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名古屋大学×河合塾 共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第35回 理学部 「行動の進化を神経回路から理解する」 イベントレポート | 体験授業・イベント

名古屋大学と河合塾のタッグで授業。

講演の様子

名古屋大学との共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第35回 理学部を、2019年7月7日(日)河合塾名古屋校で開催しました。
河合塾と名古屋大学が共同で行う特別イベントとして、中学生、高校生、高卒生、保護者の方を対象に、名古屋大学理学部の教員の方をお招きし、講演会や懇談会を実施しました。約70人の生徒・保護者の方が名古屋大学の最先端研究者の講演を聞き、大学での研究の奥深さや楽しさを体感できる絶好の機会となりました。

講演内容

第1部:名大教員による最先端研究についての講演
第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
第3部:講演者や大学院生と参加者による懇談会

日時

2019年7月7日(日)14:00~16:00

会場

名古屋校

対象

中学生・高校生・高卒生と保護者の方

異性への好みの進化には、フェロモンが重要なポイント?

●第1部:行動の進化を神経回路から理解する
石川 由希(いしかわ ゆき)講師(理学研究科)

石川 由希(いしかわ ゆき)講師(理学研究科)

私たちの脳の中ではたくさんの細胞が神経回路という複雑な配線を作って絡み合っていて、特定の状況でどのような神経回路がどのように働いているのか、その全貌はいまだにはっきりとは理解されていません。そこで、石川先生の研究室では、昆虫を利用して、神経回路レベルでの脳の動作原理の解明をめざしています。
神経科学では、昆虫は重要な役割を果たしてきました。高度な脳機能で、ヒトと共通の動作原理を持っていて、コンパクトであることが理由として挙げられます。昆虫の高度な脳機能の例として、求愛をご紹介されました。メスへの求愛時間と失恋期間を調べたところ、オスが意中のメスに求愛を拒絶され続けると、新しいメスが現れても、オスは新しいメスに求愛しなくなるという結果が出ました。人間が失恋すると、新しい恋に臆病になるのと似ていますね。
石川先生の研究は、まさに異性への好みの進化です。異性への好みは脳の中に刻まれていて、どのような神経機構で異性への好みへの進化が起こるのかを研究されています。その中でも、石川先生が着目しているのがフェロモンです。フェロモンは、動物(または微生物)が体内で生成して対外に分泌後、同種他個体に一定の行動や発生の変化を促す生理活性物質です。
研究では、小さな脳を持つショウジョウバエで行われています。キイロショウジョウバエ(キイロ)とオナジショウジョウバエ(オナジ)の好みには、性フェロモンXが重要で、キイロのメスのみが持ちます。オナジのフェロモンXは進化の過程で喪失したため、オナジはフェロモンXには関心がありません。フェロモンへの好みの進化はどのような神経基盤によるものか?どの神経回路で、何が起こったのかを研究しています。
現在は、脳を理解するために最新技術の①神経細胞を可視化する蛍光タンパク質、②神経細胞を操作する光遺伝学、③行動を自動解析する機械学習を駆使して、行動進化の謎を解いています。例えば、ノーベル化学賞を受賞した下村脩先生が発見した蛍光タンパク質を利用すれば、本来は見えない神経細胞の形が観察できます。
神経科学の研究は未知の点が多いですが、だからとてもやりがいがあります。生命理学専攻で学ぶことは、高校までの生物学とは全く異なる世界が待っています。

大学生活や研究内容を知り、将来の幅を広げる

●第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
理学研究科 生命理学専攻(遺伝学、行動学)望月 香里(もちづき かおり)氏
理学研究科 物質理学専攻(生物無機化学)榊原 えりか(さかきばら えりか)氏

第2部では、名古屋大学理学研究科所属の2名の大学院生に、キャンパスライフや現在の研究内容をテーマにお話ししていただきました。

理学研究科 生命理学専攻(遺伝学、行動学)望月 香里 氏

理学研究科 生命理学専攻(遺伝学、行動学)望月 香里 氏

望月さんは、動物が好きで生物に関心があり、大学では学部の4年間だけでなく大学院の修士課程まで学びたい、そしてせっかく修士課程まで学ぶのであれば名古屋大学へという思いから名古屋大学理学部をめざし受験勉強に取り組んでいたそうです。すでに大学で生物を学ぶことを固く決めていたため、理科の選択科目決めの際には迷わず生物を選び、授業だけでなく資料集を見て過ごすことが楽しかったとお話しされました。また高校時代には、勉強だけでなく百人一首部にも入り、悔いなく熱中していたため、部活動引退後は自然と受験勉強へシフトできたと話されていました。名古屋大学へは推薦入試で進学したそうですが、倍率が高いため推薦入試を受験する方も一般入試を見据えた受験勉強はしてほしいと話されていました。
続けて学部時代の学生生活についても学年ごとの望月さんのカリキュラムを投映しながらお話ししてくださいました。学科が分かれていない名古屋大学理学部は、1年生で基礎となる教養科目を受講しながら行きたい学科を考え、学科配属が決まった2年生から生物に関する知識を習得するという流れだったそうです。望月さんは2年生になったときから百科事典のような分厚い教科書を授業以外でも熱心に読み、基礎知識の習得を徹底されました。専門性の深まった3年生には、さまざまな研究と絡めた講義が多く、学部生でありながら最先端の研究に触れることができたのでとても楽しかったそうです。研究室配属となる4年生以降は、基本的には自分で計画を立てて研究するスケジュールとなり、教授や友人の支えもありながら毎日を過ごされているそうです。
具体的な研究内容については、さらに生き生きとお話しいただけました。理学部生命理学科は生命現象の理解をめざすための研究を行い、そのための研究対象となる「生物」は動物・植物・菌・細胞など多種多様です。その中で望月さんは、「動物は何を考えているのか?そのための遺伝子はどのようなものなのか?」に興味を持ち、さまざまな生物には「好み」があり「行動」も異なる、「好み」や「行動」は脳神経にある神経構造の違いが原因で起こっているのでは、という仮説解明のため、2種類の「ショウジョウバエ」を対象に神経構造の比較を研究されています。研究のため国立遺伝学研究所という外部研究施設で最先端の実験技術を用いて、一見見た目は同じショウジョウバエの神経構造の違いを探究しており、卒業までに必ず解明すると意気込んでいらっしゃいました。
好きなことを学べる環境を最大限活用して、積極的に行動されている望月さん。最後に、大学では最先端の研究が溢れていてそれが分かりやすく学べる環境があり、さらには最先端の機器を使って自分の好きなことができる、こんな貴重な経験は一生できないと感じているので、ぜひ皆さんにも感じてほしいと笑顔でお話されました。

理学研究科 物質理学専攻(生物無機化学) 榊原 えりか 氏

理学研究科 物質理学専攻(生物無機化学)  榊原 えりか 氏

榊原さんは現在、名古屋大学大学院理学研究科 物質理学専攻に在籍しています。名古屋大学への進学を考え始めたのは高校2年生の12月頃で、3年生の9月までは部活動と両立しながら受験勉強を進め、名古屋大学理学部へ合格されました。理学部と工学部で選択を迷ったとのことですが、高校理科の教員免許を取得できる「教職科目」が受講できる理学部を選択されました。
次に、大学生活について学年ごとに説明されました。学部1年では、幅広い分野の基礎知識を得るため、理系の基礎科目を学ぶことができます。学部2年では学科分属が行われ、榊原さんはより深く学びたいと感じた化学科を選択されました。学部3年になると学生実験が始まり、学部4年で研究室に配属となります。この頃は研究活動中心の生活になるとのことです。また、研究室での具体的な生活についてもお話しされていました。一日の約半分を研究室で過ごし、その内容は「実験」「文献調査・資料作成」「ミーティング・報告会」などだそうです。
榊原さんの研究内容は、緑膿菌を薬以外で殺菌する手法を開発するというものです。緑膿菌は生存するのに必要な鉄を獲得するシステムを備えており、その鉄獲得システムを機能不全にすることで鉄を獲得できないようにして緑膿菌を殺菌する研究をされています。
日々の研究成果を学外(国内・国外)の学会で報告する機会もあり、榊原さんも学会に参加されることがあるとのことです。また、研究成果を論文としてまとめ、出版するということもあります。このような報告の場が、日々の研究のモチベーションとなっているそうです。この他に、研究へのモチベーション向上にむけてさまざまな研究科の学生と交流する場として「GTRプログラム」というものがあることもご紹介いただきました。
最後に、「研究生活は基本的に大変でつらいことが多いですが、未知の現象を明らかにするワクワク・ドキドキ感や、新発見に辿り着いたときの達成感は格別!一度しかない大学生活は楽しんだもの勝ちなので、夢中になれるものを探して充実した大学生活を送ってください。」とメッセージをいただきました。

専門分野をより深く、興味と経験・知識の交換会

●第3部:講演者と参加者による懇談会

第1部・第2部の終了後、石川先生と大学院生2名でそれぞれのコーナーに分かれ、参加者との懇談会が行われました。

講演者と参加者による懇談会

Q.研究する専門分野についてはどのように思いつくのですか?
A.動物についての興味はずっと持っていましたが、具体的なテーマについてきちんと確立したのは博士課程を過ぎてからです。興味を持って勉強していくうちに、おもしろいと思う分野が見えてきます。名大の中の研究室のいくつかを見て、自分に合う研究室を見つけて、先生の助言を得ながら自分で研究を進めていくうちに、また新たな発見があって、そこから自分の研究テーマが見つかってきます。研究テーマは早期から決める必要はなく、大学に入ってからゆっくり決めるのがいいと思います。

Q.大学の勉強はほとんどが自習(自ら学ぶ)だというイメージですが、わからないことがあるときは誰に聞くのがよいのでしょうか?
A.大学の先生に聞くのがよいです。大学の教科書などでわからないことがあれば、先生に直接聞いたり、メールで問い合わせたりすると対応してくれると思います。先生の専門外であっても、その分野に長けた先生を紹介してくれることもあります。

Q.研究者になるにはどうすればよいですか?
A.まず学位(博士号)を取得する必要があります。大学の4年間の学部ののち、2年間の修士課程、3年間の博士課程があります。博士課程を修了するまでの間に論文を1本以上書くと博士号を取得することができます。
その後、多くは研究員となり、その期間での研究内容を元に履歴書を作成して各研究機関へ応募します。採用となればそこでまた研究を進めたり、論文を書いたりします。大学ごとに教員の募集があるときに、同様に履歴書を提出して採用してもらいます。おもには研究員→助教→講師→准教授→教授とステップアップしていくのが一般的です。

大学院生2名との懇談会に参加した方々からは、授業や学科選択に関することを中心に、さまざまな質問が寄せられました。その一部をご紹介します。

Q.学科を選択したときは、将来性や就職を見据えて選んだのですか?
A.(望月さん)私自身は、生物が好きで生物学科に進学して取り組みましたが、修士課程を卒業後は食品会社に就職します。民間企業への就職を考えているのであれば、修士課程の場合は、就職先はそこまで学部卒と大きな違いはあまりなく、学んだことと直結しない就職先も選択肢としてあると思います。博士課程まで行くと、より高度な専門知識が求められるような就職先が選択肢となると思います。将来を見据えて決めている人も中にはいますが、やりたいことが決まっていない人は無理に今の段階で決める必要はないと思います。大学でさまざまなことに触れる中でやりたいこと、興味があることが必ずでてくると思います。
(榊原さん)将来を見据えて学部や学科を選んではいませんでした。大学で学ぶうちに化学と生物の融合に惹かれて今の研究室を選択しました。また、高校時は物理選択だったため大学に入ってから生物を学び、その中で興味を持ちました。修士課程の場合は、就職先はそこまで学部卒と大きな違いはあまりありません。

Q.理学部の場合、理科の選択科目は生物を選択したほうがいいのでしょうか?
A.(望月さん)生物を迷わず選択しましたが、個人的には物理の知識があれば研究がスムーズに行くと感じたことはあります。大学に入ってから物理をはじめから学ぶことは大変だと思います。
(榊原さん)物理選択で、大学に入ってから生物を0から学んでも十分に対応できました。

Q.研究で行き詰ったときはどうしていますか?
A.(望月さん)学部時代は教授から手を差し伸べてもらうことが多かったですが、現在は自分で考えることが多くなりました。研究を進めるうえでは自分から教授や他の学生に聞く姿勢が必要なので、それができれば研究生活も上手くいくと思います。
(榊原さん)私も教授や他の学生に相談して、自分とは違う観点から指摘されることでわかることも多くあります。むしろ、うまくいかなかったときこそ大切で、何でうまくいかなかったのかを考え、それが解明されると研究が進みます。

Q.国際学会での発表や論文は英語で行っていることが多いと思いますが、英語力は大学のカリキュラムでつけられますか?
A.(望月さん)国際学会に行った友人などは、大学のカリキュラム以外でも積極的に英語力をつけるために、留学生との交流を行い、サークル活動も英語に関連するサークルに入っていました。
(榊原さん)大学院に進学して改めて研究には英語がスタンダードに必要だと感じました。特別な留学には行っていませんが、まず大学院の試験でTOEIC試験があるためそれに向けて勉強をしました。あとは、望月さんの友人と同様に、留学生と交流を行ったり、洋画をみて英語力をつけることを意識しています。研究の際に必要な英語は定型だったりするので、まずは必要なワードから意識して取り入れました。

参加者の感想(一部抜粋)