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名古屋大学×河合塾 共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第39回 経済学部 「経済学から見た東京オリンピック延期」 イベントレポート | 体験授業・イベント

名古屋大学と河合塾のタッグで授業。

名古屋大学との共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第38回 経済学部を、2020年10月11日(日)河合塾名古屋校で開催しました。
河合塾と名古屋大学が共同で行う特別イベントとして、中学生、高校生、高卒生、保護者の方を対象に、名古屋大学経済学部の教員の方をお招きし、講演会や懇談会を実施しました。生徒・保護者の方が名古屋大学の最先端研究者の講演を聞き、大学での研究の奥深さや楽しさを体感できる絶好の機会となりました。

講演内容

第1部:名大教員による最先端研究についての講演
第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
第3部:講演者や大学院生と参加者による懇談会

日時

2020年10月11日(日)14:00~16:00

会場

名古屋校

対象

中学生・高校生・高卒生と保護者の方

判断の過ちを避けるための経済学

●第1部:経済学から見た東京オリンピック延期 ~分からないのに、決めなければならないときにどうするか~
齊藤 誠(さいとう まこと)教授(経済学研究科)

齊藤 誠(さいとう まこと)教授(経済学研究科)

先生は、経済学や金融論のほか、大規模災害(地震・水害・パンデミック等)や経済危機などの様々なリスクに対してどのように意思決定をしていくかの研究をされています。本講義では、今年7月24日から開幕される予定であった東京オリンピックが、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で延期が決定されたことを事例に「わからないのに決めなければならないときにどうするのか?(不確実性を基にした意思決定)」という問題について、経済学の観点からお話しいただきました。
東京オリンピック延期問題は、コロナの感染爆発が起きるのかどうかという不確実な状況の中で延期・実施の判断を下さなければならなかったため、「①社会全体は、最悪なシナリオを避けたい」・「②行政官や政治家は、感染爆発は起きないのに起きると判断する過ちを避けたい」・「③専門家は、感染爆発が起きるのに起きないと判断する過ちを避けたい」という考え方や立場の違いがあったと説明されました。
①の最悪なシナリオを避けたいという考え方は、テロや大きな事故、環境問題などのこれまで世界で起きた事例を基に紹介されました。しかし、経済学では、最悪なシナリオを避けることを第一として意思決定してしまうと社会の可能性の全てを放棄してしまい、経済活動が立ち行かなくなる恐れがあるため、「マックス・ミン基準『max[min(利得の評価)]』」を用いて、最悪のなかで最良を選択して実施していくと説明されました。
また、判断の過ち②③を避けたいという考え方に対しては、推定無罪の原則を例にして説明されました。推定無罪の法則とは、人間や組織は判断を誤る可能性がある以上、間違った判断で他人に危害を与えないように最大限の努力を行うという思想に基づくものであり、証拠不十分な場合は、無罪と推定する原則のことです。この法則より、社会の受け入れる姿勢としては、いずれの判断についても過度な賞賛や非難をせず、冷静な評価をすることで判断の過ちをバランスよく受け入れることができると説明されました。したがって、2020年夏にコロナウイルスの「感染爆発が起きる」という判断に基づく東京オリンピックの延期は、「感染爆発が起きない」可能性も考慮し、また、2021年夏に「感染爆発が起きない」という判断で実施し、「感染爆発が起きる」可能性も考慮しなければならないと説明されました。
最後に大学進学を希望する生徒に対して、「どの分野に進学しても専門的に学ぶということはその分野の専門家になるということ。『正しい』と確信することは勇気を持って正しさを主張すること、また、『わからない』ことについては誠実に『わからなさの程度』に正直になること」が大切であるとアドバイスをいただきました。
参加者の中には「わからないのに決めなければならないこと」の判断について参考になった方もいたのではないでしょうか。

大学生活や研究内容を知り、将来の幅を広げる

●第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
経済学研究科・社会経済システム専攻 小林 啓介(こばやし けいすけ)氏
経済学研究科・社会経済システム専攻 塚本 高浩(つかもと たかひろ)氏

第2部では、名古屋大学経済学研究科所属の2名の大学院生に、キャンパスライフや現在の研究内容をテーマにお話ししていただきました。

経済学研究科・社会経済システム専攻 小林 啓介 氏

経済学研究科・社会経済システム専攻 小林 啓介 氏

小林さんは現在、名古屋大学経済学研究科・社会経済システム専攻に在籍しています。名古屋市生まれの小林さんは、名古屋近郊で就職する先輩が多く、ご自身も就職するなら地元が良いと考え、名古屋大学経済学部に進学されました。高校時代は工学部にも興味をお持ちでしたが、高校で大学教授の話を聞く機会があり、経済学部に最も興味を持ったため学部を決定されました。大学をご卒業後、大学院に進学し、現在はマクロ経済学の金融分野の研究をされています。
小林さんには、高校の授業で習う経済と、大学で学ぶ経済学との違いを対比してご説明いただきました。高校の教科書に載っている内容は、経済事情や経済制度史としての側面が強くあります。一方、大学の講義では、それぞれの政策名を「覚える」ことよりも、その背景にある経済メカニズムや政策の目的を「理解する」ことが重要であるとお話されました。
また、ミクロ経済学とマクロ経済学、経済史の特徴についても教えていただきました。ミクロ経済学では、主に市場の仕組みを扱います。例えば、高校の政治・経済で習う独占禁止法について、「どのような理由で独占・寡占が成立しているのか」「独占や寡占が引き起こす弊害は何か」という視点で考えるというご説明をいただきました。マクロ経済学では、主に一国の経済の変動を扱います。高校の授業で習う、「景気が悪いときは、通貨の供給量を増やして金利を下げる」ということについて、マクロ経済学の観点では、「通貨の供給量を増やすことが、どのようなメカニズムで金利を下げるのか」「こうした経済政策が効かないのはどのような場合か」ということについて学びます。また経済史については、高校の世界史Bの科目に焦点を当てて話されました。産業革命について、大学の経済史では「産業革命に対する見解はどう変遷したか」「なぜアジアとヨーロッパで近代化に差が出たのか」というような着眼点で深堀をしていくそうです。このように、大学の経済学では高校で習った事柄に対し、なぜ、何、どのように、という視点で理解を深めていくという、高校での勉強と大学での研究のつながりについて教えていただきました。
また、ミクロ経済学の専門家は民間企業、マクロ経済学の専門家は中央銀行や官庁に配置されているという、学問と職業とのつながりについてもご紹介いただきました。特に、マクロ経済学を学んだ学生は、比較的に金融、証券の就職先を選択する人が多く、職業につながる経済学の特長をお話しされました。

経済学研究科・社会経済システム専攻 塚本 高浩 氏

経済学研究科・社会経済システム専攻 塚本 高浩 氏

塚本さんは名古屋大学大学院経済学研究科社会経済システム専攻博士後期課程3年に在籍されています。高校時代は、苦手な英語の勉強を克服しようと、河合塾に通って現役で名古屋大学経済学部に合格されました。
大学院進学を考える後押しのきっかけとなったのは、大学2年次に名古屋大学経済学部のプログラムで行ったドイツ・フライブルクへの短期留学でした。人口約20万人という規模の街に路面電車が4路線64停留所存在し、活気に溢れる街の中心部の姿に衝撃を受けるとともに、なぜ活気があるのかを知るために、様々なフィールドワークをされました。しかし、この時に分析の術の知らなさを痛感され、経済学や統計学をさらに深く学び、実世界の役に立つ分析ができるようになるために大学院に進学されました。
ヒト・モノ・カネが動くものはすべて研究対象であることを大学の卒業論文の様々なテーマ実例を挙げながら説明されました。そして塚本さんの実際の研究を事例として、研究をする流れに関して話されました。研究を始めるにはまずは疑問を持つことと、知的好奇心が必要であると話されました。塚本さんは、愛知県を良くしたいという考えから、そもそも愛知県は自動車産業が盛んというけれど自分の住んでいる市町村はどのくらい依存しているのだろう?という疑問を持たれました。まずは、GoogleやGoogle Scholarで現状を探ったり、論文を探したりしました。次に、自動車産業依存度をどうやって測るべきかと考え、「全産業の生産額に対する自動車の生産額の割合」であると推測しましたが、この定義だと自動車を生産していない市町村の依存度が0になってしまいます。そこで、車1台生産が増えたとき、車産業の生産は増えるだけでなく、車を作るために必要な部品や材料などを生産する産業も増加するはず!という産業連関を考慮するべきだと考えました。よって、自動車産業依存度の定義を「全産業の生産額に対する自動車産業の需要によって生じる生産額の割合」とされました。このことにより自動車を生産していない市町村の自動車産業依存度も推計できることになりました。実際に推計するために愛知県全市町村の「産業連関表[一定期間に行われた財(製品)やサービスの産業間取引が記載された統計表]」を作成されました。そして、この産業連関表を用いて推計した愛知県内の全市町村の自動車産業への依存度を地図上に表して説明されました。
最後に、研究に必要な力として、「名古屋大学は研究するために必要な力を持った人に入学して欲しいです。この研究に必要な力は、実は入試に必要な力と一緒です。入試を突破するためには『基礎的な学力』はもちろん、『入試を突破するには自分の学力のどこが足りていないのか分析する力=分析力』と、『分析した内容をもとに計画を練って勉強を進める力=計画力』、この3つの力を意識しながら勉強をする必要があります。名古屋大学経済学部は、入学者受け入れ方針として、『基礎的な学力を備え、変化する現代の経済社会への鋭い関心を持って、経済活動に関わる諸問題を理論的・実証的に探究することができる学生の入学』を求めています。高校3年間で必要な力を身につけて、是非、名古屋大学経済学部に来てください」と熱く語られて講演を締めくくられました。

専門分野をより深く、興味と経験・知識の交換会

●第3部:講演者と参加者による懇談会

第1部・第2部の終了後、参加者との懇談会が行われました。

講演者と参加者による懇談会

Q.ミクロ経済学を学んだ人とマクロ経済学を学んだ人とでは、進路や取得する資格に違いはありますか。
A.(小林さん)知人の範囲では、ミクロ経済学を学んだ人はメーカーなどの企業、マクロ経済学を学んだ人は、比較的に金融、証券の就職先を選ぶ人が多いです。マクロ経済学を学んだ知人の中には、ファイナンシャルプランナーの資格を取得した人もいます。

Q.将来は研究員になりますか。
A.(小林さん)民間企業や公務員など、研究員以外の進路を考えています。1度大学を離れ、社会人を経験しようと思います。
(塚本さん)大学に入るときから大学院へ行って研究職に就きたいと思っており、研究職として、ある大学に就職が決まっています。私のように大学院を5年通い博士後期課程を修了し、博士号まで取ろうとすると就職先は大学教員等の研究職が中心となります。全部で5年ある大学院の内の博士前期課程(修士課程)の2年間で修士号を取り、就職する人も多いです。 
名古屋大学経済学部には「学部修士5年一貫プログラム」という、本来であれば学部は4年間、修士課程は2年間のところを、学部である一定の成績を収めていれば、6年間を短縮して5年間で修士号を取ることができる制度もあります。

Q.名古屋大学は硬いイメージがありますが、そんなことはないですか?自由に学べますか?
A.(塚本さん)名古屋大学は「自由闊達」という校風があります。いろいろなことができるチャンスがある大学です。また、大学は受講科目を選択でき、平日でも空き時間ができることもあるので、自由にサークル活動や部活を行ったり、ベンチャー企業で働いたり起業したりしている人もいます。総合大学ということで自分の学部の分野以外のこともいろいろ学べます。

Q.大学院と学部とで研究の仕方の違いはありますか?
A.(塚本さん)研究の仕方自体はあまり変わらないかもしれないです。ただし、大学生の内は、比較的自由に自分の興味のあることを掘り下げるような研究ができます。大学院生になると結果を残さなければならないため、しっかり学術界に貢献できるような研究をしなければならないというプレッシャーが強くなります。丁寧に先行研究を理解したうえで価値のある研究をやらなければならない世界です。また、大学教員になるには修行のようなところもありますし、論文という形で結果を出す必要があります。

参加者の感想(一部抜粋)