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名古屋大学×河合塾 共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第38回 文学部 「意思決定を導く脳と身体」 イベントレポート | 体験授業・イベント

名古屋大学と河合塾のタッグで授業。

名古屋大学との共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第38回 文学部を、2020年10月4日(日)河合塾名古屋校で開催しました。
河合塾と名古屋大学が共同で行う特別イベントとして、中学生、高校生、高卒生、保護者の方を対象に、名古屋大学法学部の教員の方をお招きし、講演会や懇談会を実施しました。約50人の生徒・保護者の方が名古屋大学の最先端研究者の講演を聞き、大学での研究の奥深さや楽しさを体感できる絶好の機会となりました。

講演内容

第1部:名大教員による最先端研究についての講演
第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
第3部:講演者や大学院生と参加者による懇談会

日時

2020年10月4日(日)14:00~16:00

会場

名古屋校

対象

中学生・高校生・高卒生と保護者の方

性格はいつでも変えられる?!脳の働きによる意思決定とは

●第1部:意思決定を導く脳と身体
大平 英樹(おおひら ひでき)教授(情報学研究科)

大平 英樹(おおひら ひでき)教授(情報学研究科)

大平先生は、心理学の中でも生理心理学、認知神経科学をご専門とされており、身近な事例を挙げて分かりやすくお話しいただきました。人間の心・感情を理解するには脳を理解する必要があり、現代の心理学は脳科学とセットになっています。脳の中の「島(とう)」と呼ばれる場所では体調不良や痛みなどを感じ、それをもとに感情が作られます。また、身体性ストレスや精神性ストレスを受けた際の体の状態を計測し、どのような影響があるのかという実験についてお話がありました。心理学は、文系と理系の中間的な学問領域です。生物学や医学みたいですねと言われることがあるそうですが、医学はどう病気を治すかというところに関心があり、一方、心理学は健常者に関心があるというところが大きな違いです。人は日常でどんなことを考え、感じ、行動するのか、それらを脳・身体のレベルから解明、説明をするというのが心理学です。
先生の研究内容の中で、人格・性格について触れられました。人格・性格とは一体何でしょう。そもそも存在するのでしょうか?心理学では、性格というものは存在しないと考えられているそうです。性格とは、行動の習慣の束を指します。例えば初対面の人に会った時にどう行動するのか、どうふるまうのか、という行動が性格となります。性格の形成は遺伝や育った環境、経験などの要因ももちろんありますが、行動の習慣の束なので、性格はいくらでも変えられますというお話はとても興味深いものでした。中国の研究では、普段から不安や恐怖を感じる人は、新型コロナウイルスを含め、何に対しても怖がることが判明しているそうです。どのくらい怖がり、そしてどう行動をするかが性格になり、その行動に個人差があるのかを心理学では考えます。新型コロナウイルスに対して恐怖を持たない人達と、いわゆる『自粛警察』と呼ばれる新型コロナウイルスに対して恐怖を持っている人達が衝突することについて、なんでこんなことするんだろう?と思う疑問について、科学的に解明しようとするのが心理学という学問です。
先生の研究テーマは、「意思決定」です。お昼ご飯は何を食べるのか、志望校をどこにするのかなど、人生は意思決定の連続です。では一体どのように決定しているのでしょう。
心理学では、まず取りうる選択肢の価値を考えるそうです。例えば、名古屋大学に入学できたらどれくらい嬉しいか。それが価値です。価値はものごとの良さを決める脳の中にある共通貨幣で、日本円みたいなものです。価値が決まると、次はそれに基づいてどう行動するかです。大学を選ぶような難しい選択についても、価値をつけて脳内の価値を比較すれば選択をすることができます。しかし選択には常にリスクがあります。リスクとは確率のことで、分かりやすく例えるとギャンブルです。ギャンブルには確実ということはありません。では、リスクを伴う意思決定はどのようなメカニズムで行われるのでしょうか。解明する際には、簡単な実験を行います。ある実験により、人は儲ける時は安全志向になり、損をする時はいちかばちかにかける傾向があることが分かりました。その際の脳の働きを計測すると「線条体」という価値を計算する場所と、冒頭に述べた「島」というリスクに強く反応する場所が大変重要であることが明らかになりました。「線条体」は快楽への予感・衝動を作り、「島」はスリルを感じることができます。「線条体」と「島」の働き方には個人差があり、「線条体」の働きが高く、「島」の働きが弱いとリスクを回避する傾向があり、「線条体」の働きが弱く、「島」の働きが強いとスリルを好む傾向がみられます。このように、2つの場所の働きによって、リスクを伴う意思決定が行われていることが分かりました。また、ストレスが意思決定にどう影響しているかの実験も行っているそうです。その結果、普段から挑戦的な人の場合、ストレスがかかると意思決定をする際は慎重になりますが、損をする決定については、何とか損を取り戻そうとすることが分かりました。また大事な場面で力が出せる人、出せない人というのは、コルチゾールの分泌によって決まるそうです。ストレスに弱い人はこのコルチゾールがたくさん出る人であり、これらも実験で証明されています。
日常の人間生活から「なんでだろう?」を見つけ、実験をして脳のメカニズムを発見するのが心理学の研究であり、とても面白いものであるとお話しされました。参加者の中からぜひ研究者をめざす人がでてきてほしいと熱いメッセージもいただきました。現代の心理学は脳科学と結びついており、かなり理系的な分野です。しかし研究対象が人間なので、人間の洞察が必要であり、人間に対して興味を持っていることが大事とのことです。今回のお話は身近な事例が多用されており、非常にわかりやすく、参加者も終始、熱心に聞き入っていました。

大学生活や研究内容を知り、将来の幅を広げる

●第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
人文学研究科・言語学専門 山田 祐也(やまだ ゆうや)氏

第2部では、名古屋大学人文学研究科所属の大学院生に、キャンパスライフや現在の研究内容をテーマにお話ししていただきました。

人文学研究科・言語学専門 山田 祐也 氏

人文学研究科・言語学専門 山田 祐也(やまだ ゆうや)氏

現在、名古屋大学人文学研究科言語学専攻博士後期課程に在籍されている山田さん。
「生徒の皆さんにとっては先の話になりますが、何年か先に大学院や博士後期課程への進学を考える時に、どういう人がいてどういう経緯でそこで学んでいるのかという例の一つになれば」と講演を始められました。
山田さんは現在、日本語教師の仕事をしながら博士後期課程で学生として学ばれています。日本語教師の仕事をしていると「日本語教師は国語教師と何が違うんですか」とよく聞かれるそうです。
“日本語を誰かに教える”ということは両方に共通しますが、“文法のルールが頭の中でわかっている人”に日本語を教えるのが国語の教師、“日本語の非母語話者”に日本語を教えるのが日本語教師と説明されました。日本語教師は抽象的なルールを教える必要があるとのことでした。
つまり、日本語教育の研究は大きく二つに分かれ、一つ目が“なに?”の分野についての文法的な研究、もう一つは“どう?”の分野についてどうやって教えるかについての研究だそうです。
次に、日本語教師をしながら学生として学ばれることになったきっかけについてお話しされました。学部時代は英語に漠然とした憧れがあり、外国語学部に入学されました。当初は英語の成績があまりよくなかったそうですが、大学1年生の3月頃から成績が急に伸びていきました。そこで、「英語が苦手だったのはなぜだろう」、「成績が伸び始めたのはなぜだろう」と思い、外国語の学習方法や研究に関心が高まったそうです。それと同時に母語である日本語というものにどんどん興味を持つようになりました。外国人が日本語を学ぶのはどんな感じだろうと興味を持ち、そこから日本語教師になりたいと思い、大学4年生時に日本語教育能力検定試験を受験し、合格されました。
修士時代は日本語教師として仕事をするために、日本語教育を研究しながら教育実習を受けることもできる関西の大学院で、“どう?”の分野である、どうやって教えるかについて2年間学ばれたそうです。社会人時代には、中国の武漢で青年海外協力隊(現:JICA海外協力隊)として日本語教育に関わり、その後は深圳にある大学で日本語教師をされました。日本語教師として日本語を教えるなかで、なかなかきれいなルールが見つからないため、だんだんと今度は文法の“なに?”の分野について深く学びたいと思うようになりました。影響を受けた論文を書かれた教授が名古屋大学に在籍していることを知り、博士後期課程で学ばれることになりました。
山田さんは現在、日本語学校で教師をしながら名古屋大学で言語学を研究されています。山田さんのように外で仕事をしながら博士後期課程で研究されている方は少なくないそうです。名古屋大学で学んでよかったこととして、自分が影響を受けた第一線で研究されている先生から指導を受けることができること。また、他の先生も第一線で研究されているので、学内で研究発表した時にも非常に的確な指導をしてもらえる、これは仕事をしているだけではなかなか得られない研究環境であると熱意を持って伝えられました。

専門分野をより深く、興味と経験・知識の交換会

●第3部:講演者と参加者による懇談会

第1部・第2部の終了後、参加者との懇談会が行われました。

講演者と参加者による懇談会

Q.自分の子供が勉強のやる気がない時に、親として子供に勉強するという選択をさせる心理学的なテクニック等あれば教えてほしい。
A.特に勉強では、嫌なのに無理やりやっても効果がでないことがわかっています。お子様の関心があること、好きだったたり興味があることを手掛かりにうまく使うことが大事です。例えば、男の子だったら虫などの生き物への興味から理科的な分野への勉強に関心を向けるとよいでしょう。また、厳しく罰するスパルタ教育も効果がないことがわかっていて、褒めて育てるのが効果的です。少しでもできたら正しく褒めることが大切です。ただやみくもに褒めるのはよくありません。例えば、お子様が自分で調べものをしたような時、「すごいね」、「よくやったね」、「おもしろいよね」などと親御さんも興味を共有してほめることが大事です。そういったことがすぐできるかというと難しいですが、心がけて少しずつやってみるとよいのではないでしょうか。

Q.ストレスによって体に反応が起こるが、ストレス反応自体が体に悪いと思い込んでいる人の方が健康被害が体に起きるリスクが高まることが統計的にわかっていると聞いたことがあります。これはプラシーボ効果に近い現象だと私は思うのですが、先生は、プラシーボ効果というものが存在しているとお考えですか?それはどういうものとお考えですか?
A.プラシーボ効果は証明されていて実在し、アメリカなどでは実際に治療にも使われています。
「よく効くんですよ」と説明し慢性疼痛の患者さんに飲んでもらうと、すべての患者さんではないが結構効果があることがわかっています。これは、今日お話しした脳の「島」が過敏過ぎて、身体からの正常な信号を痛みとしてとらえてしまうことで起きていた症状です。それが偽薬を飲むことで「もう大丈夫だ」と信念が変わり、「島」の働きが抑えられて症状が改善することがあります。
このようにプラシーボ効果は実在しますし、臨床にも使われています。

Q.私は、販売戦略にとても興味があります。消費者がどういうパッケージなら買いたくなるかということは、意思決定とつながると思います。そういった企業や販売に関係する研究をなさっていますか?
A.大手の自動車メーカー、家電メーカー、化粧品メーカー等の企業と販売戦略に関わる共同研究を行っています。例えば化粧品は性能の限界に達していて、中の成分にあまり変わりはなく、どこのメーカーを買っても同じと言えるくらいです。そこでは、心理的な販売戦略が重要になります。自社のブランドイメージをどう高めるか、消費者にどう関心を持って買ってもらうか、そのための研究がすごく進んでいます。企業秘密なので詳細は言えませんが、かなり成功しています。心理学を学ぶとそういった応用的な側面の研究もできるので、関心があればめざしてみるとよいと思います。

院生にはこれまでされた経験についてさまざまな質問が寄せられました。

Q.JICAでの生活や収入面について教えてください。
A.JICAではシステムとして現地で生活に困らないレベルは保障されます。それに、国内積立金で貯金もできるので、社会に復帰する際にも進学費用等に使うことができます。また、中国で日本語教師をしていましたが、最近は中国の給料が上がってきているので、結構いい生活ができるように変わってきているようです。

Q.英語の成績が上がるきっかけになったことは何ですか?
A.いろいろな要素が重なって成績が上がりましたが、特に英語をそのまま英語で理解することで上がりました。最初は日本語に訳していましたが、日本人が日本語を日本語で理解するように英語を理解したことで成績が伸びました。

Q.日本語教師をしていてよかったことは何ですか?
A.一つは、母語である日本語の面白さを感じられること。もう一つは、日本にいながら世界各国の人たちと一緒に勉強できることです。それは刺激的で貴重な経験です。また海外に行く時に日本語教師であることは非常に強みになります。

参加者の感想(一部抜粋)