名古屋大学×河合塾 共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第48回 理学部 イベントレポート | 体験授業・イベント
「数学研究の一断章」
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第1部:名大教員による最先端研究についての講演
第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
第3部:講演者や大学院生と参加者による懇談会
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2022年9月4日(日) 14:00~16:00
- 会場
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千種校
- 対象
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中学生・高校生・高卒生と保護者の方
名古屋大学と河合塾のタッグで授業
名古屋大学との共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第48回 理学部を、2022年9月4日(日)河合塾千種校で開催しました。
河合塾と名古屋大学が共同で行う特別イベントとして、中学生、高校生、高卒生、保護者の方を対象に、名古屋大学理学部の教員の方をお招きし、講演会や懇談会を実施しました。生徒・保護者の方が名古屋大学の最先端研究者の講演を聞き、大学での研究の奥深さや楽しさを体感できる絶好の機会となりました。
- 新型コロナウイルス感染症対策のため、人数制限を設けて実施しました。
数学という学問を学ぶこと
第1部:数学研究の一断章
植田 好道(うえだ よしみち)教授(多元数理科学研究科 多元数理科学専攻)
植田先生はまず、なぜ数学の道に進むことになったかを話してくださいました。幼い頃は算数が苦手でしたが、中学生の時に図形の証明問題でよい点数を取ったことがとても嬉しく、高校生の頃には数学が好きになっていたそうです。大学生になって数学を専門にすることになりましたが、将来について悩んでいた時期がありました。しかし、お父様から「何でも一生懸命やらないと面白くない」と言われ、真剣に取り組んでみると少しずつ数学に対する気持ちの変化があり、夢中になっていきました。
今回は、大学で数学を学ぶということはどういうことなのか、大学の数学者が一体どのようなことをしているのかを話してくださいました。
先生が大学で行っていることは主に数学研究・数学の授業・学生の数学研究の手助けです。数学の研究は2種類あり、1つ目は共同研究で2つ目は個人研究です。また、研究のアウトプットには定理(補題、命題、系を含む)、具体例の構成、研究の枠組みの提案などがあり、こんなことが成り立つとあたりをつけて、それを証明する努力を行いますが、うまくいくのは年1・2回で、まったくうまくいかない年もあるということです。その研究の動機とは何なのかについても述べてくださいました。研究の動機は研究者により千差万別ですが、先生の場合は目の前のものをよりクリアに理解したいと考え、「なぜこんなことが成り立つのかを深く知りたい」、そのために「自分なりの理論を作りたい」ということが動機になっています。
また定理とはいったい何なのかを説明するにあたり、一般の人にわかりやすく「ピタゴラスの定理=三平方の定理」を用いて説明をしてくださいました。しかし数学の定理を理解することは難しく、その難しさには2種類あります。1つ目は一般にかなり予備知識が必要という難しさです。2つ目は計算のトリックのような新奇なアイディアが理解できるか、あるいは出せるかという難しさです。後者の難しさは小学校の算数の難しい問題に対して感じるそれと実感として大差無いとのことでした。
数学者にとって実験とはたくさん計算をして試してみることで、その中で規則性がみつかっていくそうです。また、既存の数学理論で理解できないものが出てきたときは、概念を拡張するしか方法がなく、それに応じて新しい数学理論を矛盾が起こらないように構築しなければなりません。
次に先生の研究分野について話をしてくださいました。先生の研究分野は作用素環論・非可換解析学です。原子の中がどうなっているのかは、20世紀前半にわかってきたことです。そこで生まれたのがミクロな世界の運動法則―量子力学です。量子力学にはハイゼンベルグの行列力学とシュレディンガーの波動力学があり別物に見えますが、等しくミクロの運動法則として物理現象を説明するものです。運動量(質量×速度)p、位置(座標)qがqp-pq=iℏ1を満たすべきであるということから、普通の数とは違う非可換性qp≠pqを許す「新しい数」を考える必要があり、さらに観測値が統計的にしか定まらないことも含む枠組みが必要になりました。この枠組みを実現する数学理論を構築したフォンノイマンの仕事を出発点とする研究分野であるとのことでした。
続いて数学が実社会にはどのように繋がっていているかについても話してくださいました。直接的に数学が社会と繋がるということは難しいようです。実社会では1人で研究できるような単純な問題はなく、色々な興味を持った人、様々なバックグラウンドを持った人が協力しないと問題に対応できず、多くの人が数学の理論を使ってみようと思わないと数学が生きません。このことを感染症の感染状況予測の例を挙げ説明をしてくださり、数学は確かに使われるが数学の内側だけでは解決することはできず、感染症の研究をしている人たちが、ある程度数学の知識を持っていることが重要だとおっしゃいました。社会では多種多様な知識を持った人々が協力して問題を解決していくという事です。
最後に高校生への言葉として、「大学は学問をする場所で、学ぶことだけが学問をすることではありません。自分の頭で考えるということが大切です。考えるためには素朴な疑問が必要です。疑問を持つためには知識が必要です。数学研究は比較的個人プレーができる分野で、最初から最後までブラックボックス無しに行えます。この部分は誰が研究してこの部分はわかりませんということがありません。私にとってそこが数学の魅力です。」と締めくくられました。
大学生活や研究内容を知り、将来の幅を広げる
第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
理学研究科 生命理学専攻 鈴木 絢子 (すずき あやこ)氏
理学研究科 理学専攻 松永 優希 (まつなが ゆうき)氏
第2部では、名古屋大学大学院理学研究科所属の2名の大学院生に、キャンパスライフや現在の研究内容をテーマにお話ししていただきました。
理学研究科 生命理学専攻 鈴木 絢子 氏
鈴木さんは、理系科目全般が好きだったこともあり、研究にあこがれ、純粋な興味があって勉強できるのは大学だけだと考えられました。名古屋大学の理学部は2年生で学科が選べるとで、1年生の時に、物理・化学・生物と広く学べて自分に興味があることを探せることから、理学部に行こうと思われたそうです。
大学では授業を受けているだけでは友達を作ることが難しいので、部活動・サークルに入ることをおすすめされました。部活動・サークルに入るまでの流れも詳しく説明されていました。
鈴木さんは植物が好きなため、生命理学科に進級し、1年半の専門的なことを学んでから、他の研究室より早い大学3年の10月から多細胞秩序研究室に配属となりました。生物は複雑で謎が多いことばかりなので研究することがいくらでもあることや、体内の化学反応を化学・物理・数学など理学のすべてを使って研究を行う分野です。研究室では実験や研究のほかにも、学会への参加やお花見などの行事をゼミの中で実施されているということでした。
ご自身の研究について、遺伝子がどのように働いているか知りたいということから、「植物の維管束の形成を制御する新しい仕組みをみつけたい!」と(維管束で働いている)細胞間コミュニケーションで重要な働きをする受容体たんぱく質に注目して研究をすすめられたそうです。ネット上で公開されているデータベースを使い、65個の受容体遺伝子を見つけました。その変異体を1つひとつ作り、維管束の中をみて、道管を観察して受容体REXを発見されました。今はREX受容体がどのように道管をきれいにつくっているか、今までにわかっている道管の制御因子や既知のホルモンと受容体REXがどう関わっているか、どのような関係で働いているかも調べられています。
最後に鈴木さんは、その研究分野に対して自分が世界で一番詳しい存在になれることは、研究する誇りでもあるし、楽しさでもあること、研究室の研究は人の指示に従うのではなく自分で計画し、手を動かして進めていくことで得られた結果、それを世界に伝えることは、自分の好奇心から始めた研究でも世の中の知識の1つとなって誰かが研究する際に参考となって新しい発見に繋がることもあるということでした。「研究を通してさまざまな人と知り合えます。研究室の人はもちろん研究分野の近い人と話をしたり、足りない知識を補うために他の分野の方と色々な分野の人と話すのは楽しいし、自分の研究がすすむ原動力になっています。」と、大学での研究の楽しさや醍醐味をお話しされて終わられました。
理学研究科 理学専攻 松永 優希 氏
松永さんは小学生の時にすでに化学に興味がわくような「元素生活」という本に出会っていました。高校進学にあたり、親から「やりたい勉強があるなら応援する」という一言で瑞陵高校のコスモサイエンスコースに進学し、とても充実した高校生活を送られました。その高校生活のなかで現在の研究につながる出来事がありました。
1つが豊田工業大学への校外学習で、そこでカーボンナノチューブという物質を知ったことです。もう1つは、時習館高校SSグローバル英国研修で、研修の一環で参加した講演会でカーボンナノチューブを研究している教授の篠原先生と出会ったことです。大学進学について、「なぜ行くのか?」「どう選ぶのか?」「卒業後は?」などを考えて、「自分でもっと勉強がしたい、篠原先生の研究室に行きたい!」と思い、名古屋大学理学部を第一志望に決め、受験勉強を必死に頑張られました。
大学1年は基礎科目で英語・第二外国語・数学・社会・さまざまな理系科目などがあり、理学部は1年生の終わりに学科分属があります。入りたかった化学科は一番人気で、成績が良くないと入れないため勉強を頑張られたそうです。
大学2年は専門基礎科目になり、化学の勉強からさらに細分化し、有機化学・無機化学・物理化学・生物化学を学びましたが、化学科の勉強はおもしろく、授業もわかりやすかったし、化学の中でも自分の得意不得意がわかってきたそうです。そして篠原先生の授業も受けることができました。また、アルバイトや合唱サークルにも参加されました。
大学3年は専門科目になり、2年生で学んだ科目から発展した内容の勉強でしたが、難しくて理解できず途中で諦めるものもあったそうです。しかし、そのことによって自分がどのような勉強に興味があるのかさらに深まったということでした。3年の終わりに研究室配属が決まるのですが、ここで篠原先生が定年退職されるので、研究室が無くなることが発覚しました。そのため、カーボンナノチューブを使った応用例で化学以外の勉強もできる「物理化学研究室」で研究を進めることになりました。
大学4年で初めての研究でカーボンナノチューブの分離に挑戦し、薄膜トランジスタを作りました。ただ、薄膜トランジスタは自分の研究室では作れないため、名古屋大学工学研究科 電子工学専攻 大野研究室と共同研究をすることになりました。その中で他の研究室と関わるおもしろさに気づき、“化学”という分野に囚われる必要がないと考えるようになられました。さらにカーボンナノチューブの研究を3年で終わらせるのはもったいないと考え、研究室の担当講師である大町先生に相談して、GTR(トランスフォーマティブ化学生命融合研究大学院プログラム)に参加し、博士進学をして研究を続けることを決意されました。次第に、薄膜トランジスタの応用研究が自分の研究室では手に負えない工学の内容となり、工学部の研究室にも出入りしてひたすら実験、研究をされたそうです。そして工学部の廣谷先生とかかわる機会が増え、廣谷先生が京都大の准教授になることが決まった際に共同研究の誘いを受けて、京都大学行きを決意されました。現在は京都で下宿しながら、京都大学桂キャンパスに所属し、2週間に1回くらい名古屋大学に戻って実験をしています。かなりハードですが、今の研究生活が一番楽しいということでした。
最後に、いい大学=いい教育・いい先生と出会えること、レベルの高い大学に行くことは、教育レベルが高い環境で、自分をいい状態にするための近道であり、その機会を得るために今チャレンジするのは、将来の自分への投資となるということも話されました。また、「努力しているから運がいい」、それは努力をする・しないは人の勝手だが、“努力をしない人”の周りに“努力する人”は集まらない。自分が頑張っていると周りの人も応援して声をかけてくれるので、運のいい生活を送るために、日々の生活で目標を持ち、達成するために行動すると良いと、研究を続ける中で経験されたことをメッセージとしていただきました。研究することのきっかけやそれに対する取り組み、大変なことも多いことを含め、研究を続けることの楽しさを熱く語って終わられました。
専門分野をより深く、興味と経験・知識の交換会
第3部:講演者と参加者による懇談会
第1部・第2部の終了後、参加者との懇談会が行われました。
Q.なぜ数学研究の道に進まれたのですか。
A. (植田教授)数学を仕事にするということは、実際になるまで考えていませんでした。博士課程に進む時も研究成果をあげることができるのだろうかと悩みましたが、やめるという踏ん切りがつきませんでした。私は数学者になることを目標とする自信もありませんでした。博士課程の最後の年に海外の大学で研究する機会を得て、数学の世界の夢みたいな人が目の前にいる環境もあり、自分自身頑張るしかないと考えました。その後、大学教員として働くことになり、数学者として働くということに責任感を覚えるようになりました。
Q.大学で数学を学ぶことによって、高校で数学を教える際に役立つことはありますか。(高校の数学教員になりたいと考えている方からの質問)
A.(植田教授)高校の数学の先生が高校までの数学しか知らないでよいわけがありません。私は大学で授業をしていますが、自分よりも優秀な生徒が授業を受けている可能性もあります。それに対応しなければなりません。高校の数学教員も同じです。大学レベルの数学はわかっているべきでしょう。どこまでの知識があればよいということは無く、知っている程よいです。また教員になる人こそ、些細なことでも研究経験を持っているのが理想と思います。
Q.生物系での就職は難しいのでしょうか?
A.(鈴木さん)私は、就職を選んで就職活動も終わっています。専門的に生物系の研究を使って就職しようとする人は少ないですが、研究職という仕事で就職しようとするなら、企業が今行っている研究と全く一致する研究をやっている人はかなり少ないので、今まで自分がどのような道筋を考えてやってきたか、仮説を自分で作って検証してきたかの能力を問われます。理学部だから、生物系だからということで難しいことはないです。
Q.進路選びで迷ったとき、決め手を1つあげるとしたら何か教えてください。
A.(松永さん)将来何になりたいかを考えるときに、どれが1番いいかを考えるのか良いでしょう。
今やっている自分の研究が凄くおもしろくて、それをもっと続けるような道で企業に就職することも良いですし、大学の研究職になるのも良いです。どういうことをやりたいかを考えることが大事です。そういう道をできるだけ描けることが1番大事で、そういう道を考えるために、どういった大学に行くかを考えることに繋がります。
Q.今研究している分野以外に興味がわいた場合、研究内容が変化することはあるのでしょうか?
A.(松永さん)私がやっている研究は、大学4年生で先生から提案された研究です。博士課程になると自分の研究内容でどういったものをやりたいのか少しずつ提案でき、自分で道を開く事もあるので、もし自分の興味がかわったら研究内容少しずつ変更することも可能だと思います。