名古屋大学×河合塾 共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第5回 法学部「日本の競争政策」 イベントレポート | 体験授業・イベント
名古屋大学と河合塾のタッグで授業。
名古屋大学との共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第5回 法学部を、2015年9月13日河合塾千種校で開催しました。
河合塾と名古屋大学が共同で行う特別イベントとして中学生・高校生・高卒生・保護者の方を対象に、名古屋大学法学部の教授と大学院生をお招きし、講演会や懇談会を実施しました。約50人の生徒・保護者の方が、名古屋大学の先端研究者の講演を聞き、大学での研究の奥深さや楽しさを体感できる絶好の機会となりました。
- 講演内容
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第1部:名大教授による最先端研究についての講演
第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
第3部:講演者と参加者による懇談会
- 日時
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2015年9月13日(日)14:00~16:00
- 会場
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千種校
- 対象
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中学生・高校生・高卒生と保護者の方
名大教授による最先端研究についての講演。
●第1部:「日本の競争政策」
林 秀弥(はやし しゅうや)教授 (法学研究科)
第1部では林教授に、名古屋大学法学部の紹介、そしてご自身の専門である経済法についてお話ししていただきました。
今回の講演の参加者には中学生の方もいましたが、教授が中高生だった頃は、大学の先生の話を聞く機会などは無かったそうです。林教授は、今こうやって色々な情報があり、大学の中身を知ることができるようになっているのは良いことと語られました。
法学部には、法律を学ぶ分野と政治を学ぶ分野があります。
林教授はまず、名古屋大学法学部の伝統と、その特長である「グローバル化」について語られました。
法学社会もグローバル化しています。名古屋大学は東アジア・東南アジアにおける法学研究で中心的な役割を担おうとしています。林教授は、名古屋大学法学部の歴史について、法学社会の発展と絡めて順番に説明してくださいました。1948年の法経学部(旧制)設立からの草創期、1960年代の制度改革、1990年代のアジア諸国との関わり、2000年~2004年のアジア法整備活動、2005年~2009年の海外拠点の設置、2010年~グローバル化時代が訪れ、現在に至ります。
法学部では暗記は基本的に不要です。法律は六法に書いてありますが、法学はロジック(論理)の世界です。法学には“取り締まる”イメージがありますが、ロジックを駆使して自分たちに与えられている権利を守る、その武器となるのが法律です。現代では法律は変わるし、国によっても法律は変わるため、柔軟性がないと太刀打ちできません。林教授は、「法律とは“現実”であり、文学などと違って“使ってなんぼ”の現実的な分野です。」と語られました。
次に林教授は、ご専門である日本の競争政策についてお話ししてくださいました。講演のポイントとして挙げられたのは、「競争法の目的について理解を深めること」「卒業後の進路との関連で先端的な法について理解を深ること」です。
日本で「競争」という言葉を創出したのは福沢諭吉です。林教授は、福沢諭吉が著した『福翁自伝』について、口述筆記のため口語体で書かれておりわかりやすい、講演を聞かれている皆さんくらいの時代に読むべき本であるとお勧めされました。
林教授は、競争に対する良いイメージや悪いイメージ、具体的なメリットを挙げられた上で、公正で自由なルールの元の「競争」の必要性について語られました。市場メカニズムを十分に発揮させるためには、「公正かつ自由な競争」を確保するためのルールの整備と強い執行機関の設置が不可欠です。我が国では独占禁止法と公正取引委員会がそれにあたります。
名大法学部のさまざまな可能性について語り、「一見法学部と相反するようだが、創造性が大事。時代のフロンティアに果敢に挑み、格闘する皆さんを心から歓迎します」と強調された林教授に、参加者からは大きな拍手が送られました。
大学生活や研究内容を知り、将来の幅を広げる。
●第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
総合法政専攻(商法)博士課程2年
総合法政専攻(政治学)修士課程2年
第2部では、名古屋大学法学研究科所属の2名の大学院生に、キャンパスライフや現在の研究内容をテーマにお話ししていただきました。
総合法政専攻(商法) 博士課程2年
講演者は、まず、子どものころに志していた職業と高校・大学・大学院の進路選択について、次にご自身の研究内容である「会社法」とその研究内容についてお話ししてくださいました。
講演者は名古屋大学法学部から法科大学院へと進学されました。法科大学院にて司法試験の勉強をされ、その合格後、司法修習を終えられた後、さらに研究を続けたいという思いと学部時代のゼミの先生の助言があり、法学部の大学院へと進まれたそうです。
現在、大学院で「コーポレート・ガバナンス」、つまり会社が適正かつ効率的であるためにどうあるべきかを研究されていますが、最初から会社法に興味を持っていたわけではなく、むしろ苦手な分野だったそうです。ですが、ゼミ選択の際にどこのゼミに入るかを迷っていたところ、会社法のゼミのチラシを見て、もっと勉強してみようかなという思いからそのゼミを選択し、そこで出会った先生や先輩方の影響を受けて、現在まで研究を続けておられます。
研究生活について、テーマ選びから論文の執筆までの流れをお話ししていただき、「法学部の研究は理系の研究とは違って個人プレーではあるが、実生活に生かせる理論を作るために、あらゆる資料・文献を読み、新しい視点から分析する能力が必要とされている」とお話しされました。
最後に、ご自身の研究生活をふまえて、「日々の生活から情報を得て、その情報を分析していくことが大切である」というメッセージを送られました。
総合法政専攻(政治学)修士課程2年
こちらの講演では、現在の研究に至るまでの経緯と、塾生時代の河合塾での過ごしかたについてお話しいただきました。冒頭に、講演者自身も河合塾の塾生であったことをお話しされ、参加者は講演者が身近な先輩と感じられたせいか、自然と講演に集中していきました。
講演者は高校入学以前から読書が苦手で、ほとんど読書をせずに過ごされていたそうです。ですが、新聞やニュースのチェックはしており、高校時代に自民党が長期政権であることと、郵政民営化に興味を持ち、そこから政治学に興味を持たれました。高卒生時代には、河合塾で1年をどう過ごすかを考え、とにかく講師の言うことに従い、勉強の仕方を身につけようという決意され、怠けないように週1回は講師の元へ通われていたそうです。そこで、社会科学的な読書経験と知識が不足していることに気づき、名古屋大学法学部に入学後は読書を習慣化されました。この経験から、「読書を通じて『論文の構造を身につける』『社会科学の古典を読む』『外国語を習得する』ことを意識して、頑張ってほしい」というアドバイスをいただきました。
最後に、参加者へ向けて「進路に迷ったら、自分の感覚を大切にしてください」というメッセージを送られました。
どの分野の講演も専門的で興味深く、貴重な経験談を実際の生活に絡めて語っていただいたため、法学部の世界がより理解できる講演でした。最後には参加者から温かい拍手が送られました。
専門分野をより深く、興味と経験・知識の交換会。
●第3部:講演者と参加者による懇談会
第1部、第2部の終了後、林教授と大学院生2名はそれぞれのコーナーに分かれ、参加者との懇談会が行われました。
林教授の周りに集まった参加者に、林教授自らが参加者に質問を投げかけ、参加者の意見を踏まえながら意見を交換されていました。
企業のコンプライアンス対策、談合についてどう思うかなど深い質問もあり、教授も参加者の方の意識の高さに驚いておられました。
「大学に入って、必要な能力は何ですか?」
語学力、コミュニケーション能力など基礎的な能力が必要とされます。第二外国語で学ぶ言語は身につきにくいですが、しっかり学んだ方が良いです。海外に行けば、もちろん英語は通じるのですが、やはり現地の言葉で話すと相手に受け入れられやすく、さまざまな情報を得ることができます。また英語圏と、ドイツ、フランスなどのヨーロッパ圏では法律自体もまったく違うものです。
「大学入試で小論文が取り入れられている理由は何ですか?また、対策として何をすれば良いですか?」
大学に入ると、文章をたくさん書きます。大学ではロジカルに文章を書く能力が求められるため、大学入試でもそこを見ていると思います。また書く能力というのは、さまざまな文章を読み、自分で何度も書かないと身につきません。文章から主義主張を的確に要約し、相手を納得させるだけの自分だけの意見を作ることが求められているので、その対策をすれば良いと思います。
「法科大学院で司法試験の勉強をして、法律家をめざしている人は多いですか?」
法科大学院がなかった時代は、司法試験に受かる人は3%程だったが、現在は法科大学院で学ぶことができるので、真面目に勉強をすれば70%程は試験に合格します。司法試験の勉強と併せて、公務員試験対策の勉強をしている人も多いですが、法律家一本で勉強を頑張っていくのも良いと思います。
「各国での法律の違いは、宗教以外の要因で何かあるのでしょうか?」
法律はアジアとヨーロッパでもまったく違っています。たとえば日本の法律は、江戸時代までは個人の権利保障がなく、幕府など上のものが指示を出して従わせていました。しかしヨーロッパの法律は、古代ローマ法がベースになっており、現在に繋がっています。古代ローマ法は文明そのものが法律になっており、そこに個人の権利保障がついてきました。この差に大きな違いがあるのでしょう。
「小論文は、答えがはっきりとないものだという気がします。小論文を入試科目にしている意義は何ですか?」
小論文は答えがないように見えますが、だいたいのものはいくつか答えが用意されているものが出題されていると思います。要約しなさいという問いでは主張をまとめる能力が見られ、説得・反論しなさいという問いでは相手を納得させる能力が見られています。裁判などでもそうですが、常に利害対立があるものへの判断は、ある程度相手を納得させる能力が必要とされます。入試の小論文では、それに対応できるだけの能力が備わっているかどうかの判断がされていると思います。
法律の意義や文章を書くことについての質問が多く、真に法学に興味のある意識の高い方々が参加されていることがうかがえました。
大学院生のお二人には、参加者から「大学生のうちに資格が取りたいが、大学の勉強と資格の勉強は両立できますか?」「一日何時間くらい勉強していますか?」「司法試験をめざしてどのくらい勉強しましたか?」「努力を継続するコツは?」「研究者をめざすお二人は、進路にどのようなビジョンを持っていますか?」「小論文対策はどのようにしたら良いですか?」「大学のグローバル化を身近に感じることはありますか?」など多岐にわたる質問があり、その一つひとつに実体験を交え、専門的な内容も噛み砕いてわかりやすくお答えいただきました。
参加者と一体となった親しみやすい雰囲気の中で、第一志望合格に向けてやる気が芽生え、大変有意義な時間となりました。