名古屋大学×河合塾 共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第24回 理学部「化学反応する分子は「見える」か?」 イベントレポート | 体験授業・イベント
名古屋大学と河合塾のタッグで授業。
名古屋大学との共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第24回 理学部を、2017年10月15日(日)河合塾名古屋校で開催しました。
河合塾と名古屋大学が共同で行う特別イベントとして、中学生、高校生、高卒生、保護者の方を対象に、名古屋大学理学部の教授と大学院生をお招きし、講演会や懇談会を実施しました。生徒・保護者の皆さんが、名古屋大学の最先端研究者の講演を聞き、大学での研究の奥深さや楽しさを体感できる絶好の機会となりました。
- 講演内容
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第1部:名大教授による最先端研究についての講演
第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
第3部:講演者や大学院生と参加者による懇談会
- 日時
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2017年10月15日(日)14:00~16:00
- 会場
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名古屋校
- 対象
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中学生・高校生・高卒生と保護者の方
化学反応している分子は見えるか?超高速で照らす光が、変化する分子の姿に迫る!
●第1部:「化学反応する分子は「見える」か?」
菱川 明栄(ひしかわ あきよし)教授(理学研究科)
初めに、「化学とは?」という質問から始まりました。いろいろな定義が可能ですが、普遍的な原理の発見と新しい物質の創造につなげる学問と捉えることができます。
分子の性質はどんな原子をどのような順番でつなげるかで変わります。これを決めているのが化学反応です。原子同士を結びつける化学結合の切断や生成(=化学反応)を通じて、分子は多彩な変化を見せます。その一方、分子の大きさはナノメートルサイズ(1ナノメートル=10億分の1メートル)で、反応は数100フェムト秒(1フェムト秒=1000兆分の1秒)程度の短い時間で進行します。このため、反応途中で分子がどのように変化しているかを捉えることは、極めて困難とされてきました。こうした非常に高速で動く分子の姿を捉えるために、菱川教授たちの研究室ではフェムト秒レーザーを用いたまったく新しい顕微鏡(=反応マイクロスコープ)の開発を進めています。化学反応をしている分子の「動画」を直接撮影することによって、反応の仕組みをより深く理解し、反応を自在に操るための指針が得られることになります。
まず、強いフェムト秒レーザーを分子に照射することで起こる「クーロン爆発」と呼ばれる現象を利用した手法について説明がありました。クーロン爆発で生成した分子イオンの断片(フラグメントイオン)のもつ運動量を測定すれば、フェムト秒パルスを当てた瞬間の分子の構造についての情報が得られることを花火に例えながら分かりやすく説明されました。
さらに、化学結合のカギを握る電子の動きを捉える試みについても紹介がありました。強いレーザーを分子に照射した際に起こる「トンネルイオン化」を利用することで、光吸収する分子の様子を電子分布の変化として「見る」ことができます。トンネルイオン化は、分子に強い電場をかけた際に、束縛ポテンシャルが歪んでできた障壁を電子がトンネル透過(電子のような微視的な粒子は、自身のもつエネルギーより高いエネルギー障壁があっても、その高さや厚さが有限であれば透過することができる)することによって起こる現象です。
最後に私たちが普段目にする「動画」の撮影技術が生まれた経緯について紹介されました。実は純粋な好奇心がきっかけだったとのことで、「知りたい」という気持ちが大事であると感じさせられました。
大学生活や研究内容を知り、将来の幅を広げる。
●第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
理学研究科 物質理学専攻・機能有機化学 千田 樹絵子(せんだ きえこ)氏
理学研究科 生命理学専攻・構造生物学 松崎 瑞季(まつざき みずき)氏
第2部では、理学研究科所属の2名の大学院生に、キャンパスライフや現在の研究内容をテーマにお話ししていただきました。
物質理学専攻・機能有機化学 千田 樹絵子 氏
修士課程2年生の千田さんは、高校時代は河合塾の塾生であったこと、そして大学1年生のときに河合塾千種校でチューターをしていたことを話し、参加者は千田さんが身近な先輩と感じられ自然と講演に集中していきました。千田さんはまず、なぜ理学部を選んだかを話され、高校生の時に化学をやりたい気持ちはあったものの、理学部と工学部どちらに進学しようか悩んでいた時に、講演会で名古屋大理学部化学科の教授の講演会で話を聞く機会があり、研究の勢いを感じ、そこで名古屋大学理学部化学科をめざすことに決めました。大学に入学してみると、一般的に言われている理学部は基礎研究を行い、工学部は応用研究を行うということはなく、理学部も工学部も基礎研究も応用研究どちらも行うので学部間の違いはないと感じたそうです。
学生生活の話では、学科配属の決まる2年生で希望していた化学科への配属が決まり、勉強以外にもアルバイトなど充実した大学生活が過ごせたこと、大学3年生になると、生活は一変し午前は授業、午後は実験とレポートで毎日必死に勉強したこと、そして研究室に配属され、4年生からはひたすら研究と院試の勉強に打ち込んだことを話されました。大学院に進学されてからも、修士1年生には研究と研究室幹事と忙しい生活を送り、現在は就職活動も終わり、修士論文に向け日々実験されています。
研究の話では先輩の研究例として、研究室で作りだした「蛍光色素」のお話をしてくださいました。人間の「脂肪細胞」の中には「脂肪滴」という油の塊があり、この「脂肪滴」が太る原因に関係しています。この「脂肪滴」をきちんと見られるようにすることが、今後のダイエットや健康の研究に役立つといわれており、写真で「蛍光色素」を使った「脂肪滴」の写真を交えて紹介してくださいました。
また、就職活動の話では、理学部より工学部のほうが就職に強いという話を耳にすることがあるが、実際に活動を終えてみると、化学科においては、工学部との就職活動に差はなかったと感じたこと、また進学する学部・学科は就職に強いという理由ではなく、自分がやりたいことで決めたほうが良いと話されました。
最後に「研究することでしか得られないこともある。一生懸命やりたいことをやってほしい。」という言葉を残し、講演は終了しました。大学生活や研究生活について楽しんでいらっしゃることが伝わり、大学生になってからの生活がより具体的にイメージでき、参加者から大きな拍手が送られました。
生命理学専攻・構造生物学 松崎 瑞季 氏
松崎さんは博士課程に在籍しており、初めに自己紹介とともに研究テーマである『タンパク質の構造』に興味を持ったエピソードを話してくださいました。高校時代に物事が「なぜそうなるか」に関心があり、先生から理学部の生命分野を勧められ、別冊ニュートンや日経サイエンスを読み研究内容を調べ始めました。調べていくなかでタンパク質の働きを生み出している立体構造に興味を持ち、名古屋大学理学部生命理学科の超分子構造学グループに入るため入学されました。
学部1年生は教養科目を中心に履修し、2年生で希望した生命理学科に配属になりました。専門科目の授業では、最先端の研究を講義で学べることや実験結果を友人や先生と議論する楽しさを伝えていただきました。4年生になり研究室配属があり(配属の時期は17年度から変更)、実験の手順や研究の進め方を学んでいきます。また、高校時代の生物を履修していないと研究科配属が不利になるのではないかという質問には、研究科配属で不利になることはなく物理・数学に対する理解はその後の研究で確実に生かされると回答してくださいました。
修士課程になると朝10時~夜23時まで研究室にいる生活となり、研究も自身で考えて進められる部分が大きくなり、楽しさを感じるようになりました。そこから、博士課程に進み研究を続けたいと考え、博士課程教育リーディングプログラムも参加されました。博士課程教育リーディングプログラムは、産学官どこでもリーダーシップがとれるドクターを養成する事業です。参加することで身についたこと、経験できたことも多く、英語での授業やシンポジウム開催など希望することで機会が与えられ、経済支援も受けられることが特徴であると紹介されていました。博士課程では1人の研究者として扱われるので、研究の計画・方針も自身が主導して進めています。現在3年生の松崎さんは実験より論文を書くことが多くなっています。博士課程進学後の就職状況についても説明してくださり、就職ができなかったという話を聞いたことがなく、名古屋大学には博士課程に在籍している学生向けの就職支援を行う施設についても紹介してくださいました。
研究室生活も写真を交えながら、参加者が実際の研究室の様子をイメージでき、研究内容についても写真やイラストを用いながら説明してくださいました。筋肉や細胞の動的機能に関与しているタンパク質の発現系を確立することで、そのタンパク質が引き起こす病気の治療に役に立つ可能性があります。現在、松崎さんはこれまでの知見をもとにして、発現系の確立をする研究を行い、論文にまとめていると話されていました。
最後に、研究したい内容を決めて大学進学した自身の経験を踏まえ、「どうして自分がその大学を選んだのか、自分が納得できる選択をして欲しい」と参加者に語りかけていました。
専門分野をより深く、興味と経験・知識の交換会。
●第3部:講演者と参加者による懇談会
第1部・第2部の終了後、菱川教授と大学院生2名でそれぞれのコーナーに分かれ、参加者との懇談会が行われました。
菱川教授の懇談会に参加した方たちからは、理学部や研究内容・テーマについての質問がありました。
Q、理学部で研究者になる人の割合を教えてください。
A、大学や研究機関の研究者になる割合は化学科で20~30%です。
Q、ペットボトルとブドウ糖は同じ元素からできていると講演で話されていましたが、どうして違うものができるのでしょうか。
A、ブドウ糖が食べられて、ペットボトルが食べられないのは体のなかにある酵素が分解できるか,そして体が吸収できるかどうかの違いです。この差は分子の形や、分子のなかの電子のふるまいによって現れます。
Q、研究テーマはどうやって決まっていくのですか。
A、さまざまなケースがありますが、今日紹介した研究の場合は、レーザー技術の発達が研究を始めるきっかけになりました。技術の発展により今まで見えてこなかったことが見えるようになることで研究テーマが決まったということですが,もちろん手持ちのデータをつきつめていくことで新しい方向が生まれる場合もあります。
Q、研究を方向転換することはありますか。
A、あります。例えば、ある目的をもって実験をし、自分が考えていたことと違う結果が出た際により詳しく調べてみると、別の現象が影響を与えていることがわかり研究の方向が変わることがあります。
大学院生のお二人には、参加者から「高校生のときにどれくらい勉強したか?」「理系の科目は得意か?」「苦手科目のつぶし方を教えてほしい」「進路の見つけ方を教えてほしい」「学部学科の雰囲気を教えてほしい」「研究で気をつけていることはなにか?」など受験時代のことから現在の研究についてなど多岐に渡るさまざまな質問がありました。お二人は一つひとつの質問に、ご自身の体験を交えながらわかりやすく親身に丁寧に答えてくださいました。参加者の皆さんにとっては名古屋大学での生活を身近に感じることができた、大変有意義な時間となりました。