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名古屋大学×河合塾 共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第21回 法学部「「政治=選挙」イメージの再検討ー政治はどこにあるのか?ー」 イベントレポート | 体験授業・イベント

名古屋大学と河合塾のタッグで授業。

講演の様子

名古屋大学との共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第21回 法学部を、2017年7月2日(日)河合塾名古屋校で開催しました。
河合塾と名古屋大学が共同で行う特別イベントとして、中学生、高校生、高卒生、保護者の方を対象に、名古屋大学法学部の教授と大学院生をお招きし、講演会や懇談会を実施しました。たくさんの生徒・保護者の方が、名古屋大学の最先端研究者の講演を聞き、大学での研究の奥深さや楽しさを体感できる絶好の機会となりました。

講演内容

第1部:名大教授による最先端研究についての講演
第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
第3部:講演者や大学院生と参加者による懇談会

日時

2017年7月2日(日)14:00~16:00

会場

名古屋校

対象

中学生・高校生・高卒生と保護者の方

政治の概念と世の中の見方について。

田村 哲樹(たむら てつき)教授 (法学研究科)

●第1部:「「政治=選挙」イメージの再検討ー政治はどこにあるのか?ー」
田村 哲樹(たむら てつき)教授 (法学研究科)

第1部では、まず法学部のイメージについてお話いただきました。

法学部は、裁判官や弁護士などの法律の専門家を養成する学部と思われがちですが、多様な職業に就くことを想定して幅広い法学・政治学教育が行われており、大局的見地に立って物事を総合的に判断する能力を身につける力を養う学部です。現実に生じる具体的案件について、的確妥当な価値判断や意思決定を行う能力が期待されています。そして名古屋大学法学部の特徴として、完全自由選択制、ゼミ(演習)でのアクティブな学修、英語での法学・政治学授業、留学、大学院(法科大学院含む)進学プログラム等の紹介もいただきました。

次に、田村教授の研究テーマである、「政治に関わる概念(世の中を見る枠組み)を見直すこと」について、お話いただきました。

「政治」についての一般的なイメージは、「政治=選挙」です。しかし、「政治」の理解の仕方、つまり概念を見直すことができればどうでしょうか。私達は概念を通して世の中を見て理解しています。そのため、概念が変われば、世の中の見方や理解の仕方も変わってきます。このことは、政治についても当てはまります。「政治」の概念を見直せば、「政治=選挙」という私達のイメージも変化します。このように、政治についての「新しい見方」を生み出していくことが、田村教授の研究の目的です。

それでは、具体的にはどのようにして、「政治」の概念を見直していくのでしょうか。まず考えるべきことは、私達はなぜ「政治=選挙」と思ってしまうのか、という問題です。それは、私達が政治という概念について、「国家・政府で、政治家によって行われるもの」という理解をしているからです。これが、「政治=選挙」あるいは「政治=国家=選挙」というイメージの意味です。しかし、もしも政治の考え方を改めれば、このようなイメージも変化します。
まず、「政治」自体の定義を確認します。政治とは、「集合的決定」、より正確に言えば「集合的に拘束する、正統な意思決定」のことです。この定義が意味するのは、政治とは、自分だけではなく複数の人々に関わる(集合的)問題について、当該問題に関わる人々を場合によっては強制的に従わせる(拘束する)と同時に、その人々が納得して受け容れる(正統な)ことができるような形で、解決を図る(意思決定)ことだということです。政治学者のジェリー・ストーカーが述べるように、「政治は妥協に到達し、意見の異なる人間がどうにかこうにか共存する道を見つける作業」なのです。
このような政治の定義が、なぜ「政治=選挙」イメージを見直すことにつながるのでしょうか。それは、この「政治」概念が場所を選ばないからです。集合的な決定の作成としての政治は、さまざまな場所で行われる可能性があります。なぜなら、私たちは生活・人生の様々な場面で意見の異なる「他者」と接するものであり、だからこそ集合的な「問題」が発生し、「政治」による解決が必要だからです。
「政治=選挙」ではない「政治」の事例の一つは、国境を横断して発生する諸問題(商取引、スポーツ、インターネット上の慣行など)の解決のための政治です。ここでは、当該の問題に関係する国境横断的な組織や人々の間で、問題解決のための自主的なルール・規制が作られていきます。もう一つの事例は、親密圏における政治です。その具体例として、夫婦間で家事・育児の分担をめぐって話し合う場合や、友人関係を確認し合う場合などを挙げることができます。いずれの事例も、そこで行われているのは集合的決定としての政治であり、その決定に私たちは一定程度拘束されていると見ることができます。

最後に田村教授は、以上のようにして政治という概念を見直すならば、「選挙に関心を持つ」ことが「政治に関心を持つ」こととは限らず、むしろ、「選挙には関心がないが、(国家以外の)『政治』には関心がある」という見方もできるようになるのだと述べました。その上で田村教授は、「どのようなものでも、異なる意見を持った他者とともに行われることから、政治は魅力的な活動とは限らず、ストレスや幻滅を感じやすいものでもある。そこに「政治に関心を持つ」ことの難しさも、政治を研究する難しさもある。」と述べて話を締めくくられ、参加者からは大きな拍手が送られました。

大学生活や研究内容を知り、将来の幅を広げる。

●第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
 法学研究科 会社法 Nguyen Thi Ly(ぐえん・てぃ・りー) 氏
 法学研究科 国際私法(抵触法) 加藤 紫帆(かとう しほ)氏

第2部では、名古屋大学法学研究科所属の2名の大学院生に、キャンパスライフや現在の研究内容をテーマにお話ししていただきました。

法学研究科 会社法 Nguyen Thi Ly 氏

法学研究科 会社法 Nguyen Thi Ly 氏

リーさんは、ハノイ法科大学を修了された後、名古屋大学日本法教育センターを経て名古屋大学大学院に在籍されて専攻分野の会社法を研究中です。
日本を留学先に選んだ理由としては、名古屋大学に「名古屋大学日本法教育センター」があることを知り、日本語と法学の両方勉強できるため、すぐに申し込みをされたということでした。
留学当初の勉強については日本人の法学部生と一緒に民法講義や民事訴訟法ゼミなどを受講していましたが、まったく理解できず、日本語の能力が足りないということが原因だと気づきました。そのため講義やゼミのために予習をしたり、日本人のチューターと勉強したり、ディベートのように課題をすることで力を付けました。
次に研究活動に関して、当初は研究テーマを「ベトナム国有企業の株式化の諸課題」として取り組む予定でしたが、いくつか問題点があることに気づかれました。それは研究テーマの需要性、テーマに対して関心を持っているか否か、資料や参考文献に先行研究を収集することができるか、2年間進められるか、といったことです。特にベトナム国有企業に関する資料や参考文献については、非公開といった理由で先行研究を収集することが難しく、今は「ベトナム会社法における社会的企業の法的課題」をテーマに変えて進めています。そこで社会的企業とはどういうものかというと、グラミン銀行の創業者のムハンマド・ユヌスが2006年にノーベル平和賞を受賞したことで、社会的企業が広く知られるようになりました。女性の経済自立を手助けしたり、慈善事業ではなく「ビジネス」として社会問題を解決するために経営手法を取り入れることで、財政的に自立した企業のことです。そして事業性と社会性の両方を兼ね備えたソーシャルビジネスの社会志向型企業として社会的企業の自立性を中心に研究中です。
今後の活動としては、自分が2年間しっかり勉強して論文を書くということを中心に勉強以外の活動(行政書士法人でのアルバイトやベトナム語を教えることなど)も頑張っていきたいということでした。

法学研究科 国際私法(抵触法) 加藤 紫帆 氏

法学研究科 国際私法(抵触法) 加藤 紫帆 氏

加藤さんは高校生の頃は英語や海外に行くことに興味を持っており、英語学科を志望されていましたが、高校の先生からのアドバイスを受け、名古屋大学法学部への進学を決意されました。入学後も英語や留学に興味を持ち続けていた加藤さんは、留学生と交流するサークルでの活動や、名古屋大学のプログラムを使ってタイや台湾への訪問を行っており、その経験から3年生のときには香港大学への交換留学を計画していたのですが、急遽交換留学の話がなくなってしまい、とても悔しい思いをされたそうです。その悔しさから、「このままの気持ちで就職活動はできない。自分のキャリアに関して確信のある選択を行うためには大学院進学も良いのではないか」と思い始め、その後のオーストラリアへの短期語学留学の中でもっと勉強を続けたいという思いが強くなり、大学院への進学を決意されました。
法学研究科に進学された加藤さんは、現在抵触法(国際私法)について研究をされています。抵触法とはある法律関係を、あらかじめ定めた連結素(場所)を介してある国の法律に結びつけることにより、法の抵触を解決することであることをお話しされ、具体的には日本と中国の法律における婚姻可能な年齢の違いとそこから生まれる法の抵触について、その生まれた国際的に矛盾する法律関係をどう解決すればいいのかについて例にあげながらお話をしてくださりました。
また、現在行っている文化財の盗取と不法輸出の研究について、国際的な文化財の不正取引の防止へと向けた抵触法的対応を探ることを目的として、研究を行っていることを紹介されました。

最後に、研究活動の内容として、普段は文献を読んだり、ゼミで議論をしたり、海外で研究報告をしていることをお話しされ、その他にも博士課程教育課程のリーディング・プログラムでアメリカに研修に行ったり、IBMを訪問して講演を聞いたりしているとのご報告があり、参加者からは大きな拍手が送られました。

専門分野をより深く、興味と経験・知識の交換会。

●第3部:講演者と参加者による懇談会

第1部・第2部の終了後、田村教授と大学院生2名でそれぞれのコーナーに分かれ、参加者との懇談会が行われました。

講演者と参加者による懇談会

田村教授の懇談会に参加した方たちからは、研究内容に深く切り込んだ内容から、名大の学部に関することまで、さまざまな質問が寄せられました。

Q、講演の中でいろんな立場から見ることが大切とお話しされていましたが、メディアの影響を受け、各方面からのいろんな意見を聞いて、自分で簡単に結論を出せなくなってしまったが、どこまで自分で考えて結論を出せばいいのでしょうか?

A、いろんな情報を得て、自分の考えについて悩むのは良いことだと思います。その際、自分の意見をまとめるためにも、専門的な知識を身につけ、政治学の学説や議論を軸にして考えることができるようになると良いと思います。

Q、田村教授が政治に興味を持ったきっかけは何ですか?

A、物心ついた頃か中学生くらいの頃には、政治に興味を持っていたような気がします。両親が比較的社会的関心が強い人たちだったので、その影響だと思います。実は、政治の中でも高校生頃まではその歴史(政治史)に関心があったのですが、名古屋大学法学部で学んでいくうちに、現在の政治に、さらには政治の理論や思想に関心を持つようになりました。

Q、法学部に入学する段階で、すでに専攻は決めておいたほうがいいでしょうか?

A、名古屋大学法学部のように、入試の時点で学科や専攻を決めなくてもよい学部の場合には、大学入学時点ではまだ政治を専攻するか法律を専攻するかは決まっていなくても大丈夫です。大学入学後に、各自の関心で政治を中心に勉強するか、法律を中心に勉強するかを決めることができます。ですから、まずは「大学での勉強とはどういうことか」についてのイメージを持ってもらうことが大切だと思います。

大学院生のお二人には、参加者から専攻されている抵触法や会社法についての具体的な内容についてかなり深い視点での質問があり、その他にも「英語を使った授業はありますか?」「国際法を勉強したら卒業後の進路はどういったものがありますか?」「留学はした方が良いですか?」「弁護士になるにはどのような勉強をすればよいですか?」など多岐にわたる質問があり、予定時間を過ぎても参加者からの質問が尽きない中、田村教授も加わられて三人で一つ一つの質問に、親身に丁寧に答えてくださいました。

参加者の皆さんにとっては名古屋大学での生活を身近に感じることができた、大変有意義な時間となりました。

参加者の感想(一部抜粋)