名古屋大学×河合塾 共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第16回 農学部「活躍する昆虫ウイルス」 イベントレポート | 体験授業・イベント
名古屋大学と河合塾のタッグで授業。
名古屋大学との共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第16回 農学部を、2016年8月28日河合塾千種校で開催しました。
河合塾と名古屋大学が共同で行う特別イベントとして、高校生・高卒生・保護者の方を対象に、名古屋大学農学部の教授と大学院生をお招きし、講演会や懇談会を実施しました。約100人の生徒・保護者の方が、名古屋大学の先端研究者の講演を通じ、大学での研究の奥深さや楽しさを体感できる絶好の機会となりました。
- 講演内容
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第1部:名大教授による最先端研究についての講演
第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
第3部:講演者と参加者による懇談会
- 日時
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2016年8月28日(日)14:00~16:00
- 会場
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千種校
- 対象
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中学生・高校生・高卒生と保護者の方
昆虫ウイルスの新たな利用法開発
●第1部:「活躍する昆虫ウイルス」
池田 素子(いけだ もとこ)教授(生命農学研究科)
第1部では池田教授に農学部の研究についてお話をしていただきました。
冒頭では池田教授に、名古屋大学農学部についてご紹介していただきました。
名古屋大学農学部の使命とは「私たちが生きる21世紀の食・環境・健康に関するさまざまな課題の解決を通して人類の生活の向上と充実を図ることである」とお話をされました。また、農学部のカリキュラムや、4年次の研究室配属や卒論、そして卒業後、修了後の進路についても詳しくお話をしてくださいました。
次に、今回の講演のメインテーマである「昆虫ウイルス」についてお話いただきました。
池田教授の所属している資源昆虫学研究室では、昆虫の生命機能をさぐり、生物資源としての昆虫の活躍をめざしています。池田教授は、特に昆虫に特異的なウイルスの構造や増殖の仕組みを、分子や細胞レベルで研究することで、昆虫機能の新たな利用法を開発されています。
ウイルスは、まず植物に感染するものが1898年に発見され、次いで動物、ヒト、昆虫に感染するウイルスが立て続けに発見、報告されたという研究の歴史があります。またウイルスは、「最小の病原微生物である」、「生きた細胞の中でしか増殖できない」、「ゲノムとしてDNAまたはRNAを持ち、その周りをタンパク質の外殻が囲んでおり、エンベロープを持つものもある」、「あらゆる生物に寄生しているが、ウイルスの感染宿主域はかなり限定されている」、「増殖は分裂によらない」という5つの特性(定義)があります。
なかでも、バキュロウイルスは昆虫に特異的に感染するウイルスで、ヒトに感染することはないので、取り扱いやすい材料です。途中、ウイルスに感染した細胞が破裂していく様子を写した映像をスクリーンに投影してくださり、参加者は興味深く池田教授のお話を聞いていました。
バキュロウイルスの1つ目の利用方法として、農薬としての活躍です。まずバキュロウイルスがチョウ目昆虫に感染し、増殖していくサイクルを簡単に示したイラストを使って説明してくださり、それがチョウ目昆虫を特異的に殺すことができる農薬になる、ということをご紹介いただきました。バキュロウイルスは宿主域が非常に狭く、私たちヒトや植物、動物にとっても安全であるために広く活躍しているそうです。しかし、バキュロウイルスは長所ばかりではなく短所もあり、殺虫に要する時間が長く、即効性に欠け、また、宿主域が非常に狭いために、効果のある昆虫が限られます。
2つ目の利用方法として、タンパク質発現ベクターとしての利用です。ゲノムの遺伝子組換えによって、組換えたバキュロウイルスを細胞に感染させた場合に、目的としているタンパク質を大量に合成することができるのです。
そして3つ目に、遺伝子の宅急便としての利用です。バキュロウイルスのゲノムの中に外来遺伝子を挿入して感染させると、その遺伝子を狙った細胞の中に運んでくれる、という利用方法が現在大阪大学で研究されているそうです。
池田教授の研究室では、バキュロウイルスの宿主特異性はどのように決まっているのか、ということを研究しています。ウイルスを異なる宿主に感染させ、感染がどのように進むのか、どのように止まるのか、ということを詳細に検討した結果、①増殖感染、②不完全増殖感染、③不全感染、④非感染の4つの感染形態があり、それに対する細胞応答について研究を行っているそうです。
最後に、「新規の昆虫機能の開発、昆虫ウイルスの新たな利用法開発をめざして研究を進めています」と今後の展望をお話しされた池田教授に、参加者からは大きな拍手が送られました。
大学生活や研究内容を知り、将来の幅を広げる。
●第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
生命技術科学専攻 末富 祐太 (すえとみ ゆうた)氏
基盤創薬学専攻 渋田 真結(しぶた まゆ)氏
第2部では、名古屋大学農学部に関連する研究科所属の2名の大学院生に、キャンパスライフや現在の研究内容をテーマにお話ししていただきました。
生命農学研究科 生命技術科学専攻 末富 祐太 氏
末富さんは、名古屋大学農学部資源生物科学科から大学院生命農学研究科に進まれました。自己紹介の中で河合塾の塾生であったこと、元々医学部志望だったが、動物が好きだったことや理科選択科目として生物を選択していたことなどから農学部への進学を決めたことをお話しされました。また、現在の日本の食料自給率の低さや海外の学生の農学への意識の高さにショックを受け、「食料生産(増産)を進めたい!」と強く思うようになり、大学院への進学を決められたそうです。ご自身の現在に至るエピソードはとても参考になり、高校生にとって今後の学部選択や大学院までの進路のイメージが湧くものでした。
大学ではヤギやウシを対象とした家畜繁殖学を中心に学び、実際に家畜の世話や野菜・果物の栽培を行う農場実習を経験され、現在は「メスウシの性周期制御」について研究されています。メスウシへの人工授精の難しさや受胎率低下の問題点を踏まえて、キスペプチンによる生殖制御メカニズムの研究を進めていることを写真や図を使いながらわかりやすくお話しくださいました。
また、国内外での学会発表や、ラボの仲間との生活の様子もご紹介くださり、末富さんの楽しい研究生活や研究に対しての想いが参加者の皆さんにも伝わり、大きな拍手が送られました。
創薬科学研究科 基盤創薬学専攻 渋田 真結 氏
博士課程1年生の渋田さんは、大学院入試の体験談や学生生活、ご自身の「分子生物学」についてご説明くださいました。
渋田さんが在籍されている名古屋大学創薬学研究所は学部を持たない大学院です。基盤創薬学専攻の学生の出身学部はさまざまで、文系学部出身の方もいるとのことです。渋田さんは理学部に入学しましたが、4年次に進路に悩み、「不可能を可能にする仕事」をしたいと考えるようになり大学院進学を決められました。そして、サイエンスを実用化し社会に生かす研究に惹かれ、現在の研究室を選ばれました。
創薬の研究は、生物の視点から考えるとどうして病気になるか、物理の視点からは遺伝子の構造はどうなっているかなど、理学部・農学部・工学部など各々の専門分野の知識を用いて行われています。渋田さんは「がん細胞の評価技術の開発」に携わっており、がん細胞の分類を行うための分類技術・細胞を回収する技術の研究を行い、装置を企業と共同開発されました。写真で装置の説明を熱心にされている姿から充実した研究生活を送られている様子がうかがえました。開発した装置を実際の医療現場で活用してもらうため、プログラムの改善、全体を通しての効率化、科学的検証を行っていくことが今後の課題だそうです。
研究生活のほかにも研究室の仲間と活動しているフットサルチームでの活動についての話もありました。渋田さんの充実した研究や大学生活が参加者に伝わり、大学生になってからの生活がより具体的にイメージできた参加者から大きな拍手が送られました。
どの分野の講演も専門的で興味深く、貴重な経験談を実際の生活に絡めて語っていただいたため、農学部の世界がより理解できる講演でした。
専門分野をより深く、興味と経験・知識の交換会。
●第3部:講演者と参加者による懇談会
第1部、第2部の終了後、池田教授と大学院生2名はそれぞれのコーナーに分かれ、参加者との懇談会が行われました。
池田教授の周りに集まった参加者に、「質問がある方」と声をかけると、次々と手が挙げられました。直接講演の内容についての質問もあり、教授も参加者の意識の高さに驚いておられました。
「治らないと言われているヒト免疫不全ウイルス(HIV)の感染は防ぐことができますか?」
ヒトのゲノムの中にウイルスのゲノムが入り込むのは防げません。現在は薬でウイルスの増殖を抑えるのが主流です。しかし、ウイルスはそもそも増殖することが目的なので、変異が起こり、ヒトを死に至らせることはなくなるかもしれません。
「鳥インフルエンザウイルスが人にも感染するのはなぜですか?」
感染対象となる宿主が異なるため、一般的には鳥インフルエンザウイルスがヒトに直接感染する能力は低く、また感染してもヒトからヒトへの伝染は起こりにくいと考えられていますが、大量のウイルスとの接触や、宿主の体質などによってヒトに感染する可能性もあるためです。
「農学部に進学する際にやっておくべきことは何ですか?」
できれば、頭のやわらかいうちに英語、英会話力を身につけてほしいです。二年次に英語の論文の読み方・書き方の授業はありますが、英会話の授業はありません。三年次に海外実地研修があるので、少しでも英会話に慣れておくと役立つと思います。
「理科科目選択で物理を選択しているので、農学部へ進学することが不安です」
物理を選択していても、一年次に生物学の授業があるので、心配する必要はないと思います。四年次に自分の興味のある研究を選択できれば良いので、安心してください。
大学院生のお二人には、参加者から「就職について」「どの学部から進学する人が多いですか」「理学部と農学部の生命科学の違いは何ですか」「理科の選択が物理選択だが、大学に入ってから生物の勉強は大変ですか」「取り組んでいる研究はどれくらいの期間で達成できるのか」など多岐にわたる質問があり、その一つひとつに具体的なエピソードも交え、専門的な内容もわかりやすくお答えいただきました。
参加者と一体となった親しみやすい雰囲気の中で参加者の名古屋大学への関心は一層高まり、大変有意義な時間となりました。