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2019.10.3公開

面接練習の月。新入試が求める面接の方向性とは

面接も毎年変化する。最新のトレンドを捉え、面接の変化に対応しよう。受験生は単に知識として医療ニュースを知っているにとどまらず、それを自分でどのように捉えているかも示す必要があるのです。

9月・10月は面接練習の月

ちょうど9月は前年入試の面接試験内容が資料として上がってきており、それを分析しつつ次の年度の面接練習をする過渡期にあたっています。推薦入試の出願が目前になりますから、我々はできるだけ最新で実施されている質問項目を検討しながら、面接試験練習のコーディネートをしているのです。この時期は高校現場からも医学科入試の面接質問の指導についてのお問い合わせが多く、時々は高校に出張して面接指導のお手伝いをすることもあります。
「面接試験なんて毎年変わらないだろう」などと、毎年同じような質問で練習させている予備校があったら、それはとんでもないことです。分析すれば分かることですが、質問項目や手法には毎年トレンドがあり、進化したり、形が変わったりすることがあるからです。それは一つの大学にとどまらず、一定の数の大学が同じような傾向を示すものです。ですから、常に最新のトレンドを捉えることは重要です。

「医療ニュース」の質問

「最近気になった医療ニュースはありますか?」という質問は、随分以前から訊かれている質問です。この質問方法は裏を返せば、「あなたが自分で気になることでいいですよ」ということですから、ある意味楽なものです。内容のコントロールを受験生の側に委ねてくれているといえるからです。例えば、1点のみよく調べて準備しておけば、それをお答えするだけで事足りるわけです。ところが、この程度のテーマでも答えられない人はかなりいるものです。それは完全に準備不足と言わざるを得ませんし、それで面接に来るのはいただけませんね。
しかし、昨年くらいからその流れが変わりつつあります。「○○についてあなたはどう考えていますか?」という尋ね方が増えたためです。この質問方法には、ポイントが2つあります。ポイントの1つめは、医療関係の用語である「○○」についてダイレクトに訊いているということは、「○○を知っていて当然」という前提で質問しているということです。また、ポイントの2つめは「どう考えていますか」という訊き方をすることで、知識として「○○」を知っているだけではなく、個人の意見を同時に尋ねているところです。今年は昨年以上にこの種の質問方法の大学が増えていますが、これは、次年度迎える新入試が求める「思考力・判断力・表現力」を試すことに、面接の方向性が変化していることを示すものだといえるでしょう。
そうなると、まずは知識として「○○」の部分を知っておく必要があります。この「○○」の部分の用語には、医療関係の基本になるものと、最近のトレンドに属するものの2つの方向があります。
医療関係の基本になるものとして、「インフォームドコンセント」「国民皆保健制度」「3分診療」「医師不足」「高齢医療」「終末期医療」「ケアとキュア」「地域医療」「臓器移植」などの用語に関するものがあります。いくつか質問の例を挙げましょう。

  • 「脳死」は死だと思うか(秋田大/前期)
  • 「医師の偏在」についてどう思うか、原因と解決策は(川崎医大)
  • 「地域医療」の課題は何か(福井大/前期)
  • 今の「保健制度」のままで良いと思うか(東海大)
  • 「在宅医療」はなぜ必要か(群馬大/前)

一方、最近のトレンドに関するものでは、「iPS細胞」「遺伝子医療」「AI」「出生前診断」「ゲノム編集」「オプジーボ」など、特にここ数年で新聞やニュースで解説があるようなものがあります。また、これに付属して「倫理的な質問」も増えました。これもいくつか例を挙げましょう。

  • 「出生前診断」について自分が医師の立場ならどうするか(神戸大/前期)
  • 「ゲノム編集」についてどう思うか(島根大/前期)
  • 「AI」によって患者と医師の関係はどのように変わるか(岡山大/前期)
  • 「自由診療」についてどう思うか(愛媛大/前期)

自分のスタンスを持つ

さて、先にも述べたとおり、上記の質問のように「○○」について知っていることを前提として、必ず「どう考えるか」という訊かれ方をしています。知識として医療関係のことを知っていることは、自分の関心が高いことの証明にはなるでしょう。その上でそれを自分の中でどのように消化しているかが問題です。
どのように考えるかに正解はありません。しかし、それが一定の理論づけに支えられ、しかも医療者が持つべき倫理観をしっかり持っているかどうか、そしてあなたが「どう考えるか」に対応している必要があります。社会に根ざす倫理観があなたの「どう考えるか」に、しっかり根を張っていることをみたいという質問です。医療者に求められる社会性や倫理観の評価は、こういった質問の中に含まれているのです。
先日は中国で人遺伝子のゲノム編集をした双子が生まれた・・・という驚くべきニュースが世界中に激震を与えました。このニュースの持つ意味は、事実への驚きよりも、未来に向かって子孫まで影響するかもしれない遺伝子操作に倫理的な議論もなく、足を踏み入れてみようという「人の倫理を平気で越える医療関係者が世の中に存在している」ということでした。
単に知識として知っていることは、勉強すれば誰にでもできるでしょう。しかし、その使い方には「ヒトとしての倫理」があり、ある意味では「神の領域」に無秩序に手を出そうとすることは許されないという生命への畏敬の念があるはずです。そこには多くの議論があるべきだということを目の前の受験生が知ってくれているかは、ペーパーテストの点数ではわかりません。
「ヒトとしての謙虚さ」があって、知識と技術と倫理観が統一されていること、そのスタンスの行動であること、「医療ニュース」への質問は、医療へのそういう初歩のスタンスをもった人かどうかを尋ねているといえるでしょう。

ある受験生に面接練習をした際、「臓器移植についてどう思うか」と尋ねました。その受験生は「自分としては賛成である」といいましたが、追加で「臓器移植の意志表示カードは自分の提供臓器を選択できるが、同時に臓器提供しないという意志表示もできることを知っているか」と尋ねましたら、彼はそのことを知りませんでした。
いわゆる「ドナーカード」そのものは見たことがない人が多いかもしれません。しかし、そのドナーカードとまったく同じ表示事項が「保険証の裏面」や「運転免許証の裏面」にあることを知らない人は多いようです。高校生で運転免許証を持っている人は少ないでしょうが、保険証は全員が持っているはずです。かの受験生はそのことを知りませんでしたし、もちろん、「○をつける」という意志表示もしていないことが分かりました。保険証の裏面にこれが印刷されている段階で、この質問は「知らなかった」とは答えられない質問です。保険証は一人ひとり、すべての国民が手に持っているものだからです。一家に一枚ではなく、一人に一枚です。この段階で「臓器移植の意志表示」は、全国民が示さなくてはならない社会的に大きな責任なのです。「知らなかった」は個人の不勉強です。
彼が「臓器提供に賛成だ」というなら、それに見合う言行一致がなくてはならないでしょう。

受験生は単に知識として医療ニュースを知っているにとどまらず、それを自分でどのように捉えているかも示す必要があるのです。社会的に真に健康であれば、その回答に困ることはないでしょう。もしもまだそこまで考えていなかったという人がいるなら、大いに反省をし、自分の倫理的スタンスを見直すいい機会にしてほしいものです。