名古屋大学×河合塾 共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第1回 工学部 「光と電波の谷間に残されたテラヘルツ波の研究」 イベントレポート | 体験授業・イベント
名古屋大学と河合塾のタッグで授業。
名古屋大学との共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第1回 工学部を、2015年5月17日河合塾千種校で開催しました。
河合塾と名古屋大学が共同で行う特別イベントとして、中学生・高校生・高卒生・保護者の方を対象に、名古屋大学工学部の教授と大学院生をお招きし、講演会や懇談会を実施しました。約160人の生徒・保護者の方が、名古屋大学の先端研究者の講演を聞き、大学での研究の奥深さや楽しさを体感できる絶好の機会となりました。
冒頭、名古屋大学の財満 鎭明(ざいましげあき)次期学術研究・産学官連携推進本部長から、「大学受験は皆さんの目の前にある。しかし、大学受験が終わりではない。大学に入って何をするか、社会に出て何をしたいかを見据えて大学受験をすることが大事である。高校までの勉強と大学での勉強は違う。大学では3年次で研究室に入り、そこで扱う課題について勉強する。扱う課題は世の中で役に立つ課題である。本日の講演で大学に入ってどんなことを学ぶのか、イメージを持ってもらいたい」とお話がありました。
- 講演内容
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第1部:名大教授による最先端研究についての講演
第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
第3部:講演者と参加者による懇談会
- 日時
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2015年5月17日(日)14:00~16:00
- 会場
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千種校
- 対象
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中学生・高校生・高卒生と保護者の方
名大教授による最先端研究についての講演。
●第1部:「光と電波の谷間に残されたテラヘルツ波の研究」
川瀬 晃道(かわせ こうどう)教授 (工学研究科)
第1部では川瀬教授に、テラヘルツ波の研究を通して、学生時代の経験や研究の苦労、そして楽しさ、喜びをご自身の経験を元にお話ししていただきました。
テラヘルツ波とは、電磁波の一分野で、光波の扱いやすさを有する最長波長域であり、電波の透過性を有する最短波長域です。つまり、光と電波の谷間であり、中間領域です。
テラヘルツ波は、発生させることが難しいため、まだ研究が進んでいない領域です。
川瀬教授は、学生時代に「フレーリッヒ仮説」に出会い、テラヘルツ波の研究を志すことになりました。
博士課程3年次(D3)までテラヘルツ波を発生させることができず、博士課程4年次(D4)には周囲から冗談交じりに「D51(デゴイチ)」、つまり、博士課程を5年まで在籍するのではないか、と言われていました。しかし、博士課程4年次(D4)の秋にようやくテラヘルツ波を発生させ、学会で発表をすることができました。その後はテラヘルツ波の研究にいそしむことになります。
ご自身の経験を通じ、研究はうまくいくとは限らない、苦労の末のブレークスルーは大きな成果を産むことを分かりやすく、そしておもしろくお話をしてくださいました。
また、工学部と理学部の違いについて、修士課程と博士課程について、名古屋大学工学部についてご説明くださいました。
工学部は世の中の役に立つ研究をチームで行うため、研究者にとって必要な大事な要素としてチームワーク、人付き合いのうまさを挙げていらっしゃいました。大成している研究者を見ると意外にも体育会系が多く、人付き合いの上手なタイプが多いそうです。一方、理学部は純粋にサイエンスを追及する人が多く、一人でコツコツと研究することが多い、ということでした。
現在、工学部の大学生を見ていると、修士課程を経て就職する生徒が100人程度で、博士課程を経て就職する生徒が10人程度だそうです。修士課程で卒業する生徒はオールマイティに企業で活躍する人間となり、企業内のいろいろな部署に配属されて活躍をされているそうです。博士課程で卒業する生徒は、主に研究職となりますが、工学部においては、ドクター(博士号取得者)は就職先がない、というのはただの都市伝説にすぎないようです。海外ではドクターであれば就職時に困ることがなく、日本においても将来のグローバルな世の中では、ドクターはこれからの人生において素晴らしいパスポートとなるでしょう、転職の際も有利となるでしょう、とおっしゃっていました。
また、名古屋大学の研究室の特長を教えてくださいました。
旧帝大の大学で比較をすると、どこの大学も研究に集中できる環境が整っていますが、名古屋大学の特長としてリベラルな環境で自由に研究ができることを挙げられました。
最後に、時間が限られる中、事前のアンケートで出たいろいろな質問に対して詳しく答えてくださった川瀬教授に、参加者からは大きな拍手が送られました。
大学生活や研究内容を知り、将来の幅を広げる。
●第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
電子情報システム専攻 寺田 佑貴 (てらだ こうき)氏
マテリアル理工学専攻 簾 智仁 (すだれ ともひと)氏
第2部では、名古屋大学工学部研究科所属の2名の大学院生に、キャンパスライフや現在の研究内容をテーマにお話ししていただきました。
電子情報システム専攻 寺田 佑貴 氏
修士課程2年の寺田さんは、まず高校・大学・大学院の進路選択についてご自分の例をお話しくださいました。寺田さんは小学生くらいの時からITに興味があり、「工学部」というより「電気電子・情報工学科」に入りたくて名古屋大学を志望し、河合塾千種校の高校グリーンコースにも通われていたそうです。学部時代は座学が多く、大学院への進学は、「研究がしてみたい」「理系の能力を身に付けたい」という欲求から自然に希望するようになりました。電気電子・情報工学科では9割以上が大学院へ進学しますが、ご自身は学部時代の成績が優秀で、大学院の試験が免除となったそうです。
研究テーマは「通信ネットワーク」ですが、実験もあり、研究環境も充実しています。学会のため海外へも行く機会も多いそうで、充実した研究生活を送られている様子がうかがえました。
「大学・大学院で6年学ぶことなので、第一に関心のある分野を選んで有意義な大学生活にしてほしい」という寺田さんからのエールに、参加者より大きな拍手が送られました。
マテリアル理工学専攻 簾 智仁 氏
博士課程3年の簾さんは、まずご自身の「液体の中でプラズマを作る」研究についてお話ししてくださいました。途中、研究室が紹介されたVTRを流しながら、燃料電池車の開発に関わるなど、我々の生活に身近な話をしていただいたため、参加者は関心を持って見入っていました。
研究室には世界中からこの研究をしている人が集まっており、国際色豊かな仲間たちから様々な刺激を受けておられるそうで、研究生活の充実が感じられるお話でした。
簾さんは他大学から、出身地に近い地で水の研究している大学を探し、名古屋大学の修士課程・博士課程に進まれました。名古屋大学の工学部は、やはり地元に自動車会社があることもあり、車に関連した研究(自動操縦、金属加工等)に強いそうです。
また、ご自身の大学入学から研究室配属、博士課程前期・博士課程後期から就職までの流れをお話ししてくださいました。理学部と工学部の違いについて、簾さん個人のお考えとして、「『理学部は科学への貢献、工学部は科学による貢献』を学ぶ」と述べられました。
どの分野の講演も専門的で興味深く、貴重な経験談を実際の生活に絡めて語っていただいたため、工学部の世界がより理解できる講演でした。最後には温かい拍手が送られました。
専門分野をより深く、興味と経験・知識の交換会。
●第3部:講演者と参加者による懇談会
第1部、第2部の終了後、川瀬教授と大学院生2名はそれぞれのコーナーに分かれ、参加者との懇談会が行われました。
川瀬教授の周りに集まった参加者に、「質問がある方」と声をかけると、次々と手が挙げられました。川瀬教授は一つずつ明確に質問者が理解できるよう回答されました。
「高校と大学の違いは?」
日本は、高校時代は受験勉強がメイン。大学生になると忙しいけど自由。遊べる。海外では高校時代は遊んで、大学ではしっかり勉強する。
「マンモグラフィーへの応用はできるか?」
テラヘルツ波は、人体は通せないので、マンモグラフィーでは使えない。皮膚癌など表面的なものには使える。
「大学生活と高校生活で気をつけたほうがよいことは?」
高校生活は、自分の夢を叶えるために勉強を頑張る。大学生活は、幅広い経験をする。積極的にサークル、アルバイトなどもしてほしい。研究はチームプレイが基本。
「海外の学会など英語を使う機会が多いようですが、どの学生も話せるようになりますか?」
実際、英語が苦手な学生が多い。大学生活を普通に過ごしていてもなかなか身につかない。英語の力をつけるためのお勧めとして、好きな映画を英語字幕で観ることは有効。研究室の学生も実践している。
「どのような流れで自分の研究室を持つのですか?」
旧帝大の場合、大学に残り研究を行い、准教授になれば研究室を持つことができる。私立大学では比較的早く研究室を持つことができる大学もある。
遠方から参加された方も多く、また、大学生活の話や学部についての話から、テラヘルツ波に関する専門的な質問まであり、幅広い層の方が参加されていることがうかがえました。
大学院生のお二人には、参加者から「工学部の女子の割合は」「英語の勉強は大学の授業でちゃんと学べるのか」「他大学との交流はあるのか」「工学部、理学部の間での入れ替わりはあるのか」など多岐にわたる質問があり、その一つひとつに実体験を交え、専門的な内容もわかりやすくお答えいただきました。
参加者と一体となった親しみやすい雰囲気の中で、第一志望合格に向けてやる気が芽生え、大変有意義な時間となりました。