大学別の医学科合格者学力を検証する 知っ得!医学部合格の処方箋 知っていますか?~知識編~ | 知っ得!医学部合格の処方箋 | 医の知の森<近畿地区医学科進学情報センター>
夏は我慢!演習は10月まで待とう
8月は基本過去問禁止です。受験を通じて本当の「自分さがし」をしよう。
入試は社会状況の「写し鏡」
最近の就職戦線は売り手市場のようです。医学科入試と関係ないと思われるでしょうが、社会状況はどのような入試にも何らかの影響を及ぼすもので、医学科入試でもそれは例外ではありません。就職率が良ければ「資格志向」から学生は遠ざかります。一方で就職難になると、今度は逆に公務員志向になったり、資格を取れる学部に人気が集まったりします。医療系の学部はそういった社会現象と表裏一体になった志望動向なのです。
ということは、比較的「売り手市場」といわれる現状では、医療系学部への受験の傾きは小さくなりつつあるといえるでしょう。特に医学科は難度が高いため、どうしてもその影響を受けます。具体的には、ここ2年の間でおよそ1割の志望者減となっているのです。
当然、今年の医学科入試の倍率は減少傾向です。国公立大前期試験での倍率はピーク時よりも下がって、今年はおよそ4.5倍でした。言い方を変えれば、受験者4.5人に1人が合格するとも言えます。私立大は複数大学の延べ受験生が多いので倍率は高めですが、それでも15.5倍程度です。
もっとも、この種の社会情勢に学部選択を左右されるのは比較的成績の低めの人たちです。ちょっとでも楽をして稼ぎたいという思いがどこかにあるのかもしれませんね。はじめから医学科入試を志す人は成績の高い人が多く、成績上位の人の志望者数はあまり変化がありません。では、もう少し具体的に見ていきましょう。
合格者は増加したか
受験倍率が小さくなったのですから、私などは国公立大、私立大とも確かに合格者は同じ成績ならやや合格しやすくなったイメージがあります。しかし、普通の人が体感できるほど「入りやすくなった」というには、ちょっと無理があるのです。
もう少し具体的にお伝えできるようにしましょう。統計的な情報を分析すると、例えば偏差値67.5の受験生が国公立大を受験した場合、2年前の合格率が47%で今年が55%でした。8%も上がっていますから、かなり大きな数字です。
ところが、これを「リアルな人数」に修正してみると、10人中4.7人合格していたところが5.5人の合格に増えた・・・ということになります。医学部受験生が10人いる高校の場合、「2年前には10人中5人くらいの合格だったのが、今年は6人になったぞ!」と先生がいっていた・・・というイメージですね。
いかがですか?もともと医学科受験生が10人いる高校がそれほど多くない可能性がありますから、受験生は体感的には「易しくなった」とはさほど感じていないに違いありません。私のいる大阪校医進館では医学科受験生が500名以上いるわけですが、それでようやくそれなりの規模で「合格者が増えたなぁ」ということが体感できる状態です。
500名を越える医学科受験生を見ることができる人だけが「ちょっと合格が出やすくなったね」ということが可能なことを考えると、それを体感しているのは河合塾といえども数人だけでしょう。ということは、世間の人がそれを体感できるほど医学科受験が易しくなっているかといえば、それは言い過ぎです。世間でその種のお話が回るようなことがあっても、決して医学科入試に油断しないことが大切です。
合格最低点に見る大学の違い
下のグラフは「大学の問題」でどれくらいの得点ができればいいかを検証した比較です。
まずセンター試験で各大学のボーダーラインまで得点できた人を想定し、その人がそれぞれの大学に出願した場合に「大学が発表している合格最低点」に達するには、大学の問題で何%得点できればいいかを「棒グラフ」にして示してみました。
一見して大学ごとに必要得点パターンが違うことがわかります。滋賀医科大、京都府立医科大、和歌山県立医科大のような単科医大では得点率でおおよそ50%程度、神戸大学や大阪市立大のように他学部と同じ問題を使用する総合大学では70%程度、同じく総合大学ながら、もともとの問題作成の難しい京都大や大阪大では65%程度です。こうして見ると、おおよその分類ができているといえるでしょう。
もしも受験生の皆さんが、自分に合う大学を選定することになった場合、過去問をやりながらそれを見つけようとするでしょう。しかし、基礎学力に曖昧な部分がある人に、果たしてそれができるのでしょうか。なんとなくできるような気がする・・・。その程度で大学を選定すれば、それこそ入試本番で大けがをしそうですね。
気を引き締めて医学科受験に臨む
我々予備校の担任は、毎年夏の面談前に「学習スケジュール」を提出してもらい、その内容と本人の成績状況を照らし合わせて本当にそれでいいのかどうかを検討しています。ほとんどの人は少なくともどこかは修正した方がよりよいものになるので、多少は指導を行います。
基本的に取り組む内容が高度すぎると、9月以降の学習への接続に問題があります。医学科受験生はどうしても難問や大学の過去問演習をしたいという欲求にかられますが、ここでそれをいかに我慢するかがポイントです。
まずは自分の学力の基本を作ること、そしてようやく秋になってから、自分の個性に合わせた出題の大学かどうかを検証することを基本指導としています。ですから夏の学習計画を見ながらいつも話をするものです。
「この過去問を演習するって書いてある所、やめないかい?」「問題集をひたすらやるって書いてあるところも、テキストを徹底することにしないかい?」「あなたね、我慢が必要ですよ。10月まで待ちなさいよ。」
私は常に過去問は10月までやらないように伝えています。これは、現役生・浪人生とも同じです。受験生は1年間のスケジュールの中で学力をアップしていく計画ですから、現役生・浪人生に関わらず、その年々の「8月の学習」段階では夏の値打ちを出さなければなりません。8月・9月・10月・・・受験生にとってそれぞれの「月」には明確な役割があります。8月は講習のように「予備校が配列して設計してあるもの」以外、基本は過去問を禁止しているのです。
基本学力を8月までは徹底して作り、9月から徐々に演習を加える、そして10月になってから過去問に臨みましょう。単科医大の問題で半分ちょっとは取れる自分なのか、総合大学の問題で得点率を高く取ることが自分流なのかが、そこではじめて明確に分かります。思いもよらなかった「本当の私」を皆さんが発見するかもしれません。
できると思っていたことが出来ず、出来ないと思っていたことができることもよくあります。思っていた自分と違う自分・・・受験を通じてそれを発見することは、人生をかけた本当の「自分さがし」なのかもしれません。