保護者が子供を応援する方法 知っ得!医学部合格の処方箋 意識していますか?~心がけ編~ | 知っ得!医学部合格の処方箋 | 医の知の森<近畿地区医学科進学情報センター>
大人の感覚でアドバイスできることもある
受験に際するコミュニケーションを円滑にするには?保護者が大人の本領を発揮できる場面もあります。
●お互いに全てが見えているわけではない
保護者は幼少ごろの子供のイメージへの固定観念があり、何でも自分が教えなければ…という心理になりやすいため、自分の方が物事を「よく知っている=子供はわかっていない=私の方が子供を理解している」という思いに囚われて接することが少なくありません。
しかし、子供の成長はご家庭ではなかなかわかりにくいようです。年齢なりには精神的に成長している彼らですが、なかなか家族の前ではそれとわかるほど見て分かる状態は保てないものです。家族のように「安心できる環境」ですと、どうしても「油断している自分の姿を見せる環境」になってしまいますから、仕方ないかもしれません。お互いの言動にしても、家族は「もたれ合い」や「油断」が出るし、「甘え」も出るものです。必要以上に相手に忖度を求めることもあるでしょう。
面談の時、やたらと自分の子供の振る舞いや言動を否定する保護者がおられるのは、幼少ごろの子供のイメージが、日常接していても払拭されていないことに理由がありそうです。ところが、子供らから「いちいち言うと面倒なのでそっとしておいてください」と耳打ちされることさえあり、ちょっと笑ってしまいます。反対に保護者からは「子供には内緒で」という話をされることもありますから、見えていない部分があるのはどちらもお互い様というところです。
そんな中で全体が見えていないのに「見えている」と言い張ることが、お互いのコミュニケーションを難しくしてしまいます。これは受験のように特殊なシチュエーションでは、困ったハードルになります。
●お互いに話すには「話せる環境」が必要
家族は日常の価値観を学習以外でも共有しているのですから、「言葉以外のものがあれこれ指図している」のと同じことです。環境が子供を方向づけていることは多く、彼らは「家の空気」によって、何となく医学部志望ということが少なくありません。まずはこの空気を取り除くところからはじめたいものです。
これまで保護者は子供が「医学部に行きたい」と言ったことを深く考えずに単純に追認していたかも知れません。そこで一旦立ち止まって、「将来は医師になってどうしたいのか」「もしそうでないなら、どういう道で社会に貢献するか」と改めて考える道を示してあげて欲しいのです。
話すタイミングも大切です。双方が自分の都合で手空きの時に伝えようとしても、相手が聞ける心理状態であるとは限りません。本当の気持ちをお互いに伝え合おうとするなら、集中できるようにちゃんと日時を約束した上で、しかも場の雰囲気が「言葉以外のものがあれこれ指図している」環境にならないようにすれば、お互いの本音を出せるようになるでしょう。自分が選択することを保護者が待ってくれる、それを補助してくれるという言語以外の空気が、彼らに自分のことを具体的に考えさせ、口を開かせるに違いありません。
さて、大人に比べると、多くの高校生はまだ自分のことをうまく伝える言葉を持っていないかも知れませんが、言葉の選択をうまく保護者が手伝うことによって、本当に彼らの伝えたいことを紡ぎ出すことができます。ここは保護者の側が一歩譲ってほしいところです。でないと、また言い合いになってしまいますからね…。
まどろっこしいようですが、この方が結果的にうまくいきます。一度立ち止まって、改めて医学部受験に向かうとき、彼らは精神的に強くなるものです。
●自分を見つめ直し再び決意を固める受験生であれ
少し、実例でお話いたしましょう。ある年のこと、現役生の時に医学部受験に不合格になった生徒が、河合塾の医学部受験の高卒コースにやってきました。普通なら、その後は脇目もふらずに猛勉強というところなんでしょうが、彼はしばらくして「本当に自分がやりたいことは何か」と自分を見つめ直すようになりした。
保護者は彼がいろんな人に相談していることを知っていましたが、敢えて任せていました。何も全ての相談を保護者が負担する必要はなく、もっと詳しい方にお任せして連携を取る方法でも構わないのです。途中、一度は工学部に進学することも真剣に考えた彼でしたが、結果的に医学部受験に再度決意を固め、見事、大阪大学の医学部に合格しています。彼は「浪人したことによって、自分の本当にやりたいことを見つめ直すことができた。現役で受験した時には、決してこの気持ちにはなれなかった」と言っています。
最近のこととしては、昔のOBがYouTubeのトーク番組に出演してそれに似たことを話しているのを拝見しました。すでに医師になっている彼も、現役時代に医学部を受験しているものの、やはり浪人時代に「本当に自分の目指す道は何か」を見つめ直したということを話していました。結果として彼は地方の国公立大医学部に推薦入試で進学し、現在は地域医療に貢献する医師として活躍しています。彼の浪人時代のトークに出てくる人物たちの話は私もよく覚えていますが、ともに人生を重ねて結果的に医師になっていった多くの友人たちとの話には、とても重みがあります。MCの方が「現役の高3生にこの話は聞かせてあげたい」と言っておられたことはとても嬉しく思いました。
これら二つの高卒コースのOBたちのエピソードは、どんなに学力がある受験生でも「迷いがある」ことの象徴ですね。
一方、現役生は学校推薦型選抜(旧推薦入試)や総合型選抜(旧AO入試)に出願するケースが割と多いのですが、その場合にはかなり濃厚な「志望理由書」が必要です。ところが、将来に渡るビジョンや目的意識、決意がないと、これがまったく書けません。
推薦入試は「地域枠」であることが普通です。すると、なぜ「一般枠」ではなく「地域枠」なのかを述べる必要がありますから、おそらく地域医療を念頭に志望理由書を書くことになるでしょう。すると、その県の地域医療はどういう状態で、自分がそこでどんなことに貢献しようとしているかを「動機」として述べることになるはずです。大学によっては6年間で一千万円を超える奨学金を支給することもありますから、それに見合う志願者であることを伝えられなくては設置県の方に申し訳ないことになるでしょう。当然、真剣に自分の将来のキャリアと照らし合わせて「進学=自分の人生」として志望理由書を書くことになるでしょう。
結局、一周回って医師を目指すことの是非も含めて「自分の将来を考える」話に解決を与えなくては、何も進まないということになってしまいます。保護者の方はそのきっかけを与えてほしいし、子供の側もその助力を頼むことをダメなことと思ってほしくないのです。
●保護者が大人の本領を発揮できること
「お母さんはわからないんだから黙っといて」なんて小憎らしいことをいう子供たちも中にはいるでしょう。でも、英語や数学の指導ができなくとも、実は医学部入試では保護者が関われることがあります。それは、面接試験に関することです。では、保護者はそのために何を補助できるのでしょうか…。
とりわけ国公立大入試の面接試験では、「この県の医療のことでご存知のことがあればお話しください…」という、その大学設置県の医療状況の質問が頻繁にされるため、受験生はそれを把握し、答える準備は当然しなくてはなりません。
都道府県の医療状況は都道府県ホームページの「保健医療計画書」で具体的に公表されていますが、あまりにも詳しく書かれている上、大人が読むことを前提としているため、グラフや統計を含めて非常に読みこなすのが難しいのです。だからこそ、保護者の方がそれを読みこなし、子供にアドバイスしてあげることには価値があります。その過程を通じて本人の志望動機を高めたり、方向づけたりすることができるはずです。
全国に335区域ある「二次保健医療圏」のうちいくつがその都道府県にあるのか。医療分野ごとのその都道府県の課題はどうなっているのか。人口10万人に対して医師の数は二次保健医療圏ごとにどれくらいおり、それは全国平均に比べてどうなのか。その都道府県ではどのような施策によって医師を増やそうとしているのか。その増進させたいと思っている医師には、どのような期待が込められているのかなど、大学のホームページには記載されていないことがそこからは読み取れます。
特に学校推薦型選抜や総合型選抜への出願のときにはその助力は重要です。中には、「一般枠」の他にチャンスを1回増やすつもりで「推薦」も受けようなどと、浅はかなことを考えている受験生もいるのですが、推薦入試はそんなチャチな入試ではありません。ほとんどの推薦入試は合格時に「入学」することが前提です。将来の診療科を固定される入試もあり、合格=入学=将来のキャリアの方向性の決定」ということなら、自分の将来をよく考えた人が出願しなければならないことは明らかでしょう。
そのためには家庭でよく話し合い、保健医療計画まで目を通してから出願を決定してほしいし、志望理由書が必要な入試なら「充実した内容」をを書くべきです。つまり、その保健医療計画は「お母さんでないと読みこなせないんだから黙っていられない」し、それを通じて医学部受験に対する本人の意識を高めるには、大人の感覚が必要です。改めて、ご家庭でのお話が受験に対していかに大切かを示している例だといえるでしょう。