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チューターのアドバイス 知っ得!医学部合格の処方箋 実践していますか?~実践編~ | 知っ得!医学部合格の処方箋 | 医の知の森<近畿地区医学科進学情報センター>

2020.11.2公開

保護者の皆様、子どもを信頼することができていますか?

保護者が「手取り足取り」することが、かえって本人の成長にとって「手かせ足かせ」になっているケースもあります。

河合塾の医進チューター(医進コース担任)

全国に医学部(医学科)は国公立50大学、私立31大学、防衛医科大1大学があることは、何度かお伝えしてきました。もちろん、それぞれの大学は問題傾向に特徴があります。また、国公立大医学部にはキズナの高い相互の志望変更先大学があり、お互いに志望者が流出して影響を受けるケースも出てきます。ただし、そんなアナログな情報が何かの情報誌に一覧で掲載してあるはずもなく、それを知っていて指導できることは、医進チューターのなせる技といったところです。
当然、指導者はそのための知識と分析力を常に磨いておくことが求められますから、医学部入試のご指導にはある程度の経験値が必要です。ただし、毎年一人の医進指導担当者(チューター)が全部の大学に出願指導経験を積み続けることは不可能です。そこで、われわれ河合塾のチューターは「医進チューター研修」を行い、お互いの「経験値の共有」に努めています。もちろん、その情報は日々生徒指導に反映して生かされています。たくさんの医進生を抱えている予備校だからこそ、この「経験値の共有」ができると言えるでしょう。
また、チューターは、受験情報の共有に止まらず、受験生をどのように指導することがベストかお互いに議論したり、共有したりもします。新たな入試変更点から予想される受験生の流れを研修するとともに、生徒の成績タイプによってどのような指導が適切かをグループ討論するなど、情報を縦横に組み合わせて出願大学を検討し、そのための学習項目を、講師と連携を取りながらアドバイスしているのです。
また、メンタルな部分や物事への取り組み姿勢、自己信頼力を高めることなど、入試のことだけにとどまらないアドバイスを行い、影になり日向になり、生徒を支える存在・・・それが、河合塾の医進チューターです。

「取り組み姿勢を伝える」ということ

さて、医進チューターが学力構築に直結するご指導だけではなく、日頃の生活改善や自己信頼力を高める指導でどのようにアドバイスするのか、そんなエピソードをご紹介しましょう。

ある年のこと、地方から一人の女性の浪人生を寮でお預かりしました。年度のはじめに面談しましたところ、思いのほか無口な生徒さんで、自分の考えていることをなかなかお話にならない様子でした。今年の目標など一通りお話をして面談を終了しましたが、翌日に遠方のお父さんから電話がありました。
「明日そちらに行く用事があるので、少しお話をしたいのです。」
「ちょうど昨日、ご本人と面談をしたところです。ぜひお父様のお話もお聞かせください。」
さて、翌日の午後にお約束通りお父さんがお見えになり、そこでお話がはじまりました。
「娘は面談であまり話ができなかったというのです」
「おや、一通りのお話は伺ったのですが、その時にあまり伝えられなかったことがあるということでしょうか」
どうやらこの生徒さんは相当の「内弁慶」で、お父さんにはあれこれ主張するクセを持っておられました。いわく「面談の時、尋ねてもらっていないから話せなかった」というのです。しかしそう言われても、本人が何を訊いて欲しいか完璧に推し量って何もかも質問することは難しいことですから、なかなかコミュニケーションは成立しません。こういう方には何度か会いましたが、いつも「してもらっていない」「言われていない」「やってもらっていない」「教えてもらっていない」などの主張が続き、面談してもなかなか満足感は得られませんから、結果的に寮に帰ってからあれこれ訊いて欲しかった・・・という話を電話口でお父さんにすることになるようです。
当たり前のことですが、社会に出れば自分から伝えたり尋ねたりする工夫をしないと相手はわかってくれません。普通なら言葉の選択が不十分でも、自分なりに表現し、表現方法が不十分なら面談している側が言葉を補助しながら理解に努める・・・面談とはそういうものです。
さて、お父さんは私と同年輩くらいの方だったのですが、失礼ながらお歳に見合わないマシンガントークの方で、あの無口に思える娘さんにお家ではそのマシンガンペースであれこれ聞き取りながら、やり取りをしていたらしいのです。ですから、コミュニケーションといえば、あれこれと質問を繰り返して本人の言いたいことをあぶり出すという方法が普通になっておられるようでした。
しかし、父親が代理でこのペースで割り込んできますと、本人に伝えたいことや変えさせたい考えがあっても、なかなかそれを入れるためのタイミングをはかるのが難しくなります。お父さんもそこまでは考えておられないようで、とにかく本人が「こうしたい」ということを伝えることが、親の務めだと思っておられるところがありました。
それ以来、お父さんは面談のたびに遠くからこられ、無口な娘の代わりにマシンガントークで私に色々な質問をし、娘のしたいことを代わりに説明した上で「ああさせたい」、「こうさせたい」と言い続けるのでした。はじめは合わせるようにしていた私でしたが、しだいに問題があるように思えてきました。それは、娘さんの性格に合わせてお父さんがこうしているというより、お父さんのこのやり方に対して娘さんがそうなってしまったようにしか思えなくなってきたからです。
全ての医学部入試が面接試験を課していることから分かるとおり、一定の社会性が医学部入試に求められていることは明白です。「学力があるから医学部を受験する」というだけでは困りものです。チューターの私にしてみれば、このまま彼女が自立できなければ、他者とのコミュニケーション力に支障が出てしまいかねないことが心配でした。
あるとき、お父さんが面談に同席されたとき、ちょうどいいタイミングでしたから、思い切って私の考えをお伝えすることにしました。
「ちょうど時期的には、今、多くの生徒さんにどの大学の過去問をやってみるかの指導をしている最中です。失礼ながら、お父さんが自分のお話ばかりしていると、ご本人の考えがわかりづらくなりますし、私がどうするべきかのお話をお伝えできなくなってしまいそうです。」
「大切なことは娘さんに直接お返事をいただきたいので、申し訳ありませんが、ここは一つ、お父様はしばらくご本人が話すのを聞いていてもらいたいのです。娘さんもこの年齢になると、お返事や意思表示はご本人の言葉でされねばなりません。今日もこの場でご本人にそうしていただきますから、しばらく見ていてあげてください。」
お父さんは学力以外の話を予備校の人間からされるとは考えていなかったようで、少し驚かれているようでした。おそらく、そこまで突っ込んでくる相手と面談したことはなかったに違いありません。きっと高校では「口出ししにくい保護者」だと思われていたことでしょう。しかし、娘のことを考えて私が話していることをよく理解していただけて、納得してやってみることにされたのです。
はじめは何となく黙っていて、助けて欲しそうにチラチラと父親を見ていた彼女でしたが、せかさずに話すのを待っているとしだいに雰囲気に慣れてきた様子で、自分なりに言葉を見つけて話をするようになりました。医学部を目指すのですから、年上の人間と会話ができることは必要なことです。

「子供を信頼する」ための親の自己変革

それからしばらくの後、彼女は自分の尋ねたいことがあると、窓口に自分から来て話すようになりました。知りたいことがあれば「行動は自分から起こす」という、当たり前のことができるようになってきたのです。言葉の選択も年齢相応で十分通用するものになっておられましたし、当のお父さんには「心配しなくて大丈夫」と伝えていた様子で、どっちが親だかわからないような雰囲気になっていました。
年度の最後には自分から、「志望理由書を書いてもってくるので添削してほしい」と何度か添削のやりとりをするようになり、ごく普通の医学部受験生として独り立ちすることができたのです。
結局「うちの子はできないから私が代わりにする」というのは、単に保護者の側の思い込みによるものだったようですね。むしろ、保護者が「手取り足取り」することが、かえって彼女の成長にとって「手かせ足かせ」になっていたともいえるでしょう。
実をいうと、これと同じような方にはかなり多くお会いしてきました。しかし、あながち保護者を責められない面もあります。毎日一緒にいれば、保護者は子供の成長が見えにくいものですし、親に向かって自分を主張することは子供にはなかなかできないことです。親からは子供が見えないところで成長していることは想像できないものです。多くの保護者は子供を自分の「枠」の中に当てはめて、そのはみ出し具合を調整することで「できているかどうか」を判断しようとするようです。しかし、子供の価値観や人生がその「枠」で良いのかどうかを考えてみると、親にとっても新しい発見をすることがあります。時代は変化し、価値観や身の回りの環境や道具も変化しますから、それに合わせて新しい発想や考え方が出てきてもおかしくありません。保護者は「自分の時代の価値観」に硬直的に囚われている可能性もあるのです。
子供に任せてみる、話をさせてみる・・・うまく言葉を選べないならそれを手伝って、本当に伝えたいことを鮮明に表現できるようにさせてみる。時間をかけてそんな会話ができれば、子供たちの成長を支えると同時に、保護者の側にも新しい子供の可能性の発見があるに違いありません。子供を成長させるためには、子供と親の「関係性を成長させる」ことの重要性が見えてきます。
決して決めつけず、前もって障害は取り除かず、これからの本人の歩みを少し遠くから離れて見ておくことが、彼ら/彼女らを支え、保護者にとっても新しい自己変革につながることだと思うのです。

医学部受験は「単なる受験」にとどまらず、将来のキャリアプランに向けて受験生に成長してもらう過程でもあります。医進チューターは日々のご指導を通じて、受験生本人とご家庭が一体となってすすめるように、付かず離れずアドバイスできるよう、見えないところでサポートに努めているのです。