名古屋大学×河合塾 共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第17回 医学部 「iPS細胞やプラズマなど医療の進歩が期待される眼科」 イベントレポート | 体験授業・イベント
名古屋大学と河合塾のタッグで授業。
名古屋大学との共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第17回 医学部を、2016年9月11日(日)河合塾名古屋校で開催しました。
河合塾と名古屋大学が共同で行う特別イベントとして、高校生・高卒生・保護者の方を対象に、名古屋大学医学部の教授と大学院生をお招きし、講演会や懇談会を実施しました。約100人の生徒・保護者の方が、名古屋大学の最先端研究者の講演を聞き、大学での研究の奥深さや楽しさを体感できる絶好の機会となりました。
- 講演内容
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第1部:名大教授による最先端研究についての講演
第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
第3部:講演者や大学院生と参加者による懇談会
- 日時
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2016年9月11日(日)14:00~16:00
- 会場
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名古屋校
- 対象
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中学生・高校生・高卒生と保護者の方
画期的な治療法と女性進出に期待が高まる。
●第1部:「iPS細胞やプラズマなど医療の進歩が期待される眼科」
寺﨑 浩子(てらさき ひろこ)教授 (医学系研究科)
第1部では、寺﨑教授に、ご自身の研究である眼についてお話ししていただきました。
眼の主な病気は、世界の失明原因の50%にあたる白内障や緑内障、糖尿病網膜症、網膜色素変性症、加齢黄斑変性などが挙げられます。
寺﨑教授が研究を行っている加齢黄斑変性は、黄斑部分に血管ができ、この血管によって視界が遮られる病気です。現在まで、いろいろな方法が考えられ手術が行われてきましたが、医療の進歩により、血管を取り除いた部分にiPS細胞を移植する最先端の医療技術を駆使して、視力を回復させる手術が試みられるようになりました。また、不必要な血管が生成されるのを抑える薬も発明されました。
この薬はもともと、がんの薬として開発されました。この薬の発明者であるフォルクマンは「悪性腫瘍の発育は血管新生に依存し、血管を制御することにより腫瘍を治療できる」という考え述べたわけですが、薬が完成されたのは、それから30年以上もたってからとなりました。目の治療薬は眼球に毎月注射をしなくてはならないことや、薬が高価なことなどまだまだ問題点があります。
そこで寺﨑教授は、がんの治療にも効果があるというプラズマに注目し、プラズマの溶液を注射する動物実験を行ってその有効性を明らかにしました。
医療は、研究の成果と併せて、医療で使用する機器の進化によって進歩しています。光干渉断層計(OCT)が開発されたことで人が生きたままの状態で目の組織を見ることができるようになり、治療前、治療後の組織を確認でき、治療の成果も確認することが可能になりました。また、補償光学の技術で、揺らいで見えるものをしっかりと見えるよう補正ができるようになりました。こうした、眼の中を見る検査機器の向上により、視細胞を見ることも可能になり、眼科医療の進歩につながっています。
次に、名古屋大学の医学部について説明していただきました。
名古屋大学医学部は、140年の歴史があります。医系研究や基礎研究を行う施設やサテライトラボでは、最先端の機器を利用した研究が可能であり、外来棟では臨床の経験を積むことができます。また、国際交流が進んでいるのが特長で、海外の有名な大学で6年次の実習を行う学生も10名から14名程度います。
また、名古屋大学は女性参画を推進している大学でもあります。残念ながら現在は、医師の女性比率は20%ほど、教授の女性比率は1%ほどです。女性が活躍できるように、学内に保育園や学童保育所などを設置し、女性が活躍できる環境作りを進めています。
寺﨑教授は、卒業後、外科医をめざして眼科手術の勉強及び臨床で研鑽を積みながら研究をされています。ご自身の体験を踏まえ、実際に手術が行われている画像を見ながらお話ししてくださり、参加者にとってより具体的に理解ができる講演となりました。
大学生活や研究内容を知り、将来の幅を広げる。
●第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
医学系研究科 名古屋大学・アデレード大学 国際連携総合医学専攻 小林 大貴(こばやし ひろき)氏
医学系研究科 医科学専攻 遠山 美穂(とおやま みほ)氏
第2部では、名古屋大学医学系研究科所属の2名の大学院生に、キャンパスライフや現在の研究内容をテーマにお話ししていただきました。
医学系研究科 名古屋大学・アデレード大学 国際連携総合医学専攻 小林 大貴 氏
博士課程2年の小林さんは、静岡県出身で浜松医科大学医学部医学科を卒業後、名古屋大学大学院に進学されました。大学院入学後は基礎研究をされており、日本初となる海外の大学との共同学位(ジョイント・ディグリー)を授与される大学院プログラムの第1期生として、来年から2年間オーストラリアのアデレード大学へ留学を控えています。
小林さんは、中学生のときから生物に興味があり、脳科学の本を何冊か読んでいるうち、徐々に神経科学の医学研究をしてみたいと思い、大学では医学部に進学しました。大学入学後は病理学の授業でがんに興味をもち、病理学の先生に名古屋大学の分子病理学教室を紹介してもらい、現在はがんの間質について研究をされています。研究内容が具体的にイメージできるように図を用いて説明していただき、将来的に研究をがんの治療に結び付けたいという想いをお話ししてくださいました。
また、医学部に入学してから卒業するまでの流れ、医学部卒業後は大学院進学、病院勤務、研究、行政などさまざまな進路があることを丁寧に説明してくださいました。
大学院生活については、大部分は研究室で過ごしていること、アジアの留学生が多いので英語ができたほうが良いなどのアドバイスや、医師免許を持っていることで臨床の勤務ができるため経済的に安定し、研究に集中できていることなど、詳しくお話ししてくださいました。
最後に、医学部出身者でも基礎研究するメリットはたくさんあり、実際に医療現場を知っているからこそ研究の必要性や意義を感じながら研究できること、人に関する総括的な知識を持って分子レベルでの研究ができる強みがあることをお話していただき、充実した研究生活を送っている様子がうかがえました。
医学系研究科 医科学専攻 遠山 美穂 氏
遠山さんは、お茶の水女子大学で生物学を学び、現在は名古屋大学の大学院で精神医学の研究をされています。生物学から精神医学へと転向したきっかけは、大学2年生のときにレポート課題で調べ物をしていると「統合失調症(精神疾患のひとつ)には遺伝が関係している」という情報を見つけたことでした。心や脳の病気を生物学的な観点から解決できるのではないかと考えて、大学院では精神医学を研究しようと決意されました。
名古屋大学で精神医学を学ぼうと決めた理由として、「ゲノム研究が盛んであること」、「異なるバックグラウンドの人がいる自由な雰囲気」、「修士課程からすぐに精神医学の研究を始められる」、「信頼できる先生がいる」の4点が決め手となりました。
次に研究テーマである、統合失調症について説明されました。統合失調症は、主に幻聴・妄想などの症状が出る精神疾患ですが、発症する仕組みなどはまだ明らかになっていないことがたくさんある病気です。遠山さんは統合失調症を多く発症している家族のDNAから「一塩基変異」といわれるDNAの一文字の違いを調べ、遺伝子と統合失調症との関係性を研究されています。
日々の研究は膨大なデータから「一塩基変異」を調べるデータ分析が主で、ほとんどパソコンに向かっているそうです。また、研究以外で行っている活動として、違う学部の大学院生と一緒に英語を使ってグループワークする「リーディング大学院」と学生団体活動「女子学生のためのものづくりチームSPICA(スピカ)」の話を紹介してくださいました。
忙しくも充実した毎日を過ごされている様子が伝わってきました。
まとめとして、「大学院への道は色々ある」「研究生活は自分との戦い」「大学院は自分の可能性を広げることができる場所」と締めくくられ、参加者から大きな拍手が送られました。
どの分野の講演も専門的で興味深く、貴重な経験談を実際の生活に絡めて語っていただき、医学部の世界がより理解できる講演でした。
専門分野をより深く、興味と経験・知識の交換会。
●第3部:講演者や大学院生と参加者による懇談会
第1部、第2部の終了後、寺﨑教授と大学院生2名はそれぞれのコーナーに分かれ、参加者との懇談会が行われました。
寺﨑教授の周りに集まった参加者に、「質問がある方」と声をかけると、次々と手が挙げられました。
Q、留学は何人くらい行けますか?また行くための選考基準は?
A、何人でも、行きたい人は行けます。眼科30人のうち1年に2~4人程度行っています。行けないということはありません。選考基準は英語です。日常会話や自分の研究について説明ができるくらいのスキルは必要です。
Q、研究をしたい場合、医学部と理学部どちらが良いでしょうか?
A、医学部でも研究したいという意志があれば理学部と同様に研究はできます。医学部のメリットとしては、患者さんがいるので、実際の病気を知ったうえでこの病気を治したいという意志を持って研究できることです。病気を治すための研究をしたいなら医学部が近いと思います。
Q、女性医師でいらっしゃいますが、女性ならではの大変さはありましたか?
A、私が子育てをしていた頃は、携帯電話などの連絡手段もないし、女性が仕事をしながら子育てすることにも理解がない時代だったので、仕事と子育てとの両立は大変なこともたくさんありました。でも、今はサポートが充実しているので大丈夫だと思います。頑張ってください。
Q、教授になられるまでの経緯を聞かせてください。
A、子育てしながら研究を続けることが珍しい時代でしたので、目の前の病気に対して「どうすれば治るのだろう」「治したい」という気持ちだけで一生懸命やってきました。そうして一生懸命やっているうちにあるとき気がついたら助教授、そして教授になっていたという感覚です。
現在、女性医師は20%程度の割合で、研究をする女性の比率はその割合よりもっと少ない状況です。恵まれた環境があるので、頑張ってもらいたいです。
女性の参加者がとても多く、皆さん積極的に質問されていました。
大学院生のお二人には、参加者から「他学部出身者と医学部出身者の大学院でのメリット・デメリットはなんですか」「研究テーマはどのように決めましたか、きっかけは」「留学生の人とのコミュニケーション(英語スキル)で不自由なことはありますか」「大学院での勉強方法は」「奨学金について教えてほしい」「大学で部活をやっている人の割合は」「分子病理と腫瘍病理の違いは」など多岐にわたる質問があり、その一つひとつに実体験を交え、専門的な内容もわかりやすくお答えいただきました。
参加者と一体となった親しみやすい雰囲気の中で参加者の名古屋大学医学部への関心は一層高まり、大変有意義な時間となりました。