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2022.9.1公開

大人の感覚で考えた上で、覚悟を持った受験生になることが必要。その覚悟はありますか?

「山間部では医師が足りないと思います」というレベルは、面接官から見ると異様に子供じみて見えます。自身や周りの人たちの人生を一緒に考える大人のスタンスが必要でしょう。

「地域医療に貢献したい」というのはいいのですが…

医学部入試の面接試験の練習をする時、「地域医療に貢献したい」という方がかなりおられます。志望理由書を拝見した際にも、同様の文言をよく目にします。それは大いに共感することなのですが、では「本県(該当大学の所在県)の医療についてどんなことをご存知ですか」と質問すると、大半の方がここで止まってしまいます。
特に国公立大学の場合に、この質問をされることは多いです。ところが、面接者が大学所在県の医療状況をご存知ないまま「貢献する」という熱意一本で面接に臨んで来られるため、答えられなくなるのです。そこで、県の医療のことを少し勉強するために、出願しようとしている国公立大のある都道府県の「保健医療計画書」を覗いてみましょう。

「保健医療計画書」とは?

過去の記事でも「保健医療計画書」を取り上げたことがあるのですが、これは全国の各都道府県が作成している、自県の医療状況の分析などの「評価書」兼「計画書」のようなものです。これらは、各都道府県の責任において作成されており、広く全国に発信されています。
「保健医療計画書」は大学のホームページではなく、各都道府県のホームページに登録されています。試しに、いずれかの都道府県ホームページから検索してみましょう。大体どの都道府県のホームページでも、トップページの左上や右上に「検索」するためのボックス(検索窓)があるはずです。そこに「保健医療計画」と入力して検索すると、該当の項目がヒットするはずです。多くはPDFファイル(画像)になっていて、どんなパソコン、タブレット、スマホでも表示可能です。
文書全体は数百ページあるものですが、多くの都道府県は「全体版」の他に、章ごとに小分けして登録してあることが多いので、目次ページで大体の「あたり」をつけて、必要なところを参照してみるとよいでしょう。今回は、少し具体的に内容を見ていきます。

全国の都道府県の全ての「保健医療計画書」を見るわけにはいきませんから、少し具体的な内容をお示しするために、「兵庫県」のものを参照してみましょう。もちろん、皆さんは自分の目標とする都道府県のもので同じようにお探しになれば構いません。
大学が決定しなければ県を固定できませんから、受験生が「保健医療計画書」を読むのはそれ以降です。「一般選抜」の方なら大学入学共通テスト後に、出願大学が決定してから読むくらいのスケジュールですが、「総合型選抜」や「学校推薦型選抜」に出願する方は出願時期が早いので、年内にはじめる必要がありそうです。

「2次保健医療圏」を理解しておこう

「保健医療計画書」には「保健医療圏」という言葉が出てきます。「1次」〜「3次」の「保健医療圏」のうち、「2次保健医療圏」は、「高度・特殊医療を除く一般的な入院医療」をする場合の行政範囲となり、市町村をいくつかまとめた生活文化圏です。「入院する病院」を考えた時、近隣の市町村から患者が集まることを想定すれば、イメージが掴みやすいでしょう。
実際には、厚生労働省が行政管理のために、明確な範囲を定めているものと考えればよいでしょう。因みに、厚生労働省のホームページには、平成3年10月現在の「2次保健医療圏」は「全国で335区域」と書かれています。

さて、都道府県の「2次保健医療圏」をみる時、以下の4点をチェックしておきましょう。

1. 都道府県内に、「いくつの2次保健医療圏があるか」
2. それぞれの2次保健医療圏は「何という名称なのか」
3. 2次保健医療圏の「位置関係はどうなっているか」
4. それぞれの「2次保健医療圏ごとの課題」があるか

「2次保健医療圏」は単に名称を覚えればよいのではなく、地図で位置関係も頭に入れておきましょう。幸いにして、大方の「保健医療計画書」には、必ずといってよいほどこの「2次保健医療圏」の地図が載せられていますので、それぞれの「2次保健医療圏」ごとに、その名称、どの市町村でまとまっているか、それぞれの位置関係はどうなっているかの把握は容易です。サンプルで見た兵庫県では、もともと10個の「2次保健医療圏」に分かれていましたが、現在は8個で構成されています。

では、折角ですから地図の表記を参照してみましょう。以下のリンクから兵庫県の「保健医療計画書」を参照していただき、17ページの地図を参照してください。

「保健医療計画書」はこちら

サンプルとした兵庫県の「2次保健医療圏」は、「神戸」「阪神」「北播磨」「東播磨」「播磨姫路」「丹波」「但馬」「淡路」の合計8個です。この中の「阪神」保健医療圏はかつては「阪神北」と「阪神南」に分かれていました。「播磨姫路」保健医療圏も「西播磨」と「中播磨」に分かれていましたので、かつては合計10個あったものが、統合されて今の8個に至っています。このように、時折区分が見直しされることもありますから、常に最新の情報を捉えておく必要があります。因みに、これらの地名の漢字はちゃんと読めなくてはいけませんが、皆さんは大丈夫でしょうか?

医学部受験指導でこれにこだわるのは、厚生労働省がこの「2次保健医療圏」ごとに「医療状況の過不足や状況把握をしている」ため、面接質問に答える時に大人の回答をするためです。特に「地域医療」などの医師養成を目的とした入試ともいえる、「総合型選抜」や「学校推薦型選抜」の場合、当然これくらいの該当県の知識は必要になるでしょう。面接試験の際に「田舎では医師が足りていませんが都会では多いです」とか、「山間部では医師が不足しています」などと平気で受験生がいうのですが、面接官から見ると、それが異様に子供じみて見えることを知っておいてほしいのです。
具体的にいうと、「田舎」なのではなく「但馬保健医療圏」や「丹波保健医療圏」というはっきりした範囲がありますし、「都会」ではなく「神戸保健医療圏」や「阪神保健医療圏」という地域区分があるのです。医学部を目指す人が「地域医療に関心がある」というなら、これくらいの大人びた用語を使ってほしいところです。

10万対の医師数・医師の偏在・診療科の偏在

医療の過不足を数値化する方法には、目的別病床数や診療科ごとの医師数など、多岐にわたる指標があります。この「保健医療計画書」にはそれらの詳細が書かれていますが、今回はあまり触れず、最も単純な方法として「10万人当たりの医師数」をみましょう。これは、人口10万人に対して医師が何人いるかを、先ほどの「2次保健医療圏」ごとに示したものです。
平成30年統計の「人口10万人当たりの医師数」は全国平均が「246.7人」で、サンプルとして見ている兵庫県は、県全体の平均では「252.2人」ですから、一見すると全国平均よりも兵庫県は平均的に医師数が多いように見えます。ただしこれは、「神戸」保健医療圏の平均が「312.2人」なので、ここが圧倒的な平均人数で全体を牽引しているに過ぎません。これを他の「2次保健医療圏」で見ると、「丹波」は「197.3人」、「但馬」は「210.1人」、「播磨姫路」は「205.7人」など、大半の保健医療圏の医師数は、全国平均に及びません。大きな面積を抱えている兵庫県の3/4以上にあたる北部と西部の大半の地域では、医師数は全国平均に達していないことになります。医師は圧倒的な地域偏在になっているのです。
さらに、先ほど少し触れた診療科の偏在もあります。サンプルとして見ている兵庫県の例では、「保健医療計画書」第6部の「医師確保計画」の章に、小児科や産婦人科が慢性的な勤務医不足になっている他、産婦人科と外科の医師数は増加数が横ばいになっている…とされています。また、そもそも医師数が不足している地域では、そういった診療科の偏在は、さらに顕在化してくるでしょう。そういう縦横の様々な医療問題を抱えていることを百も承知で、面接官が受験生に問うのです。

「本県の医療状況について、どんなことをご存知ですか?」

それでも、「山間部では医師が足りないと思います」というレベルで、まだ答えていてよいでしょうか。

医師確保の計画はどうなっているか

さて、医師数でいえば、概ね全国のどの「保健医療計画書」を見ても、おそらく県庁所在地以外の「2次保健医療圏」では医師数が不足していることが書かれているに違いありません。そうなると、どのように医師を確保するかが問題になるでしょう。サンプルとして見ている兵庫県の例では「兵庫県地域医療支援センター」など、複数の機関が機能して、県内で何とか医師を充足させようと努力されています。とにかく、先ずは内部で調整してみようということなのでしょうね。
「医師確保政策」は入試で医学部生を募集する段階から「医師養成」をはじめる場合が少なくありません。その場合、「学校推薦型選抜」や「総合型選抜」のように、医学部募集定員に明確な募集枠を提示し、同時に、その枠からの入学者には、大学卒業後に研修〜地域医療の従事を義務化していることが普通です。
サンプルに見ている兵庫県の場合は「学校推薦型選抜」として、神戸大、兵庫医科大、岡山大、鳥取大に「地域枠」として募集定員を設けています。これらの募集定員は「卒後の義務年限がある」ため、卒前〜卒後に至るまで、神戸大学医学部附属地域医療活性化センターが中心となって、対象の学生に対する教育が行われることが、この「保健医療計画書」にも記載されています。
また、卒後の義務年限を課す募集枠の場合、大学入学後に相当額の奨学金受給が前提になることが多いようです。サンプルに見ている兵庫県の場合、「医師養成」枠で入学すると、国立大学の「地域枠」なら、在学6年間の奨学金は一千四百万円を超える額を受け取ることになります。もちろん、義務年限が終了すれば、全額返還無償です。
ところが、この募集枠に出願する方の面接練習をしていますと、何人かは「県民医療のために血税が自分に使われる」という大人的な自覚が足りない人がいます。その自覚がないままで受験生が単に合格を目指すことになれば、「その定員の目指すマインド」とかけ離れた、表面的な面接対策しかできなくなってしまうでしょう。兵庫県の場合、「医師養成」に関する詳しい説明が県のホームページに解説されていますから…、

「この募集枠で大学卒業後の9年間について、理解されていることを説明してください」

…と面接試験で細かな説明を求められ、卒後のキャリアプランを理解しているかどうかは必ず確認されます。初期研修2年、前期派遣3年、後期研修2年、後期派遣2年で合計9年…これをどの地域のどんな病院で研修や診療をすることになるのか、どのような研修が医師になされ、どのような診療科の医師を確保しようとしているか…詳細を口頭で説明し、県の求める人材と自分の理解に齟齬がないことを伝えなくてはならないのです。
「医師養成」枠のことをちゃんと理解せず、熱意一辺倒の付け焼き刃レベルで面接試験に臨めば、おそらく不十分/不適格と見做されてしまうでしょう。

これらをクリアするには、単なる「対策」では不十分です。時間をかけて自分の将来と対話し、卒後の9年を含む長期の人生設計をどうするのか、地域医療や総合診療・産婦人科・小児科などの、どの道で自分の医師としてのキャリアをいかに作っていくのかを考え、県のキャリアプランの養成をどのように取り入れていくかなど、大人の感覚で考えた上で、本当の意味で「覚悟を持った」受験生になることが必要です。
「保健医療計画書」には、医師のキャリアプランをどのように支援するのか、働きやすい職場づくりのために、医師の生活とキャリアをどのように支援するかが書かれていることが少なくありませんから(兵庫県のものには書かれています)、十分時間をかけて自分と相手(大学/県)との立ち位置を考える材料にしてください。

医学部に合格するための「よくある指導」に、合格を確保するために、推薦型選抜も受けてみてはどうか…というものがあります。それも一つの考え方なのでしょうが、少なくともそんな無責任な指導は私にはできません。
皆さんは、将来の自分の人生の中に「卒後の地域医療の義務があることが前提の入試」を位置付ける覚悟が持てますか? それができるのであれば、自分のよさと覚悟をどう伝えるのか、その方法を一緒に考えましょう…。

「地域医療」を目指す人への受験指導は、その人やその周りの人たちの人生を一緒に考える大人のスタンスが必要に思います。「保健医療計画書」を読むことは、将来が曖昧な受験生の皆さんに、そういった「大人の感覚」と真剣に向き合うことを突きつけるに違いありません。