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2023.9.1更新

意外に多い「多浪生」の持つ課題とは

「多浪生」の定義

毎年、夏の面談の際に「多浪生が不利でない大学を教えてください」という相談をよく受けます。 これはかなりセンシティブな内容を含むことですが、今回はこの点について考えてみましょう。

そもそも「多浪生」とは、どのように定義すると良いでしょうか。今年高校を卒業した浪人生(最近は高卒生と表現します)を「一浪生」とすると、経験的に「多浪生」と呼ばれるのは、おそらく「三浪生」になった頃なのではないかと感じています。そこで、今回は「多浪生=三浪生以上」として考えてみましょう。
また、多浪生とはちょっと違うのですが、「再受験生」という方がおられます。「再受験生」は一度いずれかの大学に進学したけれども「再度別の大学を受験する」という受験生です。「再受験生」は大学在学途中に別の大学を受験する場合や、大学卒業後すぐに別の大学を受験する場合、いったん就職して社会人になってから再受験される場合など、色々なパターンがあリます。今回はこれらの「再受験生」も「多浪生」として統計に含んで考えることにいたしましょう。

意外と多い「多浪生(再受験生)」

この原稿を書くにあたり、校舎に3浪以上(及び再受験生)の人がどれくらいいるのか調査してみました。全体というわけではなく、手近なところで私がいる近畿地区の5校舎のみ調査したのですが、それでも何と100名をはるかに超える人数がおられることがわかりました。
もちろんすべてが医学部志望者ということではありません。文系学部を目指す方や理系学部でも工学部などを目指す方もそれなりにおられますが、やはり医学部を目指して浪人を重ねる方が一番多く、調査した「3浪以上」の方のうち60%ほどが医学部志望者で占められてしまいました。

「多浪生(再受験生)」に共通する課題

さて、「多浪生が不利でない大学を…」。なぜそんな質問が出るかといえば、多浪生が差別されるとよくいわれているからです。普通の学部は学科試験のみで合否判断することが一般的です。ところが、医学部だけは「面接試験」が必ず課されていますから、そこに何らかの「人為的な判断」が入り込む可能性があるのではないか…と多くの方が考えているようです。
しかし、大学側が「多浪生」かどうかを気にする理由はわからないではありません。実は、日本中の大学の医学科では留年する人数が多いことが問題になっているのですが、その留年する学生に「多浪生」が相当数含まれていると噂されているのです。
医学科では修学年数の「6年」で卒業できない人は、いずれの大学でも学年ごとに8%〜15%程度おられ、高校の留年率とは段違いの人数であることはあまり知られていないでしょう。進級途中で留年すれば、次の学年の指導人数に留年生が残ってしまうことになるのですから、指導する側にとってみればそういう事態は避けたいところです。
そこまで厳しくしても、留年人数は減少しないのが現状です。その留年生について色々な大学に進学したOB生から聞いた話では、その中のかなり多くが「多浪生」だというお話はかなり現実味を帯びているようです。

ここからは私の独り言としてお話しします。あくまで都市伝説として…。

「多浪生」にはある「共通する特徴」があります。それは「この人はきっと留年する…」と面接官に感じさせる特徴だともいえるでしょう。重要なことは「多浪生」だから面接でマイナスになるのではなく、その特徴がある人なら、誰でもマイナス評価になるかもしれないのです。ですから、「多浪生」の多くが抱える「ある特徴」…この主題に踏み込んでいかなければ、論点がズレたまま「多浪生」を語ることになってしまいます。

さらに独り言を続けます…。

では、「多浪生」に「共通するある特徴」とは何でしょうか。二千人以上医学部受験生をご指導してきた私の経験からみて、それを一言でお伝えすることは難しいのですが、要は「頑固」で「自己中心」で「社会性が乏しい」ことです。あくまで「多浪生」の一般論で、「再受験生」はちょっと違います…。
もう少し具体的に「特徴」を描きましょう。ただし、あくまで私の主観的な見方で独り言を呟いていると思ってお付き合いください。

・担任のアドバイスに耳を傾けず、学習は自分のやりたい方法にこだわる
・ニコニコしていて話を聞いている様子だが、実際には何一つ実行しない
・周りとのコミュニケーションをとって、それを参考にする姿勢がない
・「惜しかった」「うっかりした」「ちょっとミスした」「やればできる」といつもいう
・自分の判断で「授業を選択」し、「出席する授業」と「出席しない授業」がある
・自分が伸びないのは「いい先生」に当たっていないからだといつもいう
・礼儀、言葉遣い、立ち居振る舞いが比較的ガサツである

これは単に「多浪生」だけの問題ではなく、受験生の学習スタンスそのものの問題だともいえます。今年の受験生でこの中の3つ以上が当てはまったら危険水準でしょうね。現役生の方にこれが当てはまれば、今は「現役生」でも、ご自身の中に「多浪のタネ」を持っているといえます。
これらの特徴があってもうまくいく人だっているという声が聞こえてきそうです。しかし、それは突き抜けた天才だけの特徴であって、普通はダメになってしまうものです。

もうしばらく独り言を続けてみます…。

自分を相対化できるかどうかがポイント

「多浪生」の多くは、自分のやり方や考え方を「絶対化」してしまい、自分のやり方よりもよい方法があるかもしれないと考えること、いわば自分を「相対化」する意識が非常に希薄です。
結果的に自分のやり方で失敗し続けているのですから、何かを変えなければならないはずなのに、それができません。つまり、何かを捨てて、何かを取り入れて改善するという、そんな単純なことがなぜかできないのです。だから、彼らは同じ過ちを幾度も繰り返す特徴があります。また、改善や工夫をしようという意欲も乏しいといえます。自分のやり方を一ミリも変える気はなく、そんな自分のやり方で成果を出せるものを「誰か持ってきてくれませんか…」。彼らの要求はそんな感じなのです。

さて、彼らとはよくこんな会話をしたものです。

私 :「授業テキストの復習をしっかりやっていますか?」

生徒:「いや、自分は問題集を中心に演習をやっていますから。」

私 :「先日の模試を欠席していましたが、どうしましたか?」

生徒:「今はまだ受けるべき時期ではないと思うんですよね。夏頃には受けようと思います。」

私 :「出席していない授業があるでしょう。どうしていますか。」

生徒:「この科目は自分でできるので、別に授業はいらないんです。」

一体彼らは何のために予備校に来ているのでしょうか。「多浪生」になってしまっているのに、勝手に授業の選別をして受講していたり、出ていない科目の授業がいくつもあったりする人はかなり多いようです。また、いろいろな理由をつけて模試を欠席する率が高く、データがないために具体的な成績アドバイスがもらえない人が多数おられます(因みに本人はアドバイスは不要だと思っています)。担任からみればバックヤードから支えてあげたいのに、基本部分はボロボロです。正直なところ、学力構築の基盤を自ら崩してしまっているといえます。これでは成績を伸ばすことは非常に困難です。

仮に医学部に合格し入学できても、こういう人は「留年するタネ」を持ち続けていますから、結果的にそうなる可能性が高いと思わざるを得ません。おそらく面接試験では、そういうところを見透かされるに違いありません。面接試験も当然「評価」ですから、優劣はつくでしょう。だとすると、「多浪生」だから不利なのではなくて、そういう「タネ」を持っている人だから、どこへいっても評価が低くなってしまうだけのことなのではないでしょうか。

不合格になる本当の理由

さて、結論じみたことをたくさん書き連ねましたが、そういう「多浪生」の行動はどのような入試結果に結びつくかが問題です。
先ほど、前年の100名以上の「多浪生」のうち、60%以上が医学科志望者だったとお伝えしました。ほとんどが国公立大志望者でしたが、実際に出願したのは30名弱しかおられませんでした。およそ半分の方は共通テストでの得点が低すぎて医学科に出願できなかった様子です。
このうち、実際に国公立大の医学科に合格したのは4名のみでした。これは、共通テストの得点と模試の成績が上位の人ばかりです。何人かは神戸大や岡山大などの難関大に出願して不合格になってしまった人がいましたが、要は成績が良い人が合格し、そうでない人が不合格になっただけです。つまり、「多浪生に不利かどうか」を考える時間があったら、素直に学習して成績を伸ばせ!…というただそれだけのことなのです。
自分の好き放題のやり方で学習した挙句、共通テストの得点が出願すらできないレベルに陥って医学科受験を断念した人、出願はしても第一段階選抜で不合格になって受験票が来なかった人、受験はできても合格には程遠い成績でチャレンジした人。私が調査した範囲では「多浪生」が不合格になるほとんどの原因は、このあたりに落ち着きます。「多浪生」が不合格になる原因を面接差別に全て関連づけることは不合理です。単に成績が足りないことが不合格になる主な原因だといっても良いでしょう。
河合塾は有効なカリキュラムを準備して、毎週の理解の度合いを見直すように訓練していますが、それに参加せずに自分のやり方だけで学習を続けて、うまくいくはずがありません。自分本意の学習に合わせてくれる予備校などどこにもあるはずがないのです。

自分が「あるべき受験生」の形になることが「多浪生」には必要です。自分の座り続けている場所から立ち上がり、一歩進んで自分の居場所を変え、学習方法を修正しませんか。そこから振り返ってかつての自分の場所を眺める時、「多浪生が不利でない大学を教えてください」という質問が、実は「本質的な問い」ではなかったことが理解できるはずなのです。