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名古屋大学×河合塾 共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第18回 文学部「ヘレニズム文明を発掘する」 イベントレポート | 体験授業・イベント

名古屋大学と河合塾のタッグで授業。

会場の様子

名古屋大学との共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第18回 文学部を、2016年10月30日河合塾名古屋校で開催しました。
河合塾と名古屋大学が共同で行う特別イベントとして、中学生・高校生・高卒生・保護者の方を対象に、名古屋大学文学部の教授と大学院生をお招きし、講演会や懇談会を実施しました。約40人の生徒・保護者の方が、名古屋大学の先端研究者の講演を聞き、大学での研究の奥深さや楽しさを体感できる絶好の機会となりました。

冒頭、名古屋大学の佐久間 淳一(さくま じゅんいち)大学院文学研究科長・文学部長からごあいさつと、2017年4月から大学院にて設置される、文学研究科、国際言語文化研究科、国際開発研究科国際コミュニケーション専攻を統合した「人文学研究科」の紹介もありました。

講演内容

第1部:名大教授による最先端研究についての講演
第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
第3部:講演者や大学院生と参加者による懇談会

日時

2016年10月30日(日)14:00~16:00

会場

名古屋校

対象

中学生・高校生・高卒生と保護者の方

どうしてそれが発掘されたのか、経緯を学ぶ文学。

周藤 芳幸(すとう よしゆき)教授(文学研究科)

●第1部:「ヘレニズム文明を発掘する」
 周藤 芳幸(すとう よしゆき)教授 (文学研究科)

第1部ではギリシャ考古学と東地中海文化交流史をご専門とされる周藤教授より、名古屋大学文学部の紹介と、ヘレニズム文明についてご講演をしていただきました。

名古屋大学は中部圏唯一の総合研究大学です。大学というところは研究大学とそれ以外の大学に分かれています。研究大学とはフンボルト理念であり、研究と教育を一体のものとして考え、できあがったことを教えるのではなく、第一線の研究をしながら研究成果に基づいて教育を行います。大学での研究は、中学や高校までの勉強と違います。高校までの勉強はあくまで教科書に書かれているできあがった知識を修得するものでした。大学の勉強とは、研究過程において知識を生み出しながらそれを伝えることです。名古屋大学では、そのような独創的な研究を求めています。また、文学部では文学のみでなく、人間性や人類の文明の多様な表現形成なども学びます。文学部=「文」学部≠「文学」部で、文学部は「人間性について研究する場」なのです。

次に、講演として、世界史の中のヘレニズム時代についてお話しいただきました。
ヘレニズム時代とは、紀元前4世紀の終わり~紀元前1世紀の終わりのおよそ300年間を指します。始まりは、都市国家全盛の時代でアレクサンドロス大王の東征、終わりはローマ帝国の地中海制覇となり、その間にかなりの歴史変動が起こっています。ヘレニズム時代は、世界最古のグローバル化時代であり、当時の文化圏の垣を越えた活発な人々の移動とともに、共通語としてのギリシャ語が普及しました。現在の世界のグローバル化を象徴する英語のように、ヘレニズム時代にはギリシャ語が普及していたのです。
周藤教授は、中エジプトの地方都市アコリスの発掘をしていた際、都市域北端部の石材加工場の焼土中からギリシャに関連する、地中海系アンフォラ=ロドス産アンフォラ(ワインなどを入れる底が円錐形になっている素焼きの壺)を発見しました。一部のアンフォラの上部にスタンプがあり、そこから年代分布がわかり、さらに、舟で穀物とワイン交易を通じたエジプトと地中海世界との交渉、また石灰岩の搬出を通じたアコリスと首都アレクサンドリアとの交渉などが判明しました。
また、アコリスより南へ10km以上のところにある中エジプトのニュー・メニア採石場では、壁面にプトレマイオス朝時代のグラフィティが残されていました。ギリシャ語とデモティック(エジプト語)で書かれたこのグラフィティ(1行目に治世年と月日、2行目に人名、3行目に三つ組みの数字、横×縦×幅の単位を示すもの)から、採石場の運用スケジュールやどんな風に仕事をしていたのかを読み取ることができました。採石場で働いていた古代人は奴隷や捕虜ではなく、ちゃんと給料を貰っており、グラフィティは労働の証拠として残していた作業メモなのではないかと考えられます。周藤教授は、ギリシャ人だけでなくユダヤ人が残した筆跡に出会ったりすると感動を覚えるという発掘の醍醐味も語ってくださいました。
ヘレニズム時代はグローバル化の時代で、発掘調査によってエジプトの内陸部までの広い範囲でギリシャ文化に結びついていたことがわかりました。ヘレニズム文明は、現代のグローバル化を考えるうえで大変参考になる事例であり、地図やスライドを使いながらわかりやすくお話ししていただきました。

最後に、文学部での学びについて周藤教授は「大切なことは、意味があるのかどうか。いろいろな研究を通して人々に生きた意味を見出していくことも大切な営みです。理系の研究と同じく、研究を通して発見があり、そして感動もあります。ぜひ文学部をめざしたい、歴史を勉強したい人は胸を張って挑戦してください」と締めくくられ、参加者からは大きな拍手が送られました。

大学生活や研究内容を知り、将来の幅を広げる。

●第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
 国際言語文化研究科 国際多元文化専攻メディアプロフェッショナルコース 長谷 亜生基(はせ あいき)氏
 文学研究科 西洋史学専攻 伊藤 嘉純(いとう かすみ)氏

第2部では、名古屋大学国際言語文化研究科と文学研究科所属の2名の大学院生に、キャンパスライフや現在の研究内容をテーマにお話ししていただきました。

国際言語文化研究科 国際多元文化専攻メディアプロフェッショナルコース 長谷 亜生基 氏

国際言語文化研究科 国際多元文化専攻メディアプロフェッショナルコース 長谷 亜生基(はせ あいき)氏

長谷さんは名古屋大学法学部を卒業後、名古屋大学大学院の国際言語文化研究科に進学されました。もともと法律に興味のあった長谷さんは、大学では法律の勉強をしたいと思い、法学部へ進学されたそうです。そして、学部の授業を受けるうちに法律と社会の関係に興味を持ち、さらに勉強を進めるなかで、SNSには法規制があるのか、その法規制が与える影響は何なのかを大学院でも研究したいと思い、大学院進学を決意されました。そのまま法学研究科に進学して研究を進めるという方法もあったのですが、長谷さんは法律の視点からではなく、インターネットメディアについて学ぶなかで、別の視点から研究していくことに関心を持ち、現在所属している国際言語文化研究科を選ばれました。
大学院では、「アーキテクチャを基調としたTwitterにおけるマスメディアの批判分析について」を研究されており、主な活動として、Twitterの検索欄にキーワードを入れ、人々がどのようなマスメディア批判をしているかを探っていることをお話ししてくださりました。ここでは、参加者の皆さんにもわかるよう、具体的な例をいくつかあげて丁寧に説明してくださいました。
最後に、大学生活についてご自身の経験を踏まえて、「大学生活は非常に自由な時間が多いので、勉強・アルバイト・趣味など、時間を何に費やすかはすべて自分で決めることができます。大学ではぜひ自分の興味のあることを探してください。進路選択の際にも、自分の興味のあることは必ず役立ちます」とお話ししてくださいました。そして、学生の皆さんには「名古屋大学に合格することを目標とするのではなく、名古屋大学の学生として、こういうことを学んでみたいということまでを考えて受験に臨んでみてください」とメッセージを送られ、締めくくられました。

文学研究科 西洋史学専攻 伊藤 嘉純 氏

文学研究科 西洋史学専攻 伊藤 嘉純 氏(いとう かすみ)氏

現在、博士課程の後期課程1年の伊藤さんは、古代ローマ史を専門に研究をされています。伊藤さんは、名古屋大学で歴史を学ぼうと決めた理由として、高校生の頃から世界史が好きで、歴史の勉強ができる学部に進学しようと思ったこと、高2生のときに参加したオープンキャンパスの影響を受けて名古屋大学文学部を選んだことをお話ししてくださいました。
大学入学直後は考古学専攻を志望していた伊藤さんですが、学部の授業で周藤教授の基礎セミナーを受けた影響と、世界史を幅広く学べる西洋史に魅力を感じて、西洋史学の専攻を決められました。また大学院進学に関しては、大学3年生のときにギリシャに行ったことがきっかけとなりました。ギリシャでは、教科書には載っていない現代ギリシャの文化に触れ、過去と現在のつながりを感じられるような新鮮な経験をすることができたそうです。その経験から、最盛期のその先の姿に関心が向くようになり、ローマ帝政期のギリシャをもっと研究したいと思い、大学院進学を決意されたそうです。
次に研究テーマである、ローマ帝政期のギリシャについて説明されました。伊藤さんは、都市や人々の活動に焦点をあて、支配下に置かれたギリシャ都市がどう生き抜こうとしているのかを研究されており、ローマがギリシャに建設した植民地の発展から、ローマとギリシャの関係を見つめ直すことに取り組んでいます。
研究生活は、史料探し・考察・論文作成・研究発表・ゼミによって研究活動を行います。研究を行ううえでは、自分を律し、モチベーションを保って研究することが必要とされます。
最後に、伊藤さんから学生の皆さんへ、「高校生のときには、自分のやりたいこと・興味のあることを考えて学部学科を決めてください。そして大学進学後は、積極的に外に出てみてください。たくさんある時間のなかで、さまざまな人や考えに刺激を受けて、いろんなものに触れてみてください」とメッセージを送られ、参加者の皆さんからは大きな拍手が送られました。

どの分野の講演も専門的で興味深く、貴重な経験談を実際の生活に絡めて語っていただいたため、文学部の世界がより理解できる講演でした。

専門分野をより深く、興味と経験・知識の交換会。

●第3部:講演者や大学院生と参加者による懇談会

第1部、第2部の終了後、周藤教授と大学院生2名はそれぞれのコーナーに分かれ、参加者との懇談会が行われました。

須藤教授の周りに集まった参加者に、「質問がある方」と声をかけると、次々と手が挙げられました。

Q、現在のパルテノン神殿と昔のパルテノン神殿は違いがあったのですか?

A、昔のパルテノン神殿は現在と違って、色が着いていました。また、もともとギリシャは木造建築だったので、装飾もたくさん付いていました。現在の大理石でつくられたものは、近代の人の理想としてつくられたものです。

Q、外部との交流はありますか?

A、大学教授としては、高校講演での高校生との交流、中学生への職業紹介などがあります。また、博物館の展示の手伝いなども行うことがあります。また、休日は自分の研究をしていることもありますが、時間の自由があるので、地域活動などには積極的に参加するなどして、個人としても幅広く社会と交流はできます。

Q、調査で大変だったことはありますか?

A、初めてエジプトに行ったときです。そのときは初めての海外、初めての共同生活ということで、異文化のなかで他の人とずっと一緒に生活するのが苦しかったです。ですが、そこからいろいろなものを得ることができたので、ぜひ皆さんも留学などで海外に行ってみてください。

Q、「文学」を学んで役に立つことは何ですか?

A、文学部を出たから就職はどうするか、などは考えずに、自身が将来はどうなっていたいかをまず考えてみてください。文学部は「文」学を学ぶところであり、一般性や物事の本質を学ぶことができます。何事にも本質は必要になりますので、何をどう学ぶかが大切になってくることを覚えておいてください。

参加者の皆さんは自身の素直な疑問をぶつけ、周藤教授もしっかりと質問内容を受け止めておられ、参加者にとって意味のある交流会になりました。

講演者と参加者による懇談会

大学院生のお二人には、参加者から「大学生活でやっておけば良かったと思うことは」「世界史の教科書で学んだことと実際現地へ行ったことの違いは」「二次試験対策で点数を取るには」「ギリシャの研究に必要な語学はどうやって身につけたのか」「予定の立て方を教えてほしい」「自分の今の専攻と全然違うなと印象に残っている学部の授業は」など多岐にわたる質問があり、お二人は自らの実体験をもとに真摯に分かりやすく答えてくださりました。
参加者の皆さんにとっては名古屋大学での生活を身近に感じることができた大変有意義な時間となりました。

参加者の感想(一部抜粋)