名古屋大学×河合塾 共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第20回 工学部「3次元映像技術の最先端」「放射線で診て治す!—放射線治療の現状—」 イベントレポート | 体験授業・イベント
名古屋大学と河合塾のタッグで授業。
名古屋大学との共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第20回 工学部を、2017年6月11日(日)河合塾千種校で開催しました。
河合塾と名古屋大学が共同で行う特別イベントとして、中学生、高校生、高卒生、保護者の方を対象に、名古屋大学工学部の教授・准教授と大学院生をお招きし、講演会や懇談会を実施しました。約160人の生徒・保護者の方が、名古屋大学の最先端研究者の講演を聞き、大学での研究の奥深さや楽しさを体感できる絶好の機会となりました。
- 講演内容
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第1部:名大教授・准教授による最先端研究についての講演
第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
第3部:講演者や大学院生と参加者による懇談会
- 日時
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2017年6月11日(日)14:00~16:00
- 会場
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千種校
- 対象
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中学生・高校生・高卒生と保護者の方
初の二部構成!工学の魅力と幅広い活用について。
●第1部 Part.1:「3次元映像技術の最先端」
藤井 俊彰(ふじい としあき)教授 (工学研究科)
第1部Part.1では、出席者からの事前質問に回答する形式で講演が始まりました。
大学での学びや名古屋大学工学部で特に力を入れている研究についての質問に対し、大学はあらゆる分野のたくさんの知識を身につけることができる場であること、そして名古屋大学工学部では世界最先端の研究かつ自分のやりたい研究を行うことができる大学である、と工学部の改組についての説明を交えてご説明くださいました。
また、現在のブームに惑わされることなく、自分の興味のある分野へ進むことの大切さを、ご自身の研究内容である3次元映像技術のブームをもとにご説明くださいました。
まず3次元映像とは何か、という点からご説明くださいました。3次元映像とは、人間に立体感を与えることのできる画像のことです。では立体感とは何なのか?人間が立体感を感じる要因として、「両眼視差(左右像の違い)」「輻輳(眼球の回転)」「ピント調節(眼のレンズ変化)」「運動視差(運動の違いによる像の違い)」があげられます。この4つの要因を満たせるかどうかが3Dであるかのキーとなります。3次元を実現させるための方式は戦前から考案されていました。1838年「Wheatstoneの立体鏡」、1903年「F.E.Ives パララックス ステレオグラム」、1908年「M.G.Lippmann インテグラル・フォトグラフィ」。この方式は現在でも使用されており、任天堂3DSは、「パララックス ステレオグラム」を利用しているそうです。3次元映像の種類はたくさんありますが、藤井教授は、この3次元映像を共通フォーマットを用いて表現する「光線空間法」をテーマに研究を行っています。光線空間を表現するにあたりさまざまな実験を行いました。フィギュアスケート選手の荒川静香さんにご協力いただいて多視点映像を記録し動画のように再生する多視点映像撮影実験は、サッカーやビーチバレーなどの場面でも行われ、実際の動画を見ながら実験における苦労点や、それを乗り越えた先のやりがいが伺えました。
最後にこのような実験から、光線空間を表現するには4次元関数で表現されていること、つまり3次元映像は、実は4次元であるという言葉で締めくくられ、参加者からは大きな拍手が送られました。
●第1部 Part.2:「放射線で診て治す!-放射線治療の現状-」
吉橋 幸子(よしはし さちこ)准教授(工学研究科)
はじめに、吉橋准教授は「放射線」と聞いて良い印象を持っていない方、良い印象を持っている方それぞれに挙手をお願いして、出席者の放射線への印象を確認されました。
まず、レントゲンなどのエックス線撮影診断やPET検査など、一般的に知られている放射線治療についてご説明されました。そして、放射線の種類や、放射線の発生メカニズム、放射線診断による被ばくについて説明された後、ご自身が開発に取り組んでいらっしゃるホウ素中性子捕捉療法(通称BNCT)のための装置開発についてお話くださいました。
この治療法は、がん細胞にホウ素を取り込ませて中性子を照射します。そしてホウ素は中性子が当たると高速のヘリウム(α線)とリチウム粒子線に核分裂し、これらの粒子線が、がん細胞を死滅させます。粒子の飛程が短いため、ホウ素の集積した細胞(がん細胞)のみが死滅するという治療法です。そして、中性子のエネルギーが低いため、生体組織に当たっても無害であるという画期的ながん治療法として注目されています。
ただし、中性子は簡単に作ることができないため、現在は研究用の原子炉にて治療が行われています。そこで、中性子を作る方法として、加速器を利用した中性子源の開発を行うことで、病院にも併設できるようになります。このような最先端の治療装置を開発するためには、放射線というよりは原子核を研究してきた力が必要となります。名古屋大学では、BNCT装置の開発を行っていますが、数年後には完成させたいという思いを持って、新しい治療法の普及に向けて研究を続けています。
最後に、エネルギー工学科についてと女性の進学・進路についてお話され、実は、エネルギーの仕事や放射線の仕事で女性が活躍する場がたくさんあることを説明されました。
短い時間ではありましたが、新しい放射線治療について分かりやすくご説明いただき、参加者からは大きな拍手が送られました。
大学生活や研究内容を知り、将来の幅を広げる。
●第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
工学研究科 マテリアル理工学専攻 清 美樹(せい みき)氏
工学研究科 電子情報システム専攻 東松 真和(とうまつ まさかず)氏
第2部では、名古屋大学工学研究科所属の2名の大学院生に、キャンパスライフや現在の研究内容をテーマにお話ししていただきました。
工学研究科 マテリアル理工学専攻 清 美樹 氏
清さんは、静岡県の高校から名古屋大学工学部に進学され、現在は名古屋大学大学院物質プロセス工学専攻に在籍されています。
初めに、学生生活についてお話してくださいました。1年次は、数学や化学、物理の基礎、語学や実験基礎を学ばれ、2年次で材料工学コース(現マテリアル工学科)を選択しました。金属や半導体などの材料についてマクロ~ミクロの視点で学んだり、材料破壊実験や超伝導実験を行ったりするなど、より専門性の高い勉強・実験に取り組まれました。4年次になると研究室に配属され、それまで学んだことを生かして卒業発表に向けた研究を行いながら、並行して院試勉強にも取り組まれたそうです。また、勉強のかたわら複数のサークル活動に参加されていたこと、オーストラリアでの語学留学、ポーランドの大学でのインターンシップ活動など、さまざまな経験を積まれたお話をしてくださいました。
次に、研究内容の紹介がありました。清さんは、エネルギー・環境問題などの課題解決に向けて、太陽電池の研究をされています。光をより多く取り入れられるよう、マイクロスケール、ナノスケールで表面の凹凸構造を研究し、あわせて表面素材の品質向上、新しい材料の開発、小型化など、高効率・低コストな太陽電池の実現に向けた研究に取り組まれています。講演では、太陽電池の仕組みについて、会場の中学生・高校生にわかりやすく解説されていました。また、名古屋大学では研究のための実験設備が充実していると紹介がありました。
ご自身の研究生活や学会発表についてお話されたあと、「自分の人生に責任を持てるのは自分。自分の進路は自分の意志で決めて、将来の自分が今の自分に感謝できるように“今”を過ごしてほしい」というメッセージで締めくくられたことがとても印象的な講演でした。
工学研究科 電子情報システム専攻 東松 真和 氏
「高校時代は化学が得意で、某漫画キャラクターが皮膚に含まれる炭素を変化させることに興味が湧き、小さな物質の組み合わせで身の回りのものができていることにロマンを感じていました。…けれども、進学先は工学部電気電子・情報工学科でした」というお話から東松さんの講演は始まりました。
大学院では工学研究科電子情報システム専攻に進んだ東松さんは、現在プラズマを研究されています。
プラズマは物質の第4態と呼ばれる状態で、オーロラや稲妻、炎など、私たちの身近なところにも存在しています。たとえば、プラズマを照射した培養液をがんのラットに注射したところがん細胞が死滅したこと、ケガの治療に効果があることなど、生体への応用研究が進んでいます。他にも、プラズマを食品に照射することでカビが抑制されたり、動植物の成長促進に効果があるなど、プラズマがひいては食糧問題の解消にも役立つことを紹介されていて、大学での研究が私たちの社会生活につながっていることが実感できるお話でした。
そして、東松さんの研究テーマである、プラズマによって成長するナノカーボン構造体「カーボンナノウォール」については、走査型電子顕微鏡で実際に撮影したカーボン構造体の写真を使いながら、特長や応用方法について紹介されました。特長として良好な電気伝導性を持つほか、機械的強度が高いという説明があり、講演冒頭でお話しされていた高校時代の興味が、今の研究テーマに発展していることが伝わってきました。
最後に、「大学では、行動さえすればどんなことにでも挑戦できる、どんなことに挑戦したいか、自分の『好き』を見つける。『大学』はゴールではなく、通過点である」という言葉とともに、「自分の思い通りにいかないことがあっても、自分の研究にやりたいことを引き寄せることで可能性は拓けるので、諦めずに頑張ってください」という力強いメッセージに、会場から大きな拍手が送られました。
専門分野をより深く、興味と経験・知識の交換会。
●第3部:講演者と参加者による懇談会
第1部・第2部の終了後、藤井教授、吉橋准教授と大学院生2名でそれぞれのコーナーに分かれ、参加者との懇談会が行われました。
藤井教授の懇談会に参加した方たちからは、研究内容に深く切り込んだ内容から、名大の学部に関することまで、さまざまな質問が寄せられました。
Q、2Dに比べて3Dは何倍ぐらいのデータでしょうか?また圧縮技術はどうなっているのでしょうか?
A、3Dのためにカメラを100個使えばデータは100倍です。実際は2Dの1000倍や10000倍も必要なことがありますが、データは圧縮することができます。将来、3Dをインターネットや放送で流すための規格を決めなければなりませんが、まさに来月に会議があり、次世代3Dの圧縮方式について全世界で検討されている真っ最中です。圧縮すると2Dの数倍~10倍くらいになりそうで、今、世界中の研究者が取り組んでいます。タイムリーな素晴らしい質問をありがとうございました。
Q、研究設備の良い大学はどこでしょうか?
A、設備の良さは、予算に左右されます。これまでは国が予算を等分していましたが、今は一部が公募制になり、研究内容をアピールして予算を獲得するようになっています。名大工学部工学研究科は、国や産業界に対して研究内容のアピール力が高く、予算を多く獲得できています。それは、良い研究をしている先生が多く集まっているからです。入試のランキングだけでなく、どんな研究者が活躍しているかを大学選びの参考にするのも良いでしょう。
Q、名古屋大学の情報学部と、工学部電気電子情報工学科の情報コースとの違いはなんでしょうか?
A、情報学部は、情報文化学部の改組のためやや文理融合的で、情報そのものに価値を見出す‘コンピューターサイエンス’の研究をしています。一方、工学部では情報そのものではなく、情報を使った何かをつくることや情報を伝達する方法など、‘ものづくり’の一環で研究しています。
吉橋准教授の懇談会に参加した方たちからは、女性の進学についての質問や、大学・学部に関することまで、さまざまな質問が寄せられました。
Q、他大学との連携や大学内での連携はありますか?
A、エネルギー工学科では岡山大学医学部と連携し、共同で研究を行っています。大学によって得意分野が違いますので、得意分野を活かして連携を行います。
また、名古屋大学の特長として、総合大学であり医学部以外は同じキャンパスで学ぶことができることが挙げられます。他学部とキャンパスが同じため、いろいろな学部・学科とのコミュニケーションが取りやすく、大学内での連携を行いやすい環境です。そして、愛知県はものづくりの風土があり、現在流行している研究内容ではなく、1つの研究をじっくりと研究できる環境も整っています。
Q、医工連携について教えてください。
A、工学部は装置を作り、医学部はその装置を使って研究をしたり治療をしたりします。医工連携では、医学部が行っている細胞の培養を工学部が見て、実際の研究方法を確認しながら装置の開発をすすめるなど、互いの研究について勉強をすることもあります。医学部のみでなく、保健学科とも連携することもあります。
また、吉崎准教授はエネルギーについて「放射線は物を壊さずして物を見る事ができるため、老朽化した建物などを確認する際に活用されること」や、「これからのエネルギー社会をつくる中で、新しいエネルギーをつくることも大事だが、溜めることも大事。そういった技術を研究によって開発し、更により良いエネルギー社会を構築させることが重要であること」を教えてくださったり、進路が決まっていない生徒に対して、「進路が決まっていなくても今の自分の好きな事を認めて、しっかりと歩んでいけばおのずと自分の将来に繋がるようになる」と、自分の実体験を交えながら、積極的にお話してくださいました。
大学院生の懇談会では、質問された方の志望や将来の夢などを聞きながら丁寧な質問対応が行われていました。
大学院生のお二人には、参加者から「工学部には女子が少ないですが、実際に入学するとどんな感じですか?」「どうやって今の専攻を決めましたか?」「研究にどれくらいの知識が必要ですか?」「プレゼンテーションや学会はどのくらいの頻度でありますか?」など多岐にわたる質問があり、予定時間を過ぎても参加者からの質問が尽きない中、お二人は一つ一つの質問に、親身に丁寧に答えてくださいました。
参加者の皆さんにとっては名古屋大学での生活を身近に感じることができた、大変有意義な時間となりました。