう思うか(北海道大)」
「コロナ禍の間、どう過ごしていたか(山形大)」
「コロナ禍を経て学んだことは(群馬大)」
「コロナ禍で良かったことは何か(横浜市立大)」
「コロナ禍の受験についてどう思うか(新潟大)」
「コロナ禍の学校行事中止について思ったことは何か(福井大)」
「コロナで困ったことは何か(山梨大)」
「コロナ禍で気づいたこと、変化したと思うことは何か(信州大)」
「地元のコロナの感染状況についてどう思ったか(三重大)」
「コロナ禍での心境や行動の変化は(大阪大)」
「これからの社会とコロナウィルスについてどう考えるか(神戸大)」
書き出すとキリがないので、このあたりで打ち止めにしておきましょう。見ておわかりの通り、それぞれの質問は「コロナ」という言葉だけが共通なのであって、尋ねられ方はどれも全く違っています。どの質問も「新型コロナウィルスの説明」を求めているのではなく、社会の中で自分が感じたことや周りの変化を説明させたり、どのようなことに気づいたかや考えたかを説明させたりしています。中には、次のような長尺の質問もありました。
「現在流行しているコロナウイルスのような事態に対応するためには、病院や介護福祉、保健所などの関わりが大切になってくるが、具体的にどうしたらいいと考えるか(鳥取大)」
こういう質問を見ると、「この質問にはこう答えよう」という程度の一問一答的な発想で準備しても、まったく回答できないことがわかります。大切なことは、常にニュースに耳を傾け、今の医療関係の社会的なトレンドを把握しておくことです。いくら受験生が学習に忙しくとも、それくらいの「社会的常識」の把握くらいしていると面接官は考えているのでしょう。さらにその上で皆さんは、自分の把握している「社会的常識」を基本としながら、「自分の言葉」で質問の方向に合致する答えを紡ぎ出すことが求められているのです。
社会のトレンドを見ているか試す質問
毎年、医療と直接関係ないものの、社会のトレンドを捉えた質問が一定程度される場合があります。2022年の例でいうと以下のようなものがありました。
「SDGsで心がけていることはあるか(広島大)」
「SDGsについて知っていることや思うことはあるか(香川大)」
「SDGs」は現在よく話題になっていることですが、面接官の質問は「受験者がSDGsを知っている」
ことを前提としてされています。もしも受験者が社会にアンテナを張っていなければ、何を質問されているか理解できないでしょう。ニュースや新聞に関心を寄せておく生活習慣は、こういうところに影響します。
面接対策のためだけにニュースや新聞をチェックする…という消極的な態度ではなく、社会人として社会の動きに関心を持っておくことが日常の生活習慣には必要です。これらの「SDGsに関する質問」は、受験者の社会性の資質を知るための手段として、最もトレンドな医学以外の質問をわざわざしているということがいえそうですね。
「あなたは社会性がある人ですか」
…と問われれば、百人中百人とも「ハイ」とお答えになるはずです、しかし、では「SDGsは…」と問われて「わかりません」と回答するなら、「なんだ、社会性がないじゃないか」ということがハッキリと出てしまうということです。うまく考えられた質問です。
「どう思うか」系質問は時代の流れ
「知識の有無」よりも、「問題意識を持って考えている人かどうか」を見るために、「どうすればよいか&どう思うか」系の質問も次第に増えつつあります。以下に具体的に列挙してみましょう。
「ジェネリック医薬品を知っているか、また使用に賛成か(秋田大)」
「医師不足に悩んでいる地域に就職してもらうためには、自分だったらなんと声をかけるか(福島県立医科大)」
「値段は高いが、その分より効果が出る医薬品についてさまざまな議論がされている。それについてどう思うか(横浜市立大)」
「高齢化社会で医療費(特に医薬品)が上がっている。どうしたらよいか(群馬大)」
「女性の医師が働きやすくするにはどうしたらよいか(浜松医科大)」
「人生の終末期についてどう考えるか(岐阜大)」
「グループ医療についてどう思うか、グループ医療にとって一番大切だと思うものは何か、そう思う理由はなぜか(奈良県立医科大)」
「医師の偏在についてどう思うか、どうすればよいか(広島大)」
「尊厳死・安楽死に賛成か反対か(国際医療福祉大)」
「医療において今後、AIはどのように使われるか、臨床とどう関わると考えられるか(北里大)」
以上の質問は「自分なりに課題を考えて答える」ことを期待されています。ある程度は想定できる課題ですが、回答を事前に棒読みのように覚るようなことは必要ありません。みなさんが日常生活で得た知識に対して、そこで終わらせずに一歩前進です。自分の考えを整理して「自分ならこう思う」と「言語化」するクセを習い性にしましょう。そうすれば、その場で言葉を紡ぎ出すことは造作ないことです。
やや増加傾向の「シチュエーション型」長尺質問
ここ数年、新しい教育に向けて「思考力・判断力・表現力(学力3要素の一つ)」が前面に打ち出されるようになり、条件付けの長い質問が増加傾向にあります。回答するには与えられたシチュエーションを自分の中で消化し、自分なりに条件付けした上で論理的に「言語化」し、相手に投げる力が必要です。以下に具体的な内容を見てみましょう。
「弟が母に臓器提供のドナーカードに登録したいと言っているが、母は反対している。兄のあなたはどうするか(筑波大 前)」
「あなたは毎週、友達とAIについての講義を受けている。友達が途中で、この講義の時間は無駄だと言い出し、出席する回数が減ってしまった。この問題点と解決策を答えなさい。(千葉大 前)」
「10歳、50歳、80歳の危篤の患者がともに人工呼吸器の使用が必要だが、人工呼吸器は一つしかない。誰につけるか(名古屋市立大 前)」
「患者は手術を望んでいるが、患者の家族は望んでいない。あなたは手術をするか(家族の説得は無理だとして)(琉球大 前)」
「家族が手術を受ける際、医師にどのように説明されたいか。また、手術の結果をどのように説明されたいか(東京慈恵会医科大)」
さて、こういう質問への回答に正解といえるものはないといえますが、論理的かどうかということが最も重要なことだと思われます。それを瞬時に考え、判断し、「言語化」して相手に投げる習慣を養っておきましょう。
都道府県の医療状況は必須
何度かお伝えしたことがありますように、国公立大においてはその大学の所在県の医療状況の知識は必要なことが多いようです。ここ数年、当たり前のように尋ねられていますから、少なくとも該当県の「保健医療計画書」程度は目を通しておく必要がありそうです。以下に具体的な質問例をお示しします。
「旭川医科大の地域医療と国際医療の違いはなんだと思うか(旭川医科大 前)」
「福井県の医療の問題点は知っているか(福井大 前)」
「鳥取県は少子高齢化が全国よりも進み、医師や看護師不足が問題だが、解決するにはどうしたらいいか(鳥取大 前)」
「島根大での救急教育の取り組みや島根県内の救急医療の問題点は何か、また解決策はどのように考えるか(島根大 前)」
「山口県と地元の違いは何か、山口は田舎だが大丈夫か(山口大 前)」
「香川県の医療問題(過疎地域、医師の偏在など)について(香川大 前)」
自己PR
ここ数年、「自己PRをしてください」という質問が増加しています。さすがにこればかりは、その場で考えてもいいプレゼンをすることは難しいといえるでしょう。回答は一言一句棒読みのように覚えることはやめて、ポイントを明確にしてPRする事前準備をしておきましょう。
ちなみに、2022年度の一般入試の面接試験調査では、国公立大50大学のうち27件、私立大31大学のうち19件の「自己PR」質問がありました。ズバリ、半数以上の大学で問われていることになります。
さて、いくつかのトレンドを見てきましたが、いずれも本来なら日常で気にかけておくことができれば特別な準備が必要なわけではない内容です。面接試験のコツは、当たり前のことを整理しておくことと、知識を知識のままおいておくのではなく、「言語化」して自分の意見を表明するレベルまで日常で考える生活習慣を身につけることにあります。
では、知識を「言語化」できるレベルまで高められているかどうかセルフチェックするために、皆さんに2022年の鳥取大学の質問を投げてみましょう…。
「鳥取大があなたを合格させると、どのようないいことがあるかを含めて自己PRしてください」
どうでしょうか。若い人は、「自分を合格させないのは社会にとって損失だ!」くらい言い切る勢いがあってもいいではないですか。この質問は、これくらいのことをいってのける人を募集しているのでしょう。みなさんは恥ずかしげもなくそういえるくらい、自分の意見を完成させてほしいものです。
そこまで回答できないようなら、まだまだ自分自身を整理できていない証拠です。でも大丈夫です。今日から「自分を探求する旅」をはじめ、入試の前日までに「知識を活用して日常で考えを言語化できる自分」を連れて戻ってきてください。その時こそ自分のことを、「医学部に入学するに相応しい人物」だと胸を張っていえるはずです。