名古屋大学×河合塾 共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第19回 情報学部「情報と他分野との境界領域において」 イベントレポート | 体験授業・イベント
名古屋大学と河合塾のタッグで授業。
名古屋大学との共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第19回 情報学部を、2017年5月28日(日)河合塾千種校で開催しました。
河合塾と名古屋大学が共同で行う特別イベントとして、中学生、高校生、高卒生、保護者の方を対象に、今年度新設された名古屋大学情報学部の教授と大学院生をお招きし、講演会や懇談会を実施しました。約135人の生徒・保護者の方が、名古屋大学の最先端研究者の講演を聞き、大学での研究の奥深さや楽しさを体感できる絶好の機会となりました。
- 講演内容
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第1部:名大教授による最先端研究についての講演
第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
第3部:講演者や大学院生と参加者による懇談会
- 日時
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2017年5月28日(日)14:00~16:00
- 会場
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千種校
- 対象
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中学生・高校生・高卒生と保護者の方
さまざまな分野での情報学の可能性と、更なる発展について。
●第1部:「情報と他分野との境界領域において」
北 栄輔(きた えいすけ)教授 (情報学研究科)
第1部では、北栄輔教授がご専門とされる情報学の社会的ニーズについてお話いただきました。
はじめに、情報のキーワードとして、「ビッグデータ」、「人工知能(AI)」、「Internet of Things(IoT):ものともの、こととこと、を繋ぐことで新しい価値を生み出すこと」、「第4次産業革命:一人ひとりのニーズにあわせて必要な時に必要なものを必要なだけ提供するサービス」、「Society5.0」の説明をされました。情報は世界を革命的に変えつつあると考えられていること。それは、自然・人間・社会・人工物は「情報(データ)の流れ」として統合的に理解することができ、情報科学技術は、人類が直面する複雑かつ困難な課題に新たな解決方法を与える可能性を持つとともに、情報革命は既存の問題の解決手段に留まらず、新しい価値創造のための手段も与えてくれると期待されていると説明されました。
今後はIotやビッグデータ、人工知能、ロボット・センサーの技術的ブレークスルーを活用する「第4次産業革命」の時代と考えられていることを説明されました。「第4次産業革命」とは、少子高齢化などの社会的課題を解決し、消費者の潜在的ニーズを呼び起こす新たなビジネスを創出することです。工業・製造業のみならず、農業ビジネスにおいても高度にデータ化することにより、経費を削減し、収入の最大化に繋げることができます。
日本の農業ビジネスについても、現在の日本の食生活の変化や、農業物輸入額の推移、農業従業者数の推移、食糧自給率、食糧消費量、農業経営組織別農家数などから現状を述べ、農家が考える新しいビジネスについて紹介していただきました。
農業の「6次産業化」という言葉があります。「6次産業化」とは、農業を1次産業としてだけではなく、加工などの2次産業、さらにサービスや販売などの3次産業まで含め、1次から3次産業まで一体化した産業として農業の可能性を広げようとすることです。
また、農業のIT化も進んでおり、GPSガイダンス(例:自動運転トラクター)、センサ・ネットワーク/環境制御装置、農作業ロボット、直売所POSシステム、農業クラウドサービス(自宅にいながら農地環境などを見て農作物を管理する)などの技術により、農作物の生産・販売に必要な情報を収集し、利用することが進められています。そのため、2013年の推定市場規模66億円から、2020年予測は600億円が見込まれています。情報とは、さまざまな分野で活用されて、既存の社会システム、産業構造、就業構造を一変させる可能性があると期待されていることがよく分かりました。
続いて、今年度新設された情報学部、大学院情報学研究科の紹介もしてくださいました。
情報学部の定員は145名(3年次編入学定員10名含む)。学部の教育目標は、「情報科学技術に関する基礎知識・適用能力と自然や社会をシステムとして普遍的に理解する能力を涵養することにより、システム思考に基づいて人類の直面する課題を解決し、新しい価値を生み出せる人材を育成することをめざす」ことです。また、柔軟なカリキュラム編成により、文系、理系の境界を越えた立場から情報学を幅広く学びつつ、それぞれの専門分野において先端的な知識とスキルを身につけた人材を育成することをめざします。
情報学部は、自然情報学科、人間・社会情報学科、コンピュータ科学科の3学科構成で、特徴的で先端的な専門教育を深めます。また大学院の情報学研究科は6専攻で文理を越えて、新たな価値を生み出す最先端研究科です。そして、人類の直面する課題を解決し、新たな価値を創造する高度研究人材を養成することをめざします。
その他、学科横断の専門基礎教育、専門性と総合性を加味した専門科目、柔軟なカリキュラム編成、クォーター制の導入などの特色についてもご紹介いただきました。
内容が盛り沢山で、短いと感じられる講演時間ではありましたが、農業における情報学の役割と今年度新設された情報学部の紹介を含めた講演に参加者からは大きな拍手が送られました。
大学生活や研究内容を知り、将来の幅を広げる。
●第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
情報学研究科(高性能計算、機械学習) 山田 賢也(やまだ けんや)氏
情報学研究科(認知心理学)井関 紗代(いせき さよ)氏
第2部では、名古屋大学情報学研究科所属の2名の大学院生に、キャンパスライフや現在の研究内容をテーマにお話ししていただきました。
情報学研究科(高性能計算、機械学習) 山田 賢也 氏
修士課程1年の山田さんは、名古屋大学工学部電気電子・情報工学科を卒業し、現在は大学院情報学研究科に在籍されています。
まず、自己紹介として大学・大学院進学の経緯についてお話をしてくださいました。高校時代理系が得意であったことと地元が名古屋に近いことから名古屋大学受験を決め、電気・情報系は就職の需要が多いという理由で工学部情報工学科を志望されたそうです。
入学後、学部の講義でプログラミングへの関心が高まり、情報コースを選択されました。4年生になり研究をもっと続けたいという思いに加え、進学されるタイミングで情報学部の新設、情報学研究科の改変があることから大学院進学を決意されました。
続いて、学部・大学院での学生生活についての紹介がありました。学部1~3年生は講義を中心に生活を送り、課題はありますがアルバイトをするなど高校生と同じような生活を送られていました。学部4年生になると大きな変化があり、講義から研究中心の生活にシフトしていきました。特に卒論発表直前は1日16時間近く研究に打ち込まれていたというエピソードがありました。研究室では研究の進捗を報告するゼミや英語の本を他の学生と一緒に読む輪講、学会発表があります。研究以外にもゲーム大会やスポーツ大会など楽しいイベントも行われているそうです。
大学院に進学後の生活は講義と研究を並行して行うため学部の時より忙しいものの、やりがいを感じ生活を送っていると話されていました。
次に、ご自身の研究についてお話をしてくださいました。研究題目は「ディープラーニングを用いた数値計算ライブラリのオートチューニングに関する研究」です。研究内容を「ディープラーニング」「数値計算ライブラリ」「オートチューニング」のワードごとに説明してくださいました。
まず、ディープラーニングとは機械学習モデルの一種です。機械学習モデルは人工知能(AI)を作るための技術であり、ディープラーニングという言葉がアニメで登場することもあるくらい注目を集めています。その理由としては近年のコンピュータ性能向上とビッグデータの利用という2つの要因があると説明されていました。数値計算ライブラリとは高校生が学習する連立方程式や微分方程式をパソコン上で解くプログラムのことです。オートチューニングとは数値計算ライブラリの計算を速く行うため最適な実装をすることと説明してくださいました。
また、山田さんの研究室ではスーパーコンピューターを使用しており、演算性能は世界第35位、日本で4位、大学で設置されているものとしては2位の性能のものが使用できると紹介がありました。
ご自身の経験談や実際の生活に絡めて語っていただき、大学院生の生活や研究の世界がより理解できる講演でした。
情報学研究科(認知心理学) 井関 紗代 氏
皿に載ったケーキとフォークの写真が2枚並んでいます。1枚はフォークがケーキの右側に、もう一枚はケーキの左側に置かれています。さて「どちらが食べたくなりますか?」との問いかけから講演が始まりました。
有名な研究者の研究結果だそうですが、右利きの人は右にフォークが置いてある方を選ぶ傾向があるそうです。同じようにマグカップの持ち手が右についている写真と左についている写真を比べた場合も同様の結果だということです。
井関さんは、社会人として仕事をされていく中で、「商品が売れるメカニズム」に強い関心を持たれました。そして、このケーキの研究に出会い、心理学を勉強したいと思ったそうです。
井関さんは、現在、名古屋大学大学院情報学研究科の博士後期過程に在籍されています。高校時代は心理学や社会学に興味を持っていましたが、大学では経済学を専攻し、卒業後は企業に就職され、7年間社会人として働かれていました。そのときに「どういう時に物は売れるのか」などのデータ分析をする中で前述のケーキの研究に出会い、「大学院で心理学を学ぼう!」と決意されたそうです。
大学院進学前に通信制の大学で心理学の基礎知識を学び、その後、認知心理学を研究するため、名古屋大学大学院に進学されました。
大学院では、認知心理学の研究をされていて、たとえば、物を買う時の心理—商品を手に取るだけで購買意欲が高まるが、それは触るだけでその物に対する所有感が高まるからだ—という話や、柔軟剤を使って洗濯すると、洗濯物が柔らかく、触り心地が良くなったように感じるが、それは柔軟剤に使われているフロ-ラルのような女性的な匂いの影響が大きい、というような触覚と嗅覚の相互作用の話など、実生活と結びつけてわかりやすく研究内容を話してくださいました。
最後に、参加者へのメッセージとして「大学で何を学ぶ?いつ決める?」との問いに「決まっていなくてもOK。いくらでも途中で方向転換できる。固く考えずに、自分の興味があることってなんだろう?と考えてみてください。名古屋大学の情報学部はとてもフレキシブルな学部なので興味を持たれた方はぜひ入試科目を調べてみてください」と締めくくられ、会場から大きな拍手が送られました。
専門分野をより深く、興味と経験・知識の交換会。
●第3部:講演者と参加者による懇談会
第1部、第2部の終了後、北教授と大学院生2名はそれぞれのコーナーに分かれ、参加者との懇談会が行われました。
北教授の周りに集まった参加者に、「質問がある方」と声をかけると、次々と手が挙げられました。
Q、学科(もしくは学科内のコース)はどういった違いがありますか?
A、文系・理系のどちらの比重が大きいかの違いです。比重の違いを説明するためにテクノロジーで例えると、大枠を考えるのは文系の領域であり、詳細な研究は理系分野ということです。
Q、情報学部コンピュータ科学科と工学部電気電子情報工学科では学べる内容は違いますか?
A、工学部は「モノをつくる」ことを考えるハードウェアの側面から研究する一方で、情報学部はソフトウェアの開発を通して「価値をつくる」という違いがあります。どちらの学部で学ぶかはご自身が大学で何を学びたいかで決めていただけるとよいと思います。
Q、クォーター制は留学にどう活用できるか?
A、2・3年次に活用できます。1年の授業を4分割することで、夏休みを含め4~5カ月留学に行くことが可能になります。各学年での留年規定はないため2年次に留学に行き、3年次に留学期間に履修できなかった授業を受けることで4年間で卒業できるカリキュラム設定になっています。また、卒業するために必要な単位も工学部と比べると少なく各自が考え好きな分野を学べるような時間があります。
Q、文理をまたいで研究をすることはできるのか?
A、今回お話した農業の研究も含め、情報学部での研究はほとんど文理をまたいで行われているものです。学部の改組にあたり、カリキュラムを作成する際に皆さんが多くの分野を学べるよう配慮して作成してあります。情報学部で足りない分野があるとすれば金融工学くらいでしょうか。
その他、質問された方の志望や将来の夢などを聞きながらの丁寧な質問対応が行われていました。
大学院生のお二人には、参加者から「他学部との交流はありますか?」「留学をしている人はいますか?」「文学部や教育学部で学ぶ心理学と情報学部で学ぶ心理学との違いは?」「就職状況は?大学院で学んだことが生かせる?」「プログラミングに興味があるが、入学までに必要なスキルは?」「高1ですが、今やっておくべきことは?」「その研究テーマにした決め手は?」「(新しく情報学部で導入された)クォーター制について詳しく聞きたい」など多岐にわたる質問があり、その一つひとつにご自身の体験や考え、また周りの方のお話なども交え、わかりやすく丁寧にお答えいただきました。
参加者と一体となった親しみやすい雰囲気の中で参加者の名古屋大学への関心は一層高まり、大変有意義な時間となりました。