名古屋大学×河合塾 共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第3回 医学部 「変わっていく脳-脳のはたらきと可塑的変化-」 イベントレポート | 体験授業・イベント
名古屋大学と河合塾のタッグで授業。
名古屋大学との共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第3回 医学部を、2015年7月5日河合塾名古屋校で開催しました。
河合塾と名古屋大学が共同で行う特別イベントとして、中学生・高校生・高卒生・保護者の方を対象に、名古屋大学医学部保健学科の教授と大学院生をお招きし、講演会や懇談会を実施しました。約110人の生徒・保護者の方が、名古屋大学の先端研究者の講演を聞き、大学での研究の奥深さや楽しさを体感できる絶好の機会となりました。
- 講演内容
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第1部:名大教授による最先端研究についての講演
第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
第3部:講演者と参加者による懇談会
- 日時
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2015年7月5日(日)14:00~16:00
- 会場
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名古屋校
- 対象
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中学生・高校生・高卒生と保護者の方
名大教授による最先端研究についての講演。
●第1部:「変わっていく脳-脳のはたらきと可塑的変化-」
寶珠山 稔(ほうしやま みのる)教授 (医学系研究科・保健学科)
第1部では寶珠山教授に、医学における脳研究についてお話ししていただきました。
寶珠山教授はまず、「医学部と他学部の研究は何が同じで何が違っているのか?」を話されました。
すべてに関しての共通意識は「心理の解明と利用、問題解決」ですが、その中に物質や自然、個人や人間社会、人の体や病気などさまざまなカテゴリーがあるため、それに伴った専門(工学部、理学部、文系学部、医学部など)でそれぞれの問題を解決しています。一つの病気を考えると、社会活動という大きな現象や、分子・遺伝子という小さな現象まで取り巻く環境を幅広く捉えることができますし、病気の罹患という軸で考えれば、病気の予防・発見、治療、終末期医療・緩和ケアがあることを話されました。このように人の一生の時々に出てくる問題を、3次元的に研究しているのが医学系研究科である、と教えてくださいました。
また名古屋大学の研究は、基礎教育を共有しつつ専門領域に特化しており、もし名古屋大学の研究領域に自分のやりたい研究分野がなければ自分で作ることも可能だ、と名古屋大学の魅力についてもお話してくださいました。
次に、寶珠山教授はご自身の研究である人の脳について、脳の病気やそのはたらきに関わる内容について詳しく説明してくださいました。
脳研究の目的は「脳の病気や障害を治したい」「脳のはたらきを知って、より良く生きるための手助けをしたい」ということです。たとえば、「病気や怪我で脳の細胞が減ってしまったら、元に戻るのでしょうか?」という議題では、損傷した脳は、現代医学では目に見える形で元に戻ることはありません。しかし、成人時に脳出血が起これば言語障害が生じる箇所が、脳出血を起こしたのが胎児期の場合では成長後の検査でもその跡は見られるのに言語障害はない、というケースがあります。現在の脳研究の最前線では、生きている人の脳を傷つけずに(非侵襲的に)どこまで計測できるかということと、脳の活動(神経活動)を計測し、脳のどこでどのようなはたらきがなされているか、病気や怪我の時は脳のどこの調子が悪くなっているのか、脳のはたらきはどうやって治っていくのか、治せるのか、という研究が行われています。
また、運動や感覚の訓練による脳の変化の調査では、小さい頃からバイオリンを練習した人と練習したことのない人では、左手小指の運動感覚野がはたらく大きさが、明らかにバイオリンを練習していた人の方が大きいことが解明されています。これは、脳から出る微小な磁場を計測する装置「脳磁計」を使用し、音を聞くことで時間経過とともにどこで脳が活動しているかをグラフで見ることができます。音を聞いた場合に生じる脳の活動と体のつながり具合を、実際の研究映像で見せていただけました。「年齢によるconnectivity」という研究観点からも、大人になると脳は使用する部分のみ活動を残していくとされており、活動が片寄ると認知症の症状が出てくるなど、脳の反応場所とつながり具合の変化は、さまざまな状態(病気や発達、老化など)で検出されつつあります。
最後に寶珠山教授は脳研究のこれからとして、「『体の変化や病気による脳活動の変化』『健康な人の感じ方や行動の仕方』『心の病気』『脳のはたらきの衰え』『発達の過程』などのいくつかの研究観点があるなかで、『人格や性格と脳の活動』という観点となると、遺伝子と同様にひとつ間違えれば恐ろしい研究となってしまうことも有り得ます。研究は諸刃の剣です。そんな脳の研究を慎重に行うべく、名古屋大学では全国でも最も厳しい倫理審査委員会のひとつ『名古屋大学医学系研究科生命倫理審査委員会』を設置しています。研究が倫理に基づいて行われているかどうかを、他分野の医師や研究者、弁護士、一般の方々の協力を得て審査しています。医療のさまざまな可能性があるなかで、名古屋大学では研究内容とともに倫理を重んじ、日々研究を行っています」と話され、参加者からは大きな拍手が送られました。
大学生活や研究内容を知り、将来の幅を広げる。
●第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
総合医学専攻 予防医学分野 服部 雄太(はっとり ゆうた)氏
医療技術学専攻 病態解析学分野 村田 萌(むらた もえ)氏
第2部では、名古屋大学医学部研究科所属の2名の大学院生に、キャンパスライフや現在の研究内容をテーマにお話ししていただきました。
総合医学専攻 服部 雄太 氏
医学博士課程3年の服部さんは、薬学部(6年制学部)と大学院の説明、ご自身の「疫学」の研究に至るまでの経緯についてお話してくださいました。
服部さんは、薬学部(6年間)を卒業後、薬剤師になってから現在の博士課程の大学院に進学されています。薬学部を卒業してから現在の予防医学分野の大学院に進むことになったきっかけは、薬学部3年生のとき「分子生物学」という遺伝子がはたらく仕組みの学問に興味を持ったことからでした。その後5、6年生では「衛生薬学」の研究、卒業研究では「カドミウム(Cd)の分子毒性発現機構の検討」をテーマに研究され、現在の研究(疫学)に至りました。 研究は実験だけでなく統計やプログラミングも使っており、さまざまな分野が絡んでくるそうです。
また現在の大学院生活について、趣味の話も交えてグラフと写真でわかりやすく1日の生活スケジュールを説明していただきました。アルバイトや奨学金など気になる経済状況や、課外活動(Mei-Writing Summer Camp)での国際交流、ご自身が考えている今後の進路についてもお話しくださり、とても充実した研究生活を送られている様子がうかがえました。
最後に大学院は、「好き」と「得意」、「自分の世界を見つけるところ」というメッセージもいただきました。大学卒業後の進路について、いろいろな道があることを教えてもらえる講演でした。
医療技術科学専攻 村田 萌 氏
博士後期課程3年の村田さんは、大学時代から、現在の大学院生活までのお話をしていただきました。
村田さんは名古屋大学医学部保健学科の検査技術科学専攻に入学後、医学部の大学院に進学されました。大学時代は勉学だけでなく、フィギアスケート部に所属し部活動にも励み、充実した学生時代を過ごされていたことがうかがえました。お話の中では、医学部保健学科についての説明、臨床検査技師とはどのような仕事をするのか、その受験資格などの説明もしていただきました。
大学時代、卒業研究をする3年生夏から4年生5月末まで血液遺伝子研究室に配属され、当時見ていたテレビドラマがきっかけで、さらに研究をしようと大学院への進学を決められました。博士前期課程2年間は遺伝子とはまったく違う世界を学び、「遺伝子をもっと研究したい!」との思いが強くなり、さらに博士後期課程へ進学し研究漬けの日々を送られています。現在、「特別研究員」という村田さん、その制度についてのお話もしていただきました。 また、研究室が TV 取材を受けたときのことや研究室の写真なども交えて、実際の研究生活をイメージしやすく紹介していただきました。
最後に来場者の方に“大学はゴールじゃない。その先を見据えて学部を選んでほしい”というエールを送られました。
どの分野の講演も専門的で興味深く、貴重な経験談を実際の生活に絡めて語っていただいたため、医学部の世界がより理解できる講演でした。
専門分野をより深く、興味と経験・知識の交換会。
●第3部:講演者と参加者による懇談会
第1部、第2部の終了後、寶珠山教授と大学院生2名はそれぞれのコーナーに分かれ、参加者との懇談会が行われました。
寶珠山教授の周りに集まった参加者に、「質問がある方」と声をかけると、次々と手が挙げられました。
「現在、物理と化学を選択して学習していますが、医学部でその科目の必要頻度はどれくらいですか?」
どの科目で受験すれば良いかという観点に関して言えば、実際の学部で学ぶ内容との関係性はない。自分の好きな科目について伸ばしていって、将来的にその好きな分野を研究に生かしていってほしい。ただし、英語・数学は理科の基礎となる部分ですので、しっかり学習してください。
「中学生と高校生の子を持つ母親ですが、子を育てるという面で誉めるのと叱るのとどちらが良いですか?また、母親として今の年頃の子どもにどう関わっていけますか?」
バイオリンを小さい頃から始めると脳は変化すると講演の中で話しましたが、上達するということはまた別です。誉めたり叱ったりすることで、良いまたは悪い影響を及ぼすことに関しては、それをする方法やタイミングなどで変化していくので、教育学面においてかなり興味深い内容ですが、現状は調べれば調べるほど解答が困難です。
「医学が発展しすぎて、たとえば高齢だからこその認知症患者が増えることが本当に良いのかという疑問についてどう思われますか?」
それについては、私たちの中でも議論になっています。しかし、一人ひとりの患者さんを見ると、人間が活動できる範囲の欲が出てしまい結論は出ていません。それに関しての問題解決を他の分野の専門家と一緒に検討するべきだと思います。
「人格と脳の研究について先生はどのようにお考えですか?」
どういう脳を持っている人が、何に向いているかという研究を行っているところもあります。たとえばそれが軍事的力に採用されてしまったとしたら恐ろしいことです。道を誤らない科学の研究をするべきです。研究者をめざすみなさんは、研究者になる前の大学1・2年次に受講する教養科目のなかで何が正しいのかを学んでいただきたいです。
「医療行為者に望む人材は何ですか?」
仕事内容と給料が見合わないときもあります。損得感情でなく、人のためになっているという気持ちを持ってください。また、体力は重要です。若いうちに鍛えておいてください。
研究内容や将来の医療についての質問が多く、真に理学に興味のある意識の高い方々が参加されていることがうかがえました。
大学院生のお二人には、参加者から「高校生のときにやっておけばよかったことは何ですか」「英語はどれくらいできればよいですか」「大学では他学部、他大学との交流はありますか」「パソコンがどれくらいできればよいですか」「大学院の院試について知りたい」など多岐にわたる質問があり、その一つひとつに実体験を交え、わかりやすくお答えいただきました。
参加者と一体となった親しみやすい雰囲気の中で、第一志望合格に向けてやる気が芽生え、とても有意義な時間となりました。