医進フェスタ 医学部特別講演「医学部に進学してからの将来設計 ~創造性と協調性/優しさの育成~」 イベントレポート | 体験授業・イベント
「継続」することを大切にして、医師を含めた「人生」や「創造」の道を創る。
2018年8月25日に河合塾 名駅キャンパス名駅校にて、医進フェスタを開催しました。
中学生・高校生・高卒生・保護者の方を対象に、医学部医学科の大学教授や入試担当者をお招きし、講演会や個別相談会を実施しました。
その他にも、現役医学部生による体験談の講演や個別相談コーナーを設けるなど、医学部医学科志望者にとっては大学の生(なま)の情報を入手できる絶好の機会となりました。
また特別講演として、救急医療を専門にされている名古屋大学大学院 医学系研究科 救急・集中治療医学分野 松田直之教授に、なぜ医学部への進学を考えたのか、なぜ救急・集中治療医学を専門としたのか、医学部に進学してからの生き方などの講演をいただきました。
会場には受験生をはじめ、保護者の方々を中心にたくさんお集まりいただき、講演実施以来、初の2回講演を行いました。
- 日時
-
2018年8月25日(土)16:10~17:40、18:00~19:30
- 会場
-
名駅校
- 対象
-
高校生・高卒生と保護者の方
<講演者プロフィール>
名古屋大学大学院 医学系研究科 救急・集中治療医学分野
松田直之(まつだなおゆき) 教授
1993年 北海道大学 医学部 卒業。
2000年 北海道大学大学院 外科系専攻修了(医学博士)。
その後、北海道大学大学院 医学研究科 救急医学分野 助手、富山大学大学院 医学薬学研究部 分子医科薬理学講座 准教授、京都大学大学院 医学研究科 初期診療・救急医学分野 准教授を経て、2010年 名古屋大学大学院 医学系研究科 救急・集中治療医学分野教授に着任した。
北海道大学、京都大学、名古屋大学では救急医学講座と救急科の立ち上げに尽力し、現在、救急医療・集中治療・災害医療において、診療・教育・研究を拡充させている。名古屋大学医学部では、2014年、2016年、2017年、2018年にベスト臨床講義賞を受賞している。日本集中治療医学会理事、日本心臓血管麻酔学会理事、日本救急医学会評議員などとして、日本と世界の急性期医療を牽引している。
医学部特別講演「医学部に進学してからの将来設計 ~創造性と協調性/優しさの育成~」
1.なぜ医師になるのか/2.医学部に入るまでの道
松田教授は、6つの章立てで講演をされました。初めに、なぜ医師になるのか、という医学部に入るまでの道について問題提起をされ、今回の講演テーマとなる「創造的な愛ある生き方」について説明をされました。どうしたら計画性や生き方を維持することができるのかを考え、医師となる目標を持った自分をイメージすること。努力は勉強を好きになろうとしたり、楽しもうとしたりするところに使うもので、勉強がわかり始め、Happy(楽しさ)が動き始めたら、次の努力ポイントとしてそのHappyを持続させるように努力すること、とお話しされました。
松田教授は高校時代に、勉強に対するモチベーションが維持できなくなった経験をされました。皆に後れを取り、勉強をしなくなったそうです。そんな時、小児科医でいらっしゃったお父様の写真を写真の整理中に見つけ、お父様の生きる姿勢を思い出し、「人のために何かできるような人になりたい」と思った、とのことでした。医学部に入るまでの道として、いろいろな勉強をするとつまずきがあります。まず、基礎・地盤作りを意識することが大切であり、勉強をスムーズにできるようになる「基礎」を作ってくれる環境を探し、そこで教えてもらったり、協力してもらったりすることで実力が向上する、とお話しされました。また、自分の勉強した内容は他者に出し惜しみなく伝えることで、独創性と協調性と言葉にできる深い実力が育つ、とのことです。大学では、方法や結果を覚えるだけではなく、考え方や創造性、そして人間性を学ぶことが大切である、とご自身の経験から語られました。創造(クリエイティブ)は、ネガティブな方向に働かせるのではなく、ポジティブな方向で豊かさを提供するものにすることが大切で、ポジティブや明朗性を維持することが「生きる礼儀」だと考えている、と教えてくださりました。
医学部入学までの道のりでは、たくさんの勉強をしなければなりません。この道のりを楽しむ方法として、ネガティブな受け身ではなく、ポジティブに「継続」を意識することの重要性、努力の具体的な表現は「継続」であること、基礎学力の育成のために、勉強できる場を得られることにまず感謝することを挙げられました。主要教科の中では、まず国語ができるようになることが他の教科の学習レベルの向上につながり、多くをあきらめず、多くを得る力につながる、と明言されました。また、センター試験の成績が良い人は、まんべんなく勉強をする姿勢ができていて、国家試験に浪人しにくい傾向もある、とのことでした。そして、学力のほかに大切なこととして、優しさを持ち合わせた人間性、河合塾を信じてついていくこと、自身で勉強を楽しめる基盤を作ること、調和性、人間性、明朗性、リーダー性などを挙げられ、これは人生を元気に楽しむ上においても大切なことだとお話ししてくださりました。
3.医学部における学習と研究と留学について/4.医師国家試験・専門医試験
医学部では6年間で自身に発展性を作ります。
「教養部」…基礎学力基盤の確認、クラブ活動、社会活動などを行います。
「基礎医学」…解剖学、生理学、病理学、薬理学、細菌学、公衆衛生学などを学びます。この基礎医学の時期を大切にすることが、後の発展につながります。
「臨床医学」…内科学、外科学、救急医学、脳神経外科学、整形外科学、産婦人科学、小児科学、その他たくさんの臨床医学を、講義だけではなく実地の診療から学びます。
最後に「卒業試験・医師国家試験」があります。医学部でしっかりと学び続ければ、必ず、合格する基盤ができるとのことでした。
また、最近は大学内に留学制度も整っており、在学しながら留学できる仕組みもあるため、今の延長線上で何ができるのかを考えておくとよい、とアドバイスされました。その他、厚生労働省のHPに「医師国家試験出題基準」が掲載されていることや、診療における新専門医制度(※)2018年も紹介してくださりました。
- 「専門医」:日本専門医機構が認定する「専門医」とは、それぞれの診療領域における適切な教育を受けて、十分な知識・経験を持ち、患者から信頼される標準的な医療を提供できるとともに、先端的な医療を理解し情報を提供できる医師と定義されます。(一般社団法人 日本専門医機構HPより)
5.独創性と調和:自身の発展的な育て方について
松田教授は、北海道大学・富山大学での勤務後、京都大学に異動し、救急科設立に携わられました。その後、名古屋大学に異動され、現在は日本集中治療医学会などの理事も兼任されています。名古屋大学着任後の2015年6月27日、台湾でカラーボールを使用したイベントの最中に粉塵爆発事故が起こり、やけどを負った大勢の負傷者の救命が必要となりました。その際、松田教授をリーダーとする日本医師会のグループが、現地の負傷者の救命のために、台湾政府などと連携して医療活動を行いました。それがきっかけとなり、日本と台湾の医師会は2015年7月30日、災害時の医師派遣や支援体制を相互に承認する協定を締結し、災害時に派遣される医師の医療行為を可能にする仕組みを整えました。この出来事については、自身の発展的な育て方の例として説明してくださりました。
6.国公立大学に期待されているもの
松田教授は未来の医学部生に向けて、自身が所属したいと考えている大学のHPを見ること、そしてこれからの大学に期待される内容をHPなどでチェックすることが必要だとお話しされました。そして、日本が掲げる「基礎研究医養成活性化プログラム」、「卓越大学院プログラム」、「スーパーグローバル大学創成支援事業」、「ジョイント・ディグリー(国際連携教育課程制度)」、「診療における5疾病5事業」、「病院診療体制における2025年構想」など、これからの国公立大学の方針に必要となるキーワードを説明してくださりました。
最後に、松田教授から「医学部に入学を決めたら、継続することが大切です。その際には、自分の殻に閉じこもらずに周囲への優しさを大切にしましょう。ポジティブな考えとポジティブな環境を維持できるように工夫し、自分のしていることが好きだと思えるように努力してください。継続の中でできたものが、道です。その道を創っているのが、自分自身なのです。生きることを大切にしてください。応援しています。」と温かいエールを送られ、参加者からは盛大な拍手が送られました。
参加者の感想(一部抜粋)
講演に関する質問と回答(一部抜粋)
参加者からの質問に対して、松田教授より回答をいただきましたので、ご紹介させていただきます。
Q.先生のお話とても面白かったです。医師になるために必要な能力はどのようなものだと先生は思われますか。また私も松田先生のような先生の下で勉強をすることができたら幸せだと思いました。私は宇宙医学に興味があります。そこで質問なのですが、名古屋大学にはそのような研究をしているところはあるのでしょうか。
A.医師に限らず、社会人として大切なことは、「思いやり」や「優しさ」ではないかと考えています。豊かな方は、必ず、いろいろなことを出し惜しみなく与えてくれます。医療とは、そういう他に尽くすなかで自分を発見する作業なのかもしれません。お医者さんになってから、私はとても優しい人間になりました。名古屋大学は、とにかく基礎研究部門が充実しています。私が語ると、かなり長文になってしまいますので、大学のホームページを見ていただき、調べてみると良いですね。
Q.勉強に行きづまったときなど、どうストレスと向き合っていけばいいですか。
A.行き詰まっているときほど、授業を大切にするとよいです。焦ることなく、1ヶ月間でこなさなければならない内容を、無理のないところでリストアップしておくことも大切です。その上で1週間の予定を立てるとよいです。好きになるまでは大変なのですが、好きになるように、習慣となるように努力できるとよいのですが。実は、私自身は、ストレスという言葉を用いませんし、忘れてしまったのです。すべてが自分のためになることと考えています。
Q.医師になってよかったことは何ですか?医師にはどんな要素が必要ですか?医師のやりがいはなんですか?
A.医師になってよかったことは、色々な皆さんの人生に携わりながら、自身の人間性を磨いていけることです。また、私の場合は、「教授」ですので、医学教育にも携わるできることが嬉しいです。医師には、人間性と社会性を磨くことが期待されます。しかし、これは、すべての社会人に期待されることかもしれません。「やりがい」ということは、普段、私はなぜか考えません。患者さんがよくなられるように努力しますが、衰弱され、お看取りをする場合でも、丁寧な医療を提供するようにしています。自分が、たくさんのことを与えていただいているように感じるのが嬉しいです。
Q.先生はハッピーを具体的にどのように作り出したのですか。私はどうしても勉強を楽しむことができません。集中できないと本を読むなど他のことに走ってしまいます。
A.「勉強しなさい」とよく母に怒られていましたが、「したくないことをするのが努力」という考えをある時にやめ、「楽しめるように努力する」と目標を切り替えました。楽しくないことを楽しくするには、やはり一定の時間がかかると思います。私の提案は、「基盤」、「基礎」を意識することです。勉強をする「習慣」ができると楽になりますし、勉強が得意になると楽しくなります。ここで、大切なことは、習慣化を7科目ぐらい作らねばならないことです。絶対的に時間がかかるのです。そこで、提案です。1)とにかく授業を毎回大切にすること=基盤創り、2)授業の復習を日課とすること=基礎創り。これは、私の場合は、松田ノートなどというのを作っていました。得意科目を作らないという作戦もあります。まんべんなく、どれも80%以上に仕上げる方法です。最後に、集中する時間ははじめは20分を意識すると良いです。その内に気がつくと、1時間過ぎているようになります。はじめから、長丁場を意識しないことも継続や自己トレーニングとして使えます。私も、たくさんの原稿を抱えながら、毎日、勉強を続けております。
Q.モチベーションを維持する方法を教えてください。やる気が出ないときに勉強に取りかかるテクニック、自信の持ち方など。
A.気分がアップ・ダウンしないように工夫することが、実はとても大切と考えています。2週間後の中期目標と1週間の短期目標を、無理のない、達成できるレベルとして立てて、時間を決めて机に向かうことが大切です。はじめは20分を意識すると良いです。その内に気がつくと、1時間過ぎているようになります。はじめから、長丁場を意識しないことも大切です。そして、意識することは、「目標をこなすこと」や「その時にしている勉強を好きになるように意識すること」です。気持ちをニュートラル(普通で習慣的)に保つことが、やる気を失わない重要なコツです。勉強の中に、喜びを見つけることができると良いですね。私も、たくさんの原稿を抱えながら、毎日、勉強を続けております。勉強は、短期間で片付けてしまおうと焦らずに、毎日の継続した「習慣」としてしまうことをおすすめします。
Q.継続するのは大切だと思いました。受験生に戒めるものは何ですか?
A.毎日、謙虚に勉強をして、1日1回、ご両親に感謝していれば、必ず道は開けると思います。皆に感謝すること、その中でも特に身近な人にまず感謝することが、明日の自分を豊かにしてくれます。これをしていると、勉強ができる自分にも感謝するようになり、知らないうちに能力が高まります。受験勉強は、必要な科目を好きになるレベルに維持できるようにして下さい。応援しております。
Q.結果として入った大学で頑張ることの大切さは理解しました。ではどのような観点から受験大学を決めるべきだと思いますか。
A.通いやすかったり、通ってみたい大学だったり、どんな先生がいるのかなどをホームページなどを見て、調べて、決定するので良いと思います。大学の説明会に出かけるのも良いですね。
Q.医学部に入ってからどのようにしていけばよいのかの話が聞けて良かったです。救急の道を選ばれたきっかけや時期はいつごろでしたか?
A.救急医療の道を考えたのは、医師4年目でした。北海道に救急を専門とする若手医師がいなかったのです。救急を教えることができる意思が必要であると強く認識しました。救急は、急変した時の病態学に基づきます。この専門家は、いなかったのです。
Q.同じ生活水準でもっと楽な(自分に合うような)仕事があったのではないかと考えたりしませんか?
A.楽な仕事はたくさんあるかもしれませんが、楽だと自身が退化するようで、つまらなく感じることもあるかもしれません。年齢に合わせて、自然に、場や仕事に馴染んでいくのかもしれません。一般に、幸せを提供するためには、自分に豊かさを維持することが大切と考えています。何を目標とするかによって、自分の立ち位置が変わるのではないかと思います。今はまだ、自分が成長できるように自分に負荷をかけています。
Q.自分の進む「進路・道」に迷ったときはどうするのがよいですか?
A.親の言うとおりにまず進んでみるのが良いです。現在、人生は100年以上ですから、まず親の希望を叶えるのが手始めとしてのおすすめです。自分がしたいと考えていることを、次に探せば良いのかなあと思います。もし、ご両親の希望がない場合には、何を選んでも良いのではないかと思います。感受性の赴くままに。ただ、皆の幸せを考えて生きる生き方をお勧めします。
Q.医学部での自習はどのような場所でどのようにモチベーションを上げていっていましたか?自習室ではあまり筆が進まないのでうまく行うコツなどが知りたいです。
A.私の医学部時代は、講堂と自習室を使っていました。授業中のノートに書き足して、内容をしっかりと埋めていくようにしていました。これが、松田ノートなどと言われるもので、今でも誰かの講義や会議などでは、独自にノートを作っています。自分が集中できる場所を決めてしまうのも良いですね。
Q.留学しようと思ったところ、声をかけてもらって他の道に進んだとおっしゃっていましたが、そのように幅広い知り合いやつながりはどのようにつくったり、つくる努力をしていますか?
A.人の「縁」とは面白いもので、たまたまです。いつも誰かのために、何かをしていきたいと思って行動していることが大切なのかもしれません。
Q.医学部をめざしていく上で、もちろん今の時期は受験に必要な勉強を行うことも大切なのですが、それだけにあまりにも特化せずに、他に大学に入る前にやっておいた方がいいこと、また、常に心に留めておいた方がいいことなどはありますか?
A.毎日、謙虚に勉強をして、皆に感謝すること、その中でも特に身近な両親などにまず感謝していると、明日の自分が必ず豊かになるように思います。これをしていると、勉強できる自分にも感謝するようになり、能力も高まるように思います。