名古屋大学×河合塾 共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第15回 工学部「再生医療を加速する工学:人工たんぱく質をつくる」 イベントレポート | 体験授業・イベント
名古屋大学と河合塾のタッグで授業。
名古屋大学との共催イベント「名大研究室の扉in河合塾」第15回 工学部を、2016年7月3日河合塾千種校で開催しました。
河合塾と名古屋大学が共同で行う特別イベントとして、中学生・高校生・高卒生・保護者の方を対象に、名古屋大学工学部工学研究科の准教授と大学院生をお招きし、講演会や懇談会を実施しました。約190人の生徒・保護者の方が、名古屋大学の先端研究者の講演を聞き、大学での研究の奥深さや楽しさを体感できる絶好の機会となりました。
- 講演内容
-
第1部:名大准教授による最先端研究についての講演
第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
第3部:講演者や大学院生と参加者による懇談会
- 日時
-
2016年7月3日(日)14:00~16:00
- 会場
-
千種校
- 対象
-
中学生・高校生・高卒生と保護者の方
人工たんぱく質の開発と再生医療分野における今後の活用
●第1部:「再生医療を加速する工学:人工たんぱく質をつくる」
鳴瀧 彩絵(なるたき あやえ)准教授(化学・生物工学科 応用科学分野)
第1部では鳴瀧准教授に、再生医療の分野での利用が目覚ましい人工たんぱく質の開発についてお話いただきました。
鳴瀧准教授は冒頭で、名古屋大学工学部・大学院工学研究科の特徴についてお話くださいました。
名古屋大学は、世界を代表するものづくり産業の集積地にあり、中部地区の中心的な研究機関です。電気電子情報工学科には、2014年に半導体材料の分野でノーベル物理学賞を受賞された天野浩先生が所属しており、その他にも世界トップレベルの研究が多数行われている大学です。
また、平成29年4月に改組が行われる工学部・工学研究科は、基礎研究を重要視し、幅広い知識を習得してから自分の専攻を熟考できるようにするために、4年次に研究室の選択ができるようになると説明してくださいました。大学院では、1つの専門性を深めるとともに、横のつながりもあり、応用力のある人を育てる教育カリキュラムが組まれているとのことでした。
次に、鳴瀧准教授は自己紹介、そして進路選択について詳しくお話くださいました。
鳴瀧准教授は、高校~大学1年の頃、物理分野、化学分野ともに興味があり、どちらの道に進むか迷っていました。大学1年のとき、数学が苦手であったため、消去法で化学分野を選択しました。その後、大学2年のときには、工学部系の化学と理学部系の化学で迷い、進学ガイダンスに参加し、より魅力的なプレゼンテーションだった工学部を直感で選択されました。
鳴瀧准教授は参加者へ「消去法や直感での進路選択でも、縁のあるところで頑張れば、道は拓ける」と、ご自身の経験をもとにメッセージをくださいました。
続いて、講演のテーマである人工たんぱく質の開発についてお話いただきました。
鳴瀧准教授は、貝殻のできる仕組みを単純化して人工で真珠を作成する卒業研究を通じ、研究者というのは、「学生の立場であっても個人で勝負ができる、ある意味芸術家のような、自分の能力を試すことのできる職業」であると実感するとともに、人工物と生物の違いはなんだろうと考えるようになり、生物のことを学べば学ぶほどたんぱく質の魅力にとりつかれるようになりました。
たんぱく質はアミノ酸がペプチド結合で連結した直線状の高分子です。アミノ酸の組み合わせ次第で、無限のまったく新しいたんぱく質ができるのではないか、と想像力を掻き立てられたそうです。
人工たんぱく質の作製は、まずDNAを合成することから始まります。合成したDNAを、たとえば大腸菌の中に混ぜると、大腸菌が自らのDNAであると勘違いをし、新しいたんぱく質を作ります。最終的には大腸菌を破壊し、たんぱく質を回収・精製することで人工たんぱく質ができあがります。
次に鳴瀧准教授は参加者に、「エラスチンというたんぱく質を知っていますか?」という問いかけをされました。
エラスチンはコラーゲンの次に多い細胞外マトリクスたんぱく質で、伸縮性のある組織に多く含まれます。エラスチンは水に溶けないため取り扱いがとても難しく、これまで医学研究において有効活用がされていませんでした。
そこで、鳴瀧准教授は使いやすいエラスチンを開発できないかと考え、普段は水に溶けており、使いたいときにエラスチンファイバーを形成するエラスチンの開発に取り組みました。天然のエラスチン前駆たんぱく質に見られる法則性を分析し、それを単純化することで人工たんぱく質を作成することに成功しました。作製した人工たんぱく質は普段は水に溶けていますが、37℃に温めると自己組織化してナノファイバーを形成し、これは世界初の成果です。また、人工たんぱく質の利点は、配列を付加することによって、さらに機能を拡張していけるというところにあります。そのように分子を自分でデザインできるというのも、この研究のおもしろさのひとつです。
現在ニュースをにぎわせている再生医療とは、失われた組織や臓器を、幹細胞を使って再生する医療です。今後は、エラスチン人工たんぱく質を幹細胞の3次元培養に利用し、肝臓のような大きな臓器や真皮を育てていくことを大きな目標として掲げています。
最後に鳴瀧准教授は、大学の研究を通して学ぶことについてお話くださいました。
卒論生は与えられた研究テーマに取り組むことで、課題解決の仕方を学び、修士課程では自ら提案した研究テーマに取り組みます。博士課程では「現状を分析する力」、「新しい価値の創成」、「論理的アプローチ」、「社会への発信」を学び、「個として生きる力を身につける」ことができます。
鳴瀧准教授は「自分を表現しながら社会で生きる力を大学で学んでほしいと思います。」と締めくくられ、参加者からは大きな拍手が送られました。
大学生活や研究内容を知り、将来の幅を広げる。
●第2部:大学院生による大学生活や研究についての講演
工学研究科 航空宇宙工学専攻 今井 健太(いまい けんた) 氏
環境学研究科 都市環境学専攻 安部 遼太郎(あべ りょうたろう)氏
第2部では、名古屋大学工学部に関連する研究科所属の2名の大学院生に、キャンパスライフや現在の研究内容をテーマにお話いただきました。
工学研究科 航空宇宙工学専攻 今井 健太 氏
今井さんは、ご自身の高校生活や大学進学後について、そして現在行っている研究内容や研究生活についてお話くださいました。
現在、修士課程1年の今井さんは、神奈川県出身で、高校1年から河合塾厚木現役館の高校グリーンコースに通われていました。また、高校時代はサッカー部に所属しており、高校1、2年の頃は部活中心の生活を送られ、部活がない日や部活が終わった後に、河合塾の自習室で勉強に取り組まれました。部活引退後は勉強に集中しつつも、勉強と息抜きに自分で決めたルールをつけ、メリハリのある生活を送るよう心がけていたそうです。さらに、「第一志望大学がすべてではない。選択肢は多くある」とあまり気を張り詰めないようにして受験勉強に取り組んでいたことをお話くださいました。
そして進路選択の際、神奈川から名古屋大学に来ようと思った理由を、「将来海外で働きたいという気持ちがあったこと、そのためには日本の強みである工業について深く勉強したいと思ったこと」であるとあげられました。名古屋大学工学部にはさまざまなコースがありますが、今井さんは大学2年時のコース選択で、航空宇宙工学コースを選ばれました。そのときは、工学の勉強はやりたいと思っていたものの、航空宇宙工学には興味も知識もない状態でしたが、コース選択ガイダンスで「航空宇宙工学コースに進めばいろいろなことができるようになるのではないか」とアドバイスをもらったことがきっかけで、現在のコースを選ばれました。
続いて、大学進学後の勉強についてお話くださいました。大学1年のころは語学や基礎数学、歴史学などさまざまな基礎知識、2~3年のときには専門的な知識、4年ではそれまで学んだことを活かして卒業研究に向けて研究を行っていたそうです。また、大学院進学を決めていた今井さんは、研究と並行して大学院入試の勉強もされました。
次に、現在研究されている内容についてご紹介いただきました。今井さんは、スポーツ分野や航空宇宙工学分野で最近注目されている「熱可塑性CFRP」という材料について研究されています。具体的には、CFRPを超音波によって接合するという研究をされており、この熱可塑性CFRPが自動車の材料としても期待されていることから、名古屋大学内でさまざまな企業の方と協力をして実験を行っているそうです。一見難しそうな研究生活や内容も、参加者の皆さんにもわかりやすいよう、図やグラフで示しながらご説明いただきました。
最後に、大学1年と修士1年の時間割の違い、学部生の実験の様子、大学院での授業風景について、写真を用いて実際の大学生活のイメージがしやすいように説明してくださいました。
また勉強の話だけでなく、研究旅行、懇親会などのお話もしてくださり、他の学生たちとの親交、旅行、アルバイトなどのお話からは大学生活を楽しんいる様子がうかがえました。そして、「漠然でも良いので自分のやりたいことを持っていると良い。“やりたいこと”に近づくにはいろいろな道があるので、この大学だけがすべてではない。視野を広げ、選択肢を広く持って、後悔しないように努力し、日々の生活を大切にしてください」という今井さんからのエールに、参加者より大きな拍手が送られました。
環境学研究科 都市環境学専攻 安部 遼太郎 氏
現在、博士課程2年の安部さんは、自身の経験を踏まえて「人生何が起こるかわからないし、皆さんにはまだまだ可能性があるので、頑張って名大に入って一緒に勉強していきましょう」とメッセージを送るなど、終始、参加者との距離感を大切にしながら講演を行ってくださいました。
初めに、安部さんは、大学入学後から現在に至るまでの流れ、学部・修士課程・博士課程で何をやっているか、大学院で行っている研究内容について説明してくださいました。安部さんは、もともと高校生のときも、理系専攻だったにもかかわらず数学が苦手で、むしろ国語が得意だったそうです。学部時代に世界史に興味があり、西洋建築に魅力を感じ、建築家になりたいとも考えていたのですが、設計・製図の勉強に向いていないということがわかり、大学2年のときに構造力学を研究している研究室に入られました。その後、大学院の修士課程に進学し、研究を続けていくうちに、もっと研究を続けたいという気持ちが強くなり、決まっていた就職も取りやめて博士課程に進まれました。写真を用いて、時には冗談を言いながら紹介してくださったので、参加者の皆さんも和やかな雰囲気のなかで関心を持ちながらお話を聞いている様子でした。
続いて、安部さんの研究内容の詳細についてお話いただきました。現在、安部さんは剛体に挟まれた力学モデルを押したときのメカニズムを解明する研究を行っているそうです。その実験の内容や様子、活用例などを参加者の皆さんにもわかるように、写真を使って詳しく、丁寧に説明してくださいました。
そして、工学系の研究は三本の柱「理論・実験・数値解析」から成り立っていること、何のために研究を行っているのかをお話くださいました。また、参加者の皆さんへ、「今後研究者になろうと考えているのであれば、“人類の文化的発展のため”に研究を行うということを肝に銘じておくと良いと思います」とアドバイスをしてくださいました。
最後に、名古屋大学の魅力について、「名古屋大学は自由な学風が魅力であること。その学風があることで、国の役に立つようないろいろな研究ができ、ノーベル賞受賞につながっているのではないか」とお話しされました。そして、参加者の皆さんへのエールとして「名古屋大学は良いぞ!」という言葉をお伝えされ、参加者からは大きな拍手が送られました。
専門分野をより深く、興味と経験・知識の交換会。
●第3部:講演者と参加者による懇談会
第1部、第2部の終了後、鳴瀧准教授と大学院生2名はそれぞれのコーナーに分かれ、参加者との懇談会が行われました。
鳴瀧准教授の周りに集まった参加者に、「質問がある方」と声をかけると、次々と手が挙がりました。直接講演の内容について問う質問もあり、参加者の方の熱心さが伝わってきました。
「農学部の応用生命科学科と工学部の生物・工学科の違いを教えてください」
農学部については詳しく言えませんが、生命現象を理解し、利用するところに重きをおいています。工学部の生物・工学科では、化学と生命を融合した研究だけではなく、有機合成の開発や、無機材料、たとえば燃料電池に関してなども研究していて、選択肢の幅が大変広いです。有機・無機・生物すべて関わるので、研究室を選びやすいのではと思います。
「日本の大学と海外の大学の研究環境の違いを教えてください」
研究室にもよるかと思いますが、日本では研究室に配属されると先生や先輩が研究のイロハを丁寧に教えてくれることが多いです。それに対してアメリカでは自立性、自主性が求められ、本人が積極的に質問しない限り、周りがお膳立てしてくれることはあまりありません。アメリカでは、受け身の姿勢でいると何も得られず、本人がどんどん動くことが必要だと感じました。
「お勧めの受験勉強は?」
苦手科目はしっかりやりましょう。得意科目ばかり勉強するのではなく、まんべんなく勉強しましょう。
「コラーゲンは食べたり、貼ったからといって肌に良いわけではないと言われていますが、どう思いますか?」
確かに分子量の高いコラーゲンだと肌に吸収されないと思います。ただし、研究は真面目にされています。たとえば、すごく短いポリペプチドを食べ続けると、肌の張りはわかりませんが、骨粗しょう症に全く効果がないわけではないようです。
「工学部の改組について教えてください」
基礎学力が足りない学生が多いということがあり、十分な基礎力を備えて活躍できる人材の育成のため、1~3年生で基礎教育をし、研究室配属を4年生で選択します。大学院では、研究室ローテーションのプログラムもあります。
学部学科についての話から、専門的な質問まであり、幅広い層の方が参加されていることがうかがえました。
大学院生のお二人には、参加者から「工学部でも留学できますか」「第二外国語は何を学んでいましたか」「修士課程と博士課程の違いを教えてください」「博士課程の大変さは何ですか」「就職状況について教えてください」など多岐にわたる質問があり、予定時間を過ぎても参加者からの質問が尽きない中、お二人は一つひとつの質問に丁寧に答えてくださいました。
参加者の皆さんにとっては、大変有意義な時間となりました。