名古屋大学×河合塾 共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第47回 医学部 イベントレポート | 体験授業・イベント
「感染症とのたたかい」
- 講演内容
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第1部:名大教員による最先端研究についての講演
第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
第3部:講演者や大学院生と参加者による懇談会
- 日時
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2022年7月3日(日)14:00~16:00
- 会場
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名駅校
- 対象
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中学生・高校生・高卒生と保護者の方
名古屋大学と河合塾のタッグで授業
名古屋大学との共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第47回 医学部を、2022年7月3日(日)河合塾名駅校で開催しました。
河合塾と名古屋大学が共同で行う特別イベントとして、中学生、高校生、高卒生、保護者の方を対象に、名古屋大学医学部の教員の方をお招きし、講演会や懇談会を実施しました。生徒・保護者の方が名古屋大学の最先端研究者の講演を聞き、大学での研究の奥深さや楽しさを体感できる絶好の機会となりました。
- 新型コロナウイルス感染症対策のため、人数制限を設けて実施しました。
感染症対策の現状とワクチンのあり方について考える
第1部:感染症とのたたかい
柴山 恵吾(しばやま けいご)教授(医学系研究科 分子病原細菌学)
柴山先生は「感染症がなぜなくならないのか。また、我々は感染症にどう対応すればいいのか」をお話してくださいました。
初めに「感染症の歴史」について説明がありました。過去にペストやインフルエンザで多くの人が亡くなりましたが、微生物が感染症の原因だとわかってから感染症の研究が発展しました。また、その後発見されたペニシリンには菌を殺す物質があり、ペニシリンが感染症治療に劇的な効果をもたらしました。さらに、ワクチン開発により感染症がコントロールできるようになったため、最初にワクチンが作られた天然痘は今では根絶されているそうです。ただ、制圧できた感染症がある一方で、食中毒のように動物が持つ細菌が原因の感染症や薬剤耐性を持つ菌が世界中に蔓延してしまった場合には、感染症を制圧する事は難しいとお話しされていました。
次に「なぜ感染症は根絶できないのか。なぜ細菌は薬剤耐性を示すのか」について説明されました。細菌やウイルスは進化と適応がとても早く、1個の細菌でも速いと20~30分で分裂し、翌日には数千万から数億個に増えるそうです。それだけ多く細菌があると中には突然変異を起こすものもあり、他の耐性菌から都合の良い遺伝子を取り込んで変異を起こしたり、菌に感染したウイルスが他の菌に影響を与えて突然変異を起こしたりして、それが薬剤耐性を持つ株として出現すると説明してくださいました。また、ペニシリンの発見からさまざまな抗生物質が作られてきたものの、抗生物質に対する耐性菌はすぐにできてしまい、1990年代頃から新しい抗生物質は開発できていないそうです。薬剤耐性細菌を増やさないようにするためには、抗生物質を適正に使用し、感染拡大の防止策をとることが大切ですが、発展途上国においては処方箋がなくても薬が買えてしまったり、病院内の感染対策が十分でなかったりするので、抗生物質を適正に使用することが難しい状況があるようです。感染防止対策もどこまでコストをかけるかが病院や行政の問題としてあるようですが、柴山先生ご自身は「今後も新しい抗生物質を開発していくことが我々の使命だと考えています」と話されていました。
続けて、ワクチンの効果についてお話してくださいました。ワクチンは自らが病気にかかりにくくなることと、社会全体で流行を防ぐ集団免疫を作ることが目的です。集団免疫については、ワクチンを打っていない人が多いと1人の感染者からすぐに感染が広がりますが、ワクチンを打っている人が多いと、免疫を持つ人が多い中で感染が広まりにくいので、ワクチン接種をすすめるのは集団免疫を作る効果も見込んでいるとのことでした。なお、この効果を狙って根絶できたのが天然痘です。天然痘は人にしか感染せず、症状も出るので、無症状の感染者から感染していない人に感染することはなく、ワクチンの効果が出て根絶につながりました。ですが、インフルエンザウイルスなどの人以外にも感染する感染症は、人がいくら対策をしてもウイルスが動物の体内でも生存できるので根絶は難しく、また突然変異を起こしやすいものもあるため、ワクチンの効果が弱まってしまうとのことでした。
最後に、ワクチンに対する考え方について、新型コロナウイルスに関して言えば、「ワクチン接種が原因で多くの人が亡くなっている。ワクチンの動物実験ですべての動物が死んだ。」などの真偽不明の噂が出回っているようですが、こういった噂は全くの嘘でたらめであり、誤った情報は実際のデータを曲解し、専門用語を用いて信憑性を持たせていることが多いそうです。そのような情報に惑わされないよう、「正しい情報を得たうえでワクチン接種のリスク、もしくはワクチンを接種しないことによるリスクを自分がどこまで許容するか。さらに、個人として同時に社会全体としてどうワクチンを使うのが良いのかを考えてほしいです」と語られ、講演を締めくくられました。
大学生活や研究内容を知り、将来の幅を広げる
第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
医科学専攻・分子細胞免疫学 由利 直樹(ゆり なおき)氏
総合医学専攻・免疫代謝学 神田 容(こうだ ひろ)氏
第2部では、名古屋大学大学院医学系研究科所属の2名の大学院生に、キャンパスライフや現在の研究内容をテーマにお話ししていただきました。
医科学専攻・分子細胞免疫学 由利 直樹 氏
由利さんは初めにご自身の進路選択についてお話しされました。少年時代は昆虫や恐竜に興味があり、昆虫学者や恐竜の研究を志していたそうです。高校3年生の頃には、すでに行きたい大学や学部、進みたい研究室まで決めていましたが、ご自身の経験上「早期に進路を絞りすぎるのは余り良くないです」とおっしゃっていました。大学では物理学を専攻され、分子細胞学という学問を新たに学び、ミクロの世界のおもしろさを知ったとのことです。大学院は名古屋大学大学院へ進学し、免疫学について研究されています。
由利さんは「大学院生ってみなさん馴染みが無いですよね」と、学部生と院生の違いについてもご説明してくださいました。学部生のメインはあくまでも授業であり、授業後もバイトをしたりサークル活動に参加したりする人が多く、自由な時間が多いと話されていました。高校時代に進路を絞り過ぎる必要はなく、この自由な時間で経験したことや興味を持ったことをきっかけにして、将来研究していきたい分野を決めればよいとご自身の進路選択を振り返られました。一方で大学院生は研究がメインの生活です。授業は修士1年生と博士1年生のときに少しあるくらいで、ほとんどの時間を所属するラボで過ごすとお話しされました。ラボでは実験をするほかに論文を読んだり、英語で行われる論文紹介の準備をしたりするそうです。
由利さんは、修士課程から博士課程へ進学する学生の金銭的負担についても述べられ、平成30年から導入された「卓越大学院(WISEプログラム)」についてもご紹介されました。これは、博士前期課程(修士)に在籍しながら国から給料をもらい研究できる制度で、旧帝大などの大学で採用されている制度です。こういった仕組みを利用して経済的不安を軽減させながら研究していく手段もあるとお話しされました。
続いて、由利さんが感じる科学のおもしろさについて語られました。普段の生活の中に溢れている単位(物の大きさや距離など)はミリメートルからキロメートルであり、このスケールについては直感で容易に想像ができます。一方で地球や宇宙といったマクロのスケールや原子などのミクロのスケールについては、直感で理解ができない世界であり、その存在こそが科学のおもしろさであると述べられました。
さらにご自身の研究テーマである免疫学について、「がん免疫療法」を例に挙げながらその素晴らしさについてもお話しいただきました。既存のがん治療が、いかにがん細胞を殺すかという点に着目した治療であることを述べられ、即効性というメリットがありながらも、デメリットとしては処方物が代謝され体外に排出されるたびに投与を繰り返さなければならないこと、がん細胞の進化に弱いこと、再発や転移に弱いとことをご説明されました。またがん免疫療法については、ヒトが本来もつ免疫の力に着目した治療法であり、免疫細胞を抑制しているブレーキを外すイメージで、利点としてはがん細胞の進化に対応できる免疫細胞の柔軟性や、がん細胞発生初期に強く、外科治療と組み合わせることで再発・転移を抑えられるメリットがあるとお話しされました。これらの利点を生かしながら、がん予防にがん免疫療法を活用していきたいと今後の展望について語られ、講演を締め括られました。
総合医学専攻・免疫代謝学 神田 容 氏
神田さんは、初めにご自身の経歴についてお話されました。高校卒業後は名古屋大学医学部医学科へ推薦入試で進学、卒業後は附属病院で2年間医師として活躍されました。現在は名古屋大学医学系研究科免疫代謝学の大学院生として研究に取り組まれています。
「これを研究したい!」と子供のころから決めていたものがあったわけでは無く、小中学生の時は、理科の実験やや宇宙の仕組みに、高校時代は、現在の研究とも繋がる生活習慣病に興味を持つなど、昔から広く興味関心を持っていたそうです。
大学6年間では、特に3年次後期の「基礎医学セミナー」で半年間研究に向き合えたことが、のちの大学院進学を選択する後押しになったと振り返ります。
同級生のほとんどが医師の道へ進む中で、神田さんが研究の道を選んだ理由は、「医師として働く中で、医療が医学の知識に基づいて行われているのを実感したが、症例に対して科学的な疑問を抱いても解決できなかったこと」。一度は医師の道へ進んだものの、病気のメカニズムを明らかにしたいと思い、大学院への進学を決断されました。
名古屋大学では、早期に博士号取得をめざす方向けにMD・PhDコースというコースが設置されていて、最短で学部4年生から大学院へ入学することができます。学部生だけでなく、卒後2年間の初期研修を修了した方も利用できる制度で、2年間医師として活躍された神田さんもこの制度を利用されています。
次に、神田さんが現在研究されている脂肪組織についてご説明されました。脂肪細胞には白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の大きく分けて2種類があります。脂肪組織には、脂肪細胞の他にもマクロファージなどの免疫担当細胞をはじめとした、さまざまな細胞が存在し、それらが密接に関わって、脂肪組織の健康な状態を維持しています。肥満や痩せでは、このバランスが崩れてしまっています。海外のデータによると、平均的な体重では死亡率が低く、肥満や痩せの状態では高いことが報告されています。世界的に肥満が増えていることもあり、社会問題になっています。肥満自体は病気ではありませんが、肥満からメタボリックシンドローム、糖尿病、脳卒中や心不全といった重篤な病気に繋がるメタボリックドミノを引き起こします。肥満のメカニズムを理解し、肥満を予防できれば、多くの病気を未然に防げると考え、研究を進められています。
肥満に伴って、脂肪細胞が肥大化すると炎症を引き起こします。脂肪組織の炎症が慢性化すると組織線維化と呼ばれる状態になってそれ以上脂肪が貯められなくなり、余剰な脂肪が血流に乗って肝臓や筋肉などの本来脂肪がついてはいけない臓器に沈着し、病気の原因となります。神田さんは、線維化した脂肪組織に存在するMincle陽性マクロファージに着目し、どのようにして肥満に伴って脂肪組織の線維化が引き起こされるかを研究されています。仮説に対して主体的に計画をたてて実験を行えることや、朝4時にアイデアが浮かんだ時は電車に飛び乗ってすぐ研究室に向かったエピソードなどを交えつつ、「研究は楽しいです」と笑顔で語られました。
講演の最後に、今後名古屋大学をめざす方向けにメッセージをいただきました。
1つめは「研究に向いているか、何の研究がしたいかは後回しで良い」。名古屋大学は医師としての道を残しつつ、研究を志すことができる環境が整備されています。また、医師でなくとも医学研究をしている人もいます。農学部出身の方や管理栄養士としてのバックグラウンドを持っている方もいらっしゃいます。大切なのは、「研究をやりたい」という情熱です。まずはやりたいことを見つけましょう。
2つめは「どの進路を選択しても喜びがあり、後悔もある」。周囲のアドバイスに耳を傾けつつ、自分の進路は自分で決めましょう。後悔したとしても、自分で決めた進路はきっと最善のものになります。
3つめは「諦めなければ焦ることもない」。みなさんが夢に溢れわくわくした人生を歩めますように、と講演を締め括られました。
専門分野をより深く、興味と経験・知識の交換会
第3部:講演者と参加者による懇談会
第1部・第2部の終了後、参加者との懇談会が行われました。
Q.海外の大学や学部に興味がある場合、行きたい大学や学びたい学問をどう選べばよいか。
A.(柴山教授)日本の大学を出てからであれば、ある程度どんな分野が学びたいか考えがまとまっているのではないでしょうか。どんな研究室があるかで選ぶのも良いと思います。その研究室の先生についてなど、インターネットを利用して調べてみてください。また、自分が暮らしていくことになる場所なので、興味のある国や都市をきっかけに調べていくのも良いと思います。
(神田さん)名古屋大学では留学制度も充実しているので、海外の提携先の大学へ留学することもできます。そういった大学の留学支援制度なども参考にしてみてはどうでしょう。
Q.複数の感染症に同時にかかることはあるのでしょうか?
A.(柴山教授)インフルエンザにかかって肺炎を併発するという例がありますが、ウイルス同士が同じ個体に存在できないこともあって、そんなにたくさん発症するわけではないと思います。
Q.感染症の重症化はウイルスのせいでしょうか?それとも免疫の弱さなのでしょうか?
A.(柴山教授)ウイルスの株が強ければ広まりにくく、弱ければ広まりやすい。さらに免疫力は基礎疾患があるか無いかにも関りがあるので、どちらかではなく、両方の要因が関係していると思います。
Q.名古屋大学医学部をめざしていますが、レベルが高く、自分の成績では厳しいと思っています。他の国公立大学を受験することになると思いますが、どう選べばいいでしょうか?
A.(神田さん)医師になる、ということが目標であればどこの大学でも大丈夫です。医学研究をするとなったときは大学ごとの特徴がありますので、情報収集することが大切です。また、親元を離れることが可能かなど、地理的な問題もありますのでそこも考える必要があります。
(由利さん)神田さんと同じく、医師免許取得というところまでならどこの大学でも変わりません。しかし、学生の意識面の差はあると実感しました。やはり学力を求められる大学の方が生徒も意識が高いです。学問は大学から始まりますので可能な限り上位の大学をめざしたほうがいいと思います。
(柴山教授)どこの大学を出ていただいても院試をクリアしていただければ名古屋大学の院は入れます。まずはモチベーションもって取り組んでいくことが大切です。
Q.学部で通っている大学と違う大学の院の情報はどうやって手に入れましたか?
A.(由利さん)院試の問題自体は学部の窓口にあり、いつでも見に行けます。しかし普段から教授の授業を受けていた方が圧倒的に答えやすくなる印象です。自分の場合はかなりイレギュラーですが、院の見学で訪れた際に同じ大学卒の院生を紹介していただけたので色々と相談していました。